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金色の略奪者⑤




 ◇ ◇ ◇




 ガシャ……ガシャ……


 艦へ帰る途中のはずのマヨは、ソラマメで散乱する瓦礫がれきをせっせとどかしていた。同行しているタックがその様子を見守る。普通に考えれば寄り道せずに艦に真っ直ぐ戻った方がいい状況に間違いない。それでも不思議な直感が、目の前の瓦礫の下に埋もれるモノの正体を暴けと二人をつき動かしていた。


「……お? おお……」

「で、出てきたな……」


 瓦礫の下から出てきたのは、特徴的な赤い銃身を持つ重火器であった。二十メートルを超えるかというくらいの大きさの銃身の根本近くに操作可能なタッチパネルが付いている。


 マヨはソラマメから降りると、タックと一緒にタッチパネルへ近づく。大人の腰ほどの高さにあるタッチパネルを、マヨは近くの瓦礫を持ってきて踏み台にして覗き込んだ。


「ツツミ・レッド・サンダーMK-Ⅲ……?」


 二人はタッチパネルに映し出されたロゴを声に出してゆっくりと読んだ。


「……」

「おい、まさか……」


 マヨはゴクリと唾を飲み込んで、タッチパネルに表示されているアイコンの内の一つをタッチする。


 ブォン!


「ひぃ!」


 突然、タッチパネルの横のくぼみから、小さなドローンが飛び上がった。


「ビビらせやがってですよ……」

「ビビらせやがって……」


 ドローンはかなりの高さまで上昇していく。一方、タッチパネルにも変化が見られた。恐らくはドローンが撮影している映像だろう、上空から見えるツツミシティの景色がディスプレイに映し出された。


「なんだ、どういう兵器なんだこれ?」

「これイジるとズームできそうですますよ!」


 マヨは画面上のスクロールバーをタッチしてスライドさせる。カメラは自動的に動く物体をロックし、そちらへズームインする。見えてきたのはカリオやユデン達の戦闘の様子だ。


「うおおお! これカリオとニッケルとリンコじゃないですか!? 速すぎてよくわがんねえですけど!」

「うわぁなんか派手な色の奴らとガッシガッシしてんな……速すぎてよくわかんねえけど」


 二人は自分達の状況も忘れて高速で動き続けるカリオ達の戦いを見守る。


「……速すぎまする。ここタッチしたらなんか変わんないですかね……」


 マヨは画面上の別のアイコンをタップする。


 ピピピ!


 タッチパネルが電子音を発すると、画面に映し出されたユデン達のビッグスーツが赤い四角のマークで囲われた。


「ぬお!?」

「なんかヤバくないかそれ!? 戻せねえのか?」


 慌てる二人をさらに慌てさせる衝撃映像が飛び込む。画面にはカリオのクロジがユデンのハオクの斬撃をもろに受ける様子が映し出された。


「おわああああカリオォオォオオ!!」 

「おわああああカリオォオォオオ!!」


 二人は身を乗り出して画面をのぞき込んだ。


 その時である。ポチッとした感覚がタックの右手に伝わる。タックが右手を見るとそこには赤いスイッチ。タッチパネルのそばに配置されているのを誤って押してしまったらしい。


「あ」


 ブィイィイイイイン!!


 スイッチを押したせいか、目の前の巨大な重火器が轟音を上げて色々な所を光らせる!


「ひぃいいいい!?」


 マヨとタックは抱き合って怯えまくる。


 バキュゥウウウウン!!


「おわあああああああ!?」


 赤い銃身から赤い光が放たれて、物凄いスピードで飛んで行った!




 ◇ ◇ ◇




「がはっ……!」 


ハオクによって斬られたクロジの胸部は大きく裂けた。その隙間からはコックピット内で胸から大量に血を流し、うなだれるカリオが見えた。


「カリオ!!」

「……ッ!!」


 ニッケルとリンコが事態に気づくが、目の前の敵機を捌けずにいる。カリオのクロジは力なくその場で膝をついた。


「……勝負あったなぁ。じゃ、そいつは俺のモン――」


 ヒュン!


