王都花街は夜の街。日中はひっそりと眠っているように静かで人の通りも限られる。
だがとある一角はこの日、迷い込んだ珍客によって実に騒々しくなっていた。
「帰っておくれ。何度頼まれても無理なものは無理だ」
娼館の主人らしき中年の男が戸口で男を追い返そうとしている。だが男は立派な体躯を折り、憐れっぽい声で縋っている。
「そこをなんとか頼む! もうここしかないんだ!」
「そう言われましてもねぇ……」
おそらく周囲から見れば、娼婦に入れ込んだ貴族の男が無理を言っているように見えるだろう。
だが、実際は違うのだ。
「頼む! 私を買ってくれぇぇぇ!」
「アンタみたいなデカすぎる男は流石に需要がないんだよ!」
「買ってくれぇぇぇ!」が静寂の花街に響き渡る。そして主人はもう何度目か分からない理由を同じく叫んだ。
そう、この男身売りなのである。
身長二〇〇センチを超える立派な体躯。胸筋は張り詰めて分厚く、上腕は山のような盛り上がり。引き締まってなお太い腰回りにゴツく筋肉の浮く太股。
顔立ちは実に男らしく、褐色の肌に四角い輪郭、小さくも優しげな青い瞳と太い眉、スッキリと短い赤茶色の髪をしている。
男としては実に充実した肉体と厳つくも雄々しい顔立ちのこの男だが、とある事情により娼館に身売りをしにきた。
「私はこれでもオメガなんだ。この体躯だ、少々乱暴にされても大怪我を負うような事はない! どのようなプレイにも応じると約束しても構わない! だから!」
「オメガだとしても流石に無理ですよ!」
そう言ったきり主人はドアを閉めて厳重に鍵をかけてしまう。
取り残された男は縋るように手を伸ばしたが、無情にもその目の前でドアは閉ざされてしまった。
地に膝を付き、両手まで地に付けた男は項垂れる。心中は焦りと共に悲しみが渦巻いている。そして心のままに叫んでいた。
「出産ショーも許すからぁぁぁ!」
※いや、需要ないっす。
とはいえ、この男も本来ならば大貴族の嫡子という立場にある。一年程前に王都寄宿学校を優秀な成績で卒業している。現在は王都のタウンハウスで生活しているのだ。
そんな男が何故早朝の花街で身売りをしなければならなくなったか。
それは、とても大変な経緯からだった。