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金色の略奪者①

 夜の草原。


 赤い炎を立ち上らせる幾つもの巨大な金属の塊。黒い煙と揺らめく炎は神々しさよりも禍々《まがまが》しさを強く感じさせる。溶けて形が変わり、黒くなった金属塊は何者かの墓標のように見えた。


 金属塊の正体は複数の地上艦とビッグスーツであった。幾つかの残骸から負傷した人間達がい出て、この地獄から脱しようと覚束ない足取りで走り出す。


 その中に一人、作業服を着た男がいた。負傷した肩を抑えながら、ぜえぜえと荒く息をして走る。


 その目の前に突然、巨大な金属の塊がドスンと上から降ってきた――ビッグスーツの足だ。


「ひい!」


 作業服の男は尻餅をついて悲鳴を上げる。


 そのビッグスーツのコックピットが開く。中からブロンドのショートヘア、緑の瞳を持った男が現れ、眼下を見下ろす。


「弱ぇなぁ……弱い弱い弱い。……ああ、これはよくねえ」


 男は視線を横に移す。丸い扉にハンドルの付いた、如何いかにもな

巨大な金庫が残骸の中に紛れている。地上艦に積まれていたものか。


 ブロンドヘアーの男はビッグスーツのコックピットがある胸の辺りから飛び降りて、作業服の男の目の前に着地した。そのまま彼に顔を近づける。


「ダメだ、よくねえ……おめえらみたいな弱い奴らが、あんないいもん持ってるのはよくねえ」


 ブロンドヘアーの男は、体を震わせる作業服の男の髪を掴んで頭を持ち上げる。作業服の男の目は、燃え上がる炎の向こう側に、更に三機のビッグスーツの影を捉えた。


「だから教えてくれよアレの開け方。俺より強い奴が奪いに来るまで俺が持ってるからさ」




 ◇ ◇ ◇




「どうなってんだありゃぁ……」


 地上艦「レトリバー」のブリッジには沢山のクルー達が集まっていた。皆、そこから前方の街を見つめている――煙と炎が上がるツツミシティを。


 補給を行う為にその街を訪れようとしていたレトリバーだったが、ただごとではない街の様子にブリッジはざわつく。


 通信士と話していた艦長のカソック・ピストンがクルー達の方を向いて片手をあげる。気づいたクルー達は一斉に静まり返る。


「……ツツミシティの守衛と連絡が取れた。治安部隊は壊滅状態、死傷者は確認できただけで百三十四名、これから更に増える模様。現在救援を近隣の街に要請中とのこと。タダ働きになりそうで悪いが、これから他の街の救援が到着するまでの二時間、我々で救援活動とビッグスーツによる警備を行う。ここは一つ、貸しを作るとしよう」


 カソックが指示を出すと、ブリッジは再びざわついたが、すぐに各自が持ち場へと向かっていった。


「こんなゴタゴタに巻き込まれるの久々じゃねえか? えらいことになってやがるぜ」


 想定外の状況の中でも快活に笑って見せるニッケル。その横でマヨはカリオの足にしがみつきながら不安げな様子だ。


「おい、離れろ……なんだどうした?」

「街がボロボロです、大丈夫なのですか……ヤバいの、世界の危機起きますか?」


 煙と火を上げる街を見るマヨの頭の上に、カリオはポンと手を乗せる。


「心配すんな、別に怪獣やらなんやらが襲ってくるわけじゃねえ。おいタック! 俺らが出てる間、マヨを見といてくれ!」

「待て、俺らだって暇じゃ――おいカリオ!」


 チーフメカニックのタック・キューの叫びを無視して、カリオはマヨの頭を雑にわしゃわしゃと撫でると、ブリッジを離れた。




 ◇ ◇ ◇




 ビッグスーツに乗った傭兵達と、工具や物資を担いだクルー達は、間近で街の光景を目にして改めて息を吞んだ。


 倒壊した数十の建物、地面に転がる五十機以上の治安部隊のビッグスーツや人型戦車(ビッグスーツより前の世代の二足歩行兵器)の残骸。一帯が瓦礫の山と化した惨状は何も知らなければ大きな自然災害の仕業と思ってしまう程のものだった。


 だがツツミシティの住民と話をすると、そうではなく人の手による破壊らしい。驚くべきことにこれだけの被害を出したのはたった四機のビッグスーツなのだという。


 更に被害はこの街だけに留まらない。近隣を移動していた、地上艦数隻で構成された輸送隊も全滅させられていた。


「……尋常じゃねぇなオイ」


 コックピットで脳波コントロールをオフにした状態で待機するニッケルは、通信機越しに他のクルーの会話を聞いている。リンコも別の方角を見張りながら同じように待機している。


「まだ犯人捕まってないんだよね? これだけ派手なの、そうポンポン起きてほしくないんだけどなぁ……」


 辺りにはレトリバー以外にも、地上艦とビッグスーツを使い支援を行っている集団が二、三組いた。この街との交流が深い傭兵か私設軍隊の類だろう。


「なあ」


 カリオが二人に通信機越しに声をかける。


「レーダーになんか映ってる」


 ニッケルとリンコもレーダーを確認する。近づいてくる四、五つ程の小さな影。


「他の街の救援?」

「いや――早すぎる、まだ一時間経ってないぞ」


 三人は全員、ビッグスーツの脳波コントロールをオンにした。


「ブリッジ、こちらニッケル。 西方から近づいてくる機影を確認している……そっちも把握してるか……ああ、ああわかった……外に出ている人員を避難させるそうだ。俺達は戦闘準備。戦闘になるかはわからんが……」

「う~こんなヤバそうな事態、やっぱ報酬が欲しいよぉ……」


 リンコはスナイパーライフルを手に取る。カリオもビームソードの柄に手を掛け、西の方角を見据える。




 ◇ ◇ ◇




「うおおおお! ふんすふんす!」


 作業ロボ「ソラマメ」が倒壊した建物の瓦礫をどかす。寸断されていた道路がなんとか通行できる形になった。ソラマメを操縦しているのはマヨだ。


「よっしゃ、これで被害の少ない街の反対側と行き来できるな! ……ん、なんか通信来てる、おうタックだ……避難?……マジか、うん、ああ、わかったそれじゃ」


 タックは携帯通信機での通話を終えるとマヨを大声で呼ぶ。マヨはソラマメをタックの方に向かって歩かせ、会話できる距離まで近づいた。


「よくわかんねーけど、一旦艦内に避難だってよ。とりあえずカリオに会ったらソラマメには乗ってなかったことにしてくれ。勝手にマヨを外に出して、手伝わせたって知られたら、多分俺怒られちまう」

「よいしゃー!」


 マヨは敬礼するとレトリバーに向かってのしのしと歩き始めた。




(金色の略奪者②へ続く)


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