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極秘書物を奪還せよ!⑥




 ◇ ◇ ◇




 ――翌日、レトリバー格納庫。モーターや金属を叩くような音などが騒がしく響く。


 ワタゲ・フワーリより依頼された任務は成功。格納庫は帰投した三機のビッグスーツの修理・整備で忙しい様子だ。


「あの三人は?」


 壁際で喫煙して休憩を取るメカニックの一人が、隣で同じく休憩しているタックに聞いた。


「医務室に引きこもってる。しばらく起こさないでくれって」

「そりゃあ随分だな」

「ビッグスーツ戦の後そのまま生身で突入、三十人の盗賊ともう一戦交えてヘトヘトなんだってよ。イジり――もといお見舞いに行ったらさ、すげえ怖い顔でベッドからにらまれたからさっさと退室したよ。」


 タックは炭酸飲料を一口飲むと続けた。


「しかし書物盗んだ犯人が高額賞金首の『赤目のチャオ』だったらしくてよ。無事近隣の街に引き渡したから、依頼料だけじゃなくて賞金まで俺らのふところに入ったらしいぞ」

「マジで!?」

「この修理終わったらしばらくは優雅に過ごせるぜ!」


 休憩メカニックは灰皿に煙草たばこの灰を落とした。


「けどこれだけタフな感じの仕事になっちゃうとよ、書物の中身気になるよなぁ」

「学者先生の書物をなんで盗賊が盗むんだろうな? 売れるもんなんかそういうのって……んん?」


 タックの足に何かがぶつかった。


「ぶぉ……おお、タック! 暇です!」


 暇を持て余してその辺をうろちょろしていたマヨだった。


「マヨか、今はここ危ないから部屋戻ってろ」

「カリオ達がエロ本奪還ミッション成功したのに寝込んでて暇です!」

「エロ本じゃねえだろ!?」


 タックはひょいとマヨを担ぎ上げると、暴れるのも構わず上階へと運んでいった。




 ◇ ◇ ◇




 とある街。


 商業区域から離れた静かな高級住宅街にワタゲ・フワーリの邸宅はあった。夜にもなると僅かな街灯と住宅の窓から漏れる光のみとなり、プールと広い芝生のある庭は色を失って、昼に見られるような鮮やかな印象は与えない。


 ワタゲはソファに座り、テーブルの上にカーボンアタッシュケースを置く。レトリバーの傭兵たちが奪還したものだ。ケースを開けるとブックカバーの付いた小さめの書物が出てくる。犯人がこれを盗んだ理由はわからないが、どうやら中身を雑に扱うことはしなかったらしい。ワタゲはほっと胸を撫で下ろした。


「あら、無事に帰ってきましたのね」


 品位のある高齢の女性が、紅茶を入れたティーカップをテーブルの上に乗せた。ワタゲ夫人である。高級調度品で溢れたこのリビングルームでも霞むことのない優美な雰囲気を持った女性だ。 


「荒事の苦手そうなあなたが傭兵を雇うなんてよっぽど大事なのね。実際そうでもしないと取り戻せそうじゃなかったとは後で聞きましたけど」

「この本は特別なんじゃ……」




 ワタゲは書物のブックカバーを外す。中から出てきたのは――たわわなボディの若い女性のイラストが描かれた表紙である。




「えちえちユニバース第五十六巻・初版百冊限定版……!特別カラーイラスト四枚付属のお宝じゃ……!」

「それエロ本じゃありませんの!?」


 ワタゲは表紙の女性のたわわなボディを指でなぞる。


「マニアの間では数十万テリくらいの価格で取引されることもあると言われておるが……ワシはその何千倍も価値があると思っておる! このモミジちゃんの限定カラーイラストは見る者全てに幸福を運ぶ!」


 ワタゲ夫人は頭を抱えた。どうやら見知らぬ誰かが命を懸けて取り戻したのは夫のエロ本らしい。


「今日は私早く寝ますわ……ティーカップは自分で洗っておいてください」


 ワタゲ夫人はめまいを覚えながらエロ本を眺める夫をよそに、洗面台へ向かっていった。


(極秘書物を奪還せよ! おわり)

(メタル・ニンジャ・ショウタイムへ続く)



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