◇ ◇ ◇
大剣を受けているカリオのクロジの腕が震える。クロジよりやや大きい体躯のハオクは赤いツインアイを光らせ、ジリジリと大剣を押し込んでいく。クロジの足首が地面にめり込み、土がひび割れる。
「ぐぬぬ……!」
歯を食いしばり青筋を立てながら、カリオは大剣を自分の右側に徐々にずらしていく。
「ぐぬぬぬ……! ぬん!」
体と腕を
すぐに剣を構えるカリオ、だが相手の立て直しも早い。ユデンは地面を叩いた大剣を素早く構え直し、両者は斬撃を繰り出す。
逆水平! 横一文字! 逆袈裟!
両者の剣がぶつかり合う! 衝撃で二機のビッグスーツは地面を擦りながら後退した。
「へえ……へっへっへっへっへ、へえ~!」
ユデンは目を丸くして興奮する。
「おまえのその……ビームソード、すげえいいじゃねえか、すげえいい……」
「ぬ……?」
カリオはビームソードを構え、微動だにしない――というよりは出来ない。今さっきの攻防で感じていた。
「東のリーリー兄弟の作刀でも、南のゴロンガの作刀でもねえな。知らねえ奴の逸品だ……でもすげえいい品だ。さっきの撃ち合いでわかった。ああ、いい」
ユデンも動かずにいる。だがこちらは今にも襲い掛かってきそうな、地に伏せる肉食獣のような圧を放っている。
「お前も普通の傭兵じゃねえな、いい奴に剣を教わってやがる。そう、お前みたいな強い奴に
ユデンは興奮を理性で抑えつけながら話す。
「――俺がおまえを殺してそれをいただく。俺の方が強いことを証明してだ」
「待てい、勝手に話進めんな」
カリオは口を開いて問う。
「この街の有様はおまえらの仕業だよな? 元々何が目的で襲いやがった?」
「そら
ユデンは悪びれもせず言い放った。
「〝ツツミ・レッド・サンダーMK-Ⅲ〟。粒子を纏った一発の弾丸で複数のターゲットを攻撃できる新兵器というか……なんだ? ミサイル? いやちょっと違うかもしれん……まあいいや、とにかく派手に強いお宝が眠っていると聞いてな!」
「一回目の襲撃で奪えなかったっつうことか」
「それよ! もう街の外に運び出されたんだと勘違いしてしまってな! 輸送部隊を派手に襲っちまったが完全に無駄足だったぜ……アレはアレで金目のモノが色々あったが。そんなわけで戻って来てもう一回
カリオのビームソードを握る手に力がこもる。五十機以上の人型兵器を難なく倒す凄腕の盗賊。正規の依頼や賞金首でなくとも、野放しにしておけばいずれ取り返しのつかない事になる。戦って倒す以外の選択肢はない。
周囲の傭兵達は完全に
……! ……!
両者睨み合う中、何か音が近づいてくる。
……ド……! ドド……!
ユデンを囲む傭兵達は、音の正体を確かめようと周囲を見回す。
ドド……ド……ドド……!
ドドドドドドドドドドドドドド!!
ガガァアン!!
「なんだ!?」
「うわ!」
突如瓦礫が吹き飛び、四機のビッグスーツが飛び込んできた。周囲の傭兵達は思わず飛び退く。
ニッケル・リンコ・タヨコ・チネツの四機だ。激しい戦闘によってここまで移動してきたのだ。
(……! カリオ無事だったんだ)
(あの金色も敵だなありゃぁ……!)
ヴォンヴォンヴォンヴォン!
タヨコは高速で大鎌を振り回す。戦い慣れていない者であれば知覚するのが困難な程の乱撃を、リンコは二丁のビームピストルの正確な射撃で、軌道をずらしながら回避し続ける。
ガガガガガガ!
チネツのレギュラの左腕に装備されているのは……ガトリングガン! 音を立てながら回転し、ニッケルに向かって連射される。ニッケルは連射を躱しながら、負けじとチョークとビームライフルで撃ち返す。が、チネツも難なく避けていく。両者譲らぬ射撃の応酬となっていた。
ガシャン!
「!」
唐突に発せられた機械音に、カリオは慌てて飛び退く。四機の乱入によって沈黙が破られると同時に、ユデンが動いたのだ。ハオクの装備している大剣が変形し、銃身が現れる。
バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!
ビームライフルへと変形した大剣から連続でビームが放たれる。カリオはステップを繰り返し、回避していく――が、一発は回避が間に合いそうにない!
カリオは
正面から大気の揺れを感じる。カリオが急いで視線を前方に戻すと、ユデンのハオクがビッグスーツの腕一本分の距離まで急接近していた!
逆水平!
ユデンは大剣で右から左へ横に薙ぐ! カリオは腰を落とし、紙一重でこの斬撃を躱した。すぐに上方へ反撃の剣を繰り出す!
逆真っ向!
ユデンは左横に剣を振り抜いた姿勢のまま、地面を後ろに強く蹴りその方向へ回避しようとする。カリオの斬撃が右上腕を掠めていく。
「ちぃ!」
コックピットのユデンの右腕に一筋の傷が入り、出血する。だが彼は痛みを感じながらも集中を切らさない。
ユデンは即座に左腕に大剣を持ち替えた。そのまま即座に上から振り下ろす!
「!!」
剣を振り上げた態勢のカリオは防御行動が間に合わない――
――ズバァン!
ユデンの大剣はカリオのクロジの胸部を斬り裂いた。
(金色の略奪者⑤へ続く)