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金色の略奪者④




 ◇ ◇ ◇




 大剣を受けているカリオのクロジの腕が震える。クロジよりやや大きい体躯のハオクは赤いツインアイを光らせ、ジリジリと大剣を押し込んでいく。クロジの足首が地面にめり込み、土がひび割れる。


「ぐぬぬ……!」


 歯を食いしばり青筋を立てながら、カリオは大剣を自分の右側に徐々にずらしていく。


「ぐぬぬぬ……! ぬん!」


 体と腕をひねり、右に大剣を滑らせ、捌く。大剣は勢いそのまま、地面を叩きつける。


 すぐに剣を構えるカリオ、だが相手の立て直しも早い。ユデンは地面を叩いた大剣を素早く構え直し、両者は斬撃を繰り出す。


 逆水平! 横一文字! 逆袈裟!


 両者の剣がぶつかり合う! 衝撃で二機のビッグスーツは地面を擦りながら後退した。




「へえ……へっへっへっへっへ、へえ~!」


 ユデンは目を丸くして興奮する。


「おまえのその……ビームソード、すげえいいじゃねえか、すげえいい……」

「ぬ……?」


 カリオはビームソードを構え、微動だにしない――というよりは出来ない。今さっきの攻防で感じていた。まばたき程の隙を見せてしまえば、その一瞬でやられる。


「東のリーリー兄弟の作刀でも、南のゴロンガの作刀でもねえな。知らねえ奴の逸品だ……でもすげえいい品だ。さっきの撃ち合いでわかった。ああ、いい」


 ユデンも動かずにいる。だがこちらは今にも襲い掛かってきそうな、地に伏せる肉食獣のような圧を放っている。


「お前も普通の傭兵じゃねえな、いい奴に剣を教わってやがる。そう、お前みたいな強い奴に相応ふさわしい名刀だ。いい品は強い人間の下にあるべきなんだ。そうだろう、なあ。だから――」


 ユデンは興奮を理性で抑えつけながら話す。


「――俺がおまえを殺してそれをいただく。俺の方が強いことを証明してだ」




「待てい、勝手に話進めんな」


 カリオは口を開いて問う。


「この街の有様はおまえらの仕業だよな? 元々何が目的で襲いやがった?」

「そら勿論もちろん、強盗よ」


 ユデンは悪びれもせず言い放った。


「〝ツツミ・レッド・サンダーMK-Ⅲ〟。粒子を纏った一発の弾丸で複数のターゲットを攻撃できる新兵器というか……なんだ? ミサイル? いやちょっと違うかもしれん……まあいいや、とにかく派手に強いお宝が眠っていると聞いてな!」

「一回目の襲撃で奪えなかったっつうことか」

「それよ! もう街の外に運び出されたんだと勘違いしてしまってな! 輸送部隊を派手に襲っちまったが完全に無駄足だったぜ……アレはアレで金目のモノが色々あったが。そんなわけで戻って来てもう一回ながら探そうと思ってな!」




 カリオのビームソードを握る手に力がこもる。五十機以上の人型兵器を難なく倒す凄腕の盗賊。正規の依頼や賞金首でなくとも、野放しにしておけばいずれ取り返しのつかない事になる。戦って倒す以外の選択肢はない。


 周囲の傭兵達は完全に気圧けおされていた。武装と人数で言えば圧倒的に彼らの方が有利だ。それでも、彼らは撃てずにいる。この金色の機体に向かってトリガーを引いた時――この膠着状態を終わらせた時、何が起こるかわからないという恐怖が彼らを硬直させていた。




 ……! ……!




 両者睨み合う中、何か音が近づいてくる。




 ……ド……! ドド……!




 ユデンを囲む傭兵達は、音の正体を確かめようと周囲を見回す。




 ドド……ド……ドド……!




 ドドドドドドドドドドドドドド!!




 ガガァアン!!




「なんだ!?」

「うわ!」


 突如瓦礫が吹き飛び、四機のビッグスーツが飛び込んできた。周囲の傭兵達は思わず飛び退く。


 ニッケル・リンコ・タヨコ・チネツの四機だ。激しい戦闘によってここまで移動してきたのだ。


(……! カリオ無事だったんだ)

(あの金色も敵だなありゃぁ……!)


 ヴォンヴォンヴォンヴォン!


 タヨコは高速で大鎌を振り回す。戦い慣れていない者であれば知覚するのが困難な程の乱撃を、リンコは二丁のビームピストルの正確な射撃で、軌道をずらしながら回避し続ける。


 ガガガガガガ!


 チネツのレギュラの左腕に装備されているのは……ガトリングガン! 音を立てながら回転し、ニッケルに向かって連射される。ニッケルは連射を躱しながら、負けじとチョークとビームライフルで撃ち返す。が、チネツも難なく避けていく。両者譲らぬ射撃の応酬となっていた。




 ガシャン!


「!」


 唐突に発せられた機械音に、カリオは慌てて飛び退く。四機の乱入によって沈黙が破られると同時に、ユデンが動いたのだ。ハオクの装備している大剣が変形し、銃身が現れる。


 バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!


 ビームライフルへと変形した大剣から連続でビームが放たれる。カリオはステップを繰り返し、回避していく――が、一発は回避が間に合いそうにない!


 カリオは咄嗟とっさにビームソードの刃で飛来するビームを受ける! 青白く光る刃は着弾した点を中心に揺らぐ……!


 正面から大気の揺れを感じる。カリオが急いで視線を前方に戻すと、ユデンのハオクがビッグスーツの腕一本分の距離まで急接近していた!


 逆水平!


 ユデンは大剣で右から左へ横に薙ぐ! カリオは腰を落とし、紙一重でこの斬撃を躱した。すぐに上方へ反撃の剣を繰り出す!


 逆真っ向!


 ユデンは左横に剣を振り抜いた姿勢のまま、地面を後ろに強く蹴りその方向へ回避しようとする。カリオの斬撃が右上腕を掠めていく。


「ちぃ!」


 コックピットのユデンの右腕に一筋の傷が入り、出血する。だが彼は痛みを感じながらも集中を切らさない。


 ユデンは即座に左腕に大剣を持ち替えた。そのまま即座に上から振り下ろす!


「!!」


 剣を振り上げた態勢のカリオは防御行動が間に合わない――




 ――ズバァン!




 ユデンの大剣はカリオのクロジの胸部を斬り裂いた。 




(金色の略奪者⑤へ続く)




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