 カリオの方へ手を伸ばしかけたユデンの耳が、妙な風切り音を捉える。目に入ったのは赤い一筋の閃光!


「!!……ちょ……!!」


 閃光は真っ直ぐにタヨコへ向かっていく。気づいたタヨコは思わず振っていた大鎌を引き寄せ、身を守ろうとする。


 ガァン!


 閃光は大鎌を柄の中心から真っ二つにして破壊! 衝撃で後ずさりするタヨコ。


 ヒュン!


「!!」


 ユデンは驚きで目を大きく見開いた。謎の赤い閃光はタヨコの武器を破壊した後、瞬時に向きを変え、今度はユデン目掛けて飛んできたのだ!


(あ、これかぁ! ツツミ・レッド・サンダーMK-Ⅲってのはよ!)


 ユデンは大剣を構えるが閃光の方が速い!


 ガガァン!


 閃光は大剣を破壊すると同時にユデンの左肩に直撃! 痛みにユデンは苦悶くもんの声を上げる。


 ヒュン!


 またも向きを変える閃光。その先にはチネツ。


「……」


 チネツは無言で左腕のガトリングガンを縦一文字に振り下ろす。


 ガァン!


 閃光は上からガトリングガンに叩きつけられる。衝撃で破壊されるガトリングガン。一方、閃光は地面に衝突しめり込んだ。しばらく摩擦音を立てていたが、やがて赤い光は消え、それ以上攻撃を続けることはなかった。




「ユデン!」

「……」


 タヨコとチネツは目の前の敵機への攻撃をめ、ユデンへと近づく。


「ぐぅ……ハッハッハ、こいつはツイてねえな、痛え……」

「無理する理由はない。退くぞ」


 チネツは静かに低い声でユデンへ話しかける。


「ああ、ちょっとダセえが仕方ねえなぁ。おめえらの武器も何とかしねえとなぁ」


 タヨコのゼルディが何かを放り投げる。


 シュゥウウウ……


 円筒状のその物体は、地面に落ちると同時に大量の煙を撒き始めた。


「目くらましぐらいで逃がすか……ってクソ、ロックも効かねえ! 電波妨害までしやがんのか!」

「ねえカリオ! 応答して! 畜生!」


 視界とロックオンを妨害されるニッケルとリンコ。既にユデン達の姿は濃い煙に隠され、全く見えなくなっていた。


「……」


 カリオはかすむ意識の中で、二人の叫びを聞いていた。やがて煙が濃くなっていくにつれ、カリオの意識も暗い底へ落ちて行った。




 ◇ ◇ ◇




 ツツミシティを発ったレトリバーは草原地帯を抜け、以前とは別の荒野を進んでいた。




 マヨは医務室で眠るカリオを横で心配そうにじっと見ていた。




 タックと一緒に起動したツツミ・レッド・サンダーMK-Ⅲは、あの後何かの不具合か、煙を上げて壊れ、崩れ落ちた。


 艦に戻ると酷く緊張した空気が襲い掛かってきた。医務室で処置を受けるカリオ、激しく損傷したクロジ、疲労と苛立いらだちで顔を伏せるニッケルとリンコ。


 あれから少し経ったが、まだ空気はちょっと重いままだ。




余所よそ様に貸しを作るとか言っていたが、それどころじゃなくなってしまったな。全く、俺の判断ミスだ」


 上から降ってきた声にマヨが顔を上げると、カソックがいた。


「俺が見てるからご飯食べに行きな」


 マヨは頷くと、部屋の外へ出ようと駆けていく。扉から出る前に、一度ベッドの方へ振り返った。カリオは静かに眠っている。


 マヨは扉をゆっくり閉めて食堂の方へ向かっていった。




(金色の略奪者 おわり)

(たぶんはじめてのおつかいへ続く)

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