【前回のあらすじ】
ツツミシティにて、レトリバーの
辛くも撃退に成功するも、カリオ・ボーズは重傷を負い、ニッケル・ムデンカイとリンコ・リンゴはビッグスーツの武装を失ってしまった……!
◇ ◇ ◇
アライシティ、居住区。
「ドゥフフ、ざまあ! ミチぽんはそんなこと言わない!」
薄暗い室内、デスクトップコンピューターのモニターの前で、太ったメガネの青年が裏返り気味の声を上げる。
モニターには
アライシティには他に四つの街と繋がる独自の情報通信ネットワークが構築されている。青年の利用している匿名掲示板も、そのネットワークによって利用できるようになったものだ。この掲示板であれば、顔と名前を明かさずに、遠くの他人とも会話・議論が行える。
タクオ・ナードは、周囲から見れば大人しく真面目な青年であったが、この通信ネットワークを利用している時は
顔と名前がバレない、というのはそれほどまでに人を強気にさせるものなのだろうか。タクオはネットワーク上で気に入らない人物を見かけると、
「アァー、イライラする。社会が悪い」
だが気に入らないからといってそんな行動を日常的に繰り返しても、心が穏やかになるわけがない。どんなに上手く相手を懲らしめてもモヤモヤしたものが残るばかり、更に言うと返り討ちにあって自分が酷い目にあわされることも多い。
「ンフ! そうだ! あれやるかぁ!」
そんな荒んで、淀んだ心がタクオをまた悪意に満ちた行動へと走らせる。タクオはデスクトップコンピューターをキーボードで操作する。モニター上で動いているのは電子メールソフトウェア。タクオはマウス状のポインティングデバイスで、
◇ ◇ ◇
アライシティ、地上艦停泊所。
ツツミシティでユデンの強盗団と戦ってから少し経つ。地上艦「レトリバー」は燃料・食料等の補給と、先の戦闘で破壊されたビッグスーツ用の装備の調達で、この街を訪れていた。
「脳波コントロール機能の、動作テスト?」
食堂。ホットドッグを食べながらリンコ・リンゴは間の抜けた顔を見せた。
「不具合が無いか見ておきたいんだ。カリオのクロジに比べたら機体の損傷は軽微だけど、アレだけの戦闘の後だったし、念のためな」
リンコとニッケル・ムデンカイの座るテーブルの前で、チーフメカニックのタック・キューがマグカップ片手に立ちながら話す。
「お願いしたいところだが、時間はいつ頃だ? 俺たち街に発注した装備を取りに行きてえんだ。例のトラブルの事は聞いたか?」
ニッケルの返事にタックは「あ」っと思わず口に出した。
「AI管理車両の不具合だったっけ? 店の奴らは自分で運転して運んでくれねえのかよ?」
「もう運送の大部分を自動化していたらしくて、人が運転できるトレーラーが全然足りないんだって。向こうも必死でお客さん達に運んではくれているらしいんだけど、私達の分はだいぶ遅れそうなのよね」
ホットドッグを頬張りながら話すリンコに、ニッケルがコーヒー片手に続ける。
「というわけでだ、こっちから取りに行けば時間短縮できるんじゃねえかなと思ってな。レンタルトレーラーがあれば借りるか、可能ならビッグスーツの入場手続き取らせてもらうか……」
「方法はこれから考えるのかよ!? でも確かに、そっちも早いとこ済ませたいよな……」
タックは
傭兵を
新規の武装はもちろん早く手に入れたい。だが脳波コントロールのテストも
(カリオ機の
「ん! ん!」
タックの腰の下の辺りから声がした。見るとマヨが自分を指さしてアピールしている。
「私のソラマメでいけるんじゃないですますか? 暇です! ミッションミッション!」
タックはため息をついた。
「いや……流石にマヨ、おまえ一人で行かせたら危ないだろ。俺ら保護責任者なんたらで拘束されちまう」
今、寄港しているアライシティに保護責任者なんたらがあるのかはわからないが、見た目年齢五、六歳の少女にこのような用事を任せるのは不安だ。しかもマヨ・ポテトに関しては出自・経歴がわからないという重大な懸念がある。予想を超えたトラブルに巻き込まれる可能性が否定できない。
「んじゃ、私が
タックは後ろからした女性の声に反応して振り返った。ふくよかなエプロン姿の女性が立っている。
「え? マロンナおばさんが?」
マロンナは笑顔で頷いた。
(たぶんはじめてのおつかい②へ続く)