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週刊 勇者ダイゴくん
週刊 勇者ダイゴくん
七海トモマル
文芸・その他ノンジャンル
2025年03月15日
公開日
6,713字
連載中
日本のとある家庭の赤ちゃんダイゴくん。
ダイゴくんの中には、元悪役令嬢の魂が宿っています。

悪役令嬢の名はアイリス。
陥れられて処刑された悪役令嬢でした。
アイリスは愛されたいだけでした。
しかし、やることなすこと裏目に出てしまって、
望まないのに悪役になってしまう令嬢でした。
処刑されたアイリスを可愛そうに思った異世界の神は、
アイリスの魂を転生させます。
行き先は別の世界。平和な世界です。
平和な世界のとある家庭の赤ちゃんダイゴくんに、
アイリスの魂は転生します。

転生先のダイゴくんと肉体と魂を共有したアイリスは、
まだ赤ちゃんのダイゴくんを守ろうと決意します。
人々に愛される、勇者のような、
立派な大人になるように導こうと決意します。
ダイゴくんが愛されれば、
アイリスも愛されると感じられます。
アイリスは今度こそ愛されるために、
そして、かわいいダイゴくんをこの世界の勇者へと導くために、
転生先の平和な世界を生きていきます。

これは、元悪役令嬢の魂を宿した赤ちゃんが、
平和な世界で愛され勇者になるまでをのんびり綴った物語です。
だいたい週刊で日曜の朝に投稿します。
親戚の子が成長していくのを見守るような気持ちで、
ダイゴくんとアイリスが育っていくさまを見守っていてください。

第1話 悪役令嬢は赤ちゃんに転生する

「アイリス、お前を断罪する」

その言葉を私は静かに受け止めた。

何をやっても悪になってしまい、

やることなすこと全て裏目に出た人生も、

ようやく終わるのだなと、静かに受け入れた。


私はアイリス。

この国では悪の令嬢などと言われている。

貴族の家に生まれた私だったが、

何をしても裏目に出てしまった。

善意は曲がって受け取られたし、

善い行いをしようとすると陰口を言われた。

何かすると悪い結果になったし、

そのつもりがなくても悪い方に取られてしまった。

その気がなくても悪になってしまった。

私は褒められたかった。

私は愛されたかった。

よくできたねと言われたかった。

無償の愛が欲しかった。

それだけがなぜできなかったのだろう。


私は皆の前で処刑され、

私の命は終わったはずだった。


気が付くと、私はキラキラ輝く場所にいた。

夜空のようでもあるし、雲の上のような場所のようでもある。

そこに誰かがいる。

人影のように見えるけれど、よくわからない。

「アイリスよ」

人影はしゃべった。

男とも女とも、年齢もよくわからない声だ。

「よく、がんばったな」

声は一言そう言った。

私はずっとそう言われたかった。

涙があふれそうな感動を覚えた。

「私はこの世界の神だ。お前があまりにも哀れなので、転生をさせようと思う」

神様が言うことには、

いろいろな世界の神で会議をして、

神同士の合意があれば、転生が成立することがあるとか。

私は、あまりにも理不尽な人生を生きてきたので、

今度は平和な世界で生きて欲しいと、

この世界の神が申し出て、

平和な世界の神が受け入れて、

転生先の肉体も準備がされているという。

「転生先は男の赤ちゃんの身体になる」

「それは、乗っ取ってしまうということかしら」

「いや、その赤ちゃんと一緒に生きてくれるだけでいい」

つまり、男の赤ちゃんの肉体に、

私の魂と、赤ちゃんの魂が同居して生きるらしい。

男の赤ちゃんの家庭は平和そのもので、

今度こそ私は愛されることを感じられるはずだという。

「何をしても褒められるし、どんなことをしても愛されるだろう」

「そんな、都合のいいことが」

「あるのだよ。今度は幸せになりなさい」

「赤ちゃんのお名前は?」

「ダイゴというよ」

私は決めた。

その赤ちