◇ ◇ ◇
昼下がりのアライシティ。屋台が並ぶ通りはランチを楽しむ労働者達で賑わっていた。大型トレーラーほどの背丈がある作業ロボ・ソラマメを、注意深く進めるマヨの隣をレトリバーの料理長・マロンナが付いて歩く。
「むむ……思ってたより街がピンチ! みたいな感じはしないですね」
ソラマメのスピーカーからマヨの声。
「まあ一企業のトレーラーが使い物にならなくなった、ってぐらいじゃあ街中大騒ぎにはならないだろうねぇ」
マロンナは屋台を指さして、マヨに「
「ああ、ユニバーサっていうデカい店だろ? 早くも噂話流れてるぜ。配達トレーラーのAIが狂ったのはさ、社員が電子メールに添付されていたウィルスプログラムを開いちまったのが原因だって。ドジだよなぁ」
「いやぁ、私はバカに出来ないよ。ああいう難しい機械はからっきしでさ」
マロンナは指についたサルサを舐める。
「もぐぐ背後に巨大な悪の組織が……!」
開いたコックピットに座ったまま、タコスを頬張り興奮して話すマヨの口の周りはサルサだらけになっている。マロンナは彼女に紙ナプキンを手渡した。
「ハッハッハ、そうかもしれないねぇ。それに――まだ何か起こるような気がするんだよね」
「予言ですか!?」
「女の勘ってヤツかな?」
マロンナはマヨから紙ゴミを受け取ると自分のゴミと
「さ! そうなるかどうかわからないけど、早く用事済ませないとね! ユニバーサはすぐそこだから、まずは正門で
◇ ◇ ◇
「なんかすんなり行かせちまったな……」
レトリバーの格納庫でコイカルのコックピットに座るニッケルが呟いた。
「行かせちゃったねぇ……なんかああいう時のマロンナおばさんってこう、変に断れないオーラが出ているっていうかさ」
同じくコイカルのコックピットに座るリンコがスピーカーから聞こえてくるニッケルの声に返した。
「……やっぱマジなのか? おばさん、昔は
計測用の機器類を
マロンナがマヨに付いていくという提案を受け、承諾した三人は脳波コントロール機能のテストの準備を進めていた。普通の子供のお守りであれば何も問題はないであろうが、傭兵の一味が預かる記憶喪失の少女だ。加えて用事の内容はビッグスーツの武装の回収。その護衛が厨房のスタッフというのは、常識的に考えれば不安しかない。
それでも三人がマロンナの提案を受け入れてしまったのは、「マロンナは昔、凄腕の傭兵だった」というレトリバーのクルー達の間で出回る噂と、それを裏付けるようなマロンナの言動が
「私も噂が本当なのかは知らないんだけどさ、外で銃声が聞こえた時にその銃の型式当ててたことがあったんだよねぇ。思わず口に出しちゃったみたいで、本人は慌てて誤魔化していたけど」
「俺ぐらいガタイのいい空き巣狙いを一人で捕まえてた事があったな」
「落ちそうになった卵を足で割らずにキャッチしてたことがあったぞ」
やっぱりマロンナの噂は本当なのか? 三人はそれぞれ見聞きしたことを口に出して、少し沈黙する。
「……行かせちゃったねえ」
リンコは会話の最初に口にした言葉を繰り返す。
「まあそこまで治安の悪い街じゃねえんだし大丈夫だろ。次からは気を付けるとして……」
「よし、調整終わり! 二人ともギアを頭に付けてくれ」
タックがそう言うとニッケルとリンコはヘッドホン状のギアを頭に装着した。
◇ ◇ ◇
「ンアー! まゆりんの解釈違い!」
薄暗い室内、デスクトップコンピューターのモニターの前で、太ったメガネの青年、タクオ・ナードが裏返り気味の声を上げる。
モニターには
「アー、この前撒いたウィルス……あまり騒ぎになってねぇ! クソ政権……」
タクオは苛立ちながらパソコンを操作し、何かのアプリケーションを起動させる。パスワードの入力フォームが画面に表示された。
「ンフ! あれやるかあ!」
タクオはニチャァと邪悪な笑みを浮かべた。
(たぶんはじめてのおつかい③へ続く)