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極秘書物を奪還せよ!④




 ◇ ◇ ◇




 バシュゥ!


 ニッケルは右に飛びながら、シンのビッグスーツ目掛けてビームライフルを発射する。シンは華麗に即宙してこれを回避。ニッケルは飛んだ勢いそのまま、倉庫の陰に身を隠す。


 ブオン!


 シンの手から何かが飛び出す。それは円弧を描くように曲線の軌道で速く飛び、物陰に身を隠すニッケルを左側面から襲う。


 カン!


 ニッケルは左腕のシールドでこの攻撃を弾く。シールドには一筋の短い傷が生まれ、塗料が少し剥がれる。


「なんだそりゃ? ヨーヨーかよ……!」


 弾いた物体は宙を舞う。物体は円盤を二つ組み合わせたような構造で縁からは自在に薄刃を出し入れできるようになっている。その物体には超強度の繊維で出来た操作糸が繋がっており、その糸と円盤本体の飛行機能とを合わせる事によってコントロールする。実際のところヨーヨーと似た機構の武装であった。


 ブオン!


 もう片方の手からも同じヨーヨー型武装が飛び出す。長い糸をたるませ、倉庫の上方からニッケルのコイカルを切り裂こうと飛んでくる。たまらずニッケルは物陰から離れ、距離を取ってこれをかわす。


 シンは器用に本体の飛行と糸の巻取り機構を組み合わせて動かしながらヨーヨーを手元に戻す。


「避けるな、頸動脈斬らせろや」


 シンはコックピットで舌打ちを響かせる。


「参ったね。どう攻めようか」


 バシュゥ! バシュゥ! 


 ニッケルはシールドを構えた状態で、相手の両腕を狙いライフルで二発射撃する。 

 シンは空中へ飛び上がり難なく回避、アクロバティックに縦に回転しながら両手のヨーヨーを放つ。


 ニッケルは片方のヨーヨーをシールドで反らしつつ、体を捻り、もう一方のヨーヨーを回避する。


 ヨーヨーはニッケルの後方で戻り方向への飛行に動きを変える。ニッケルは対処しようとするがヨーヨーの方が速かった。右の上腕と膝下をヨーヨーの刃がえぐり、コックピットのニッケルの腕と足に傷が走った。


「チッ、我ながらドジった……!」


「まだまだ続けらあ」


 着地したシンは手首を返して、手元に戻ったヨーヨーを外側へ飛ばす。大きく広がったヨーヨーは水平横方向からニッケルを挟み撃ちするように飛ぶ。


 ニッケルは前進し、間合いを詰める。一発、両の腕を広げた形のシンにライフルを射撃する。


 バシュゥ!


 シンは体を捻り回避しようとするが、ビームは脇腹をかすめていく。


「このクソが」


 体を捻りながら、シンはヨーヨーをコントロールする。片方のヨーヨーは主の下へ戻り、もう一方のヨーヨーはニッケルに対して回り込む軌道を取る。そのままぐるりと一周し、ニッケルの左足を糸が絡めとった。


「マズい!」


 ヨーヨーは勢いそのまま足を引っ張っていく。耐え切れずニッケルの体が斜めに傾き、転倒しそうになった時であった。


 バシュゥ!


 ニッケルの背中から楔状の兵装が射出される。新たに装備した『チョーク』だ。


「クッ……」


 射出と同時にニッケルの頭を言いようのない違和感が襲う。ビッグスーツの脳波コントロールシステムは、機体の構成がパイロットの肉体と同じ二本の腕と二本の足を持つ、人間の体の構造と一致する場合にこそ最大限に直感的な操縦を実現できる。


 そこに別途、機体の四肢を介しての操作ではなく、直接パイロットによる操作が必要な物体を追加すれば違和感を覚えるのは必然である。故にマニュアルタイプの遠隔操作浮遊砲台はビッグスーツとは相性が悪いが、ニッケルは敢えてこれを使いこなそうとしていた。


「……ッ……!」


 ニッケルはチョークに意識を向けて、機体の左足に巻き付く糸を撃てる位置まで移動させていく。「手足が増えたような感覚」に慣れるまではまだ経験を積む必要がありそうだ。


 ドサッ!


 ニッケルはチョークを操作しながらそのまま転倒。射線上にヨーヨーの糸を捉えたチョークはビームを射出する。


 バシュゥ!


 放たれたビームはヨーヨーの糸を焼き切った。ニッケルは機体を浮遊させて起き上がり、すぐにもう片方のチョークを射出する。


「マジのマジでこのクソがよ……!」


 一つヨーヨーを失い、シンは怒りで額に青筋を立てながら、残ったヨーヨーを射出する。


「面食らう武器だが、り方わかったぜ!」


 ニッケルはヨーヨーの軌道を読みながら横にスライドし、当たるギリギリでヨーヨーを回避する。糸が自機のすぐ横を通過しているのを確認すると、ライフルを投げ捨て肩部からビームダガーを抜剣。そのまま糸を断ち切った。


「テメエー!!」


 両手のヨーヨーを失ったシンは、腰の高熱実体剣ヒートソードを抜き、両腕で振りかぶりながら突撃してくる。


 ガキィン!


 振り下ろされたヒートソードをニッケルはダガーで受け止める。


「剣の使い方はヨーヨー程上手くねえみてえだな!」


 ニッケルの背後から二機のチョークが飛んでくる。それは素早く上空からシンのビッグスーツに狙いを定めるとビームを射撃した。


 バシュゥ! バシュゥ!


 一発はシンのビッグスーツの頭、もう一発は胸のコックピット部に着弾し、貫通した。シンのビッグスーツは握っていたヒートソードを地に落としたかと思うと、バランスを崩し、斜めに力なく倒れた。


「よし」


 ニッケルはチョークを操作して再び機体の背中にマウントする。機体を安定させ、一旦視線と音声による操作で脳波コントロールをオフにすると、額の汗を拭った。


「……新兵器に関しては六十点ぐらいか、今日のところは」




(極秘書物を奪還せよ!⑤へ続く)




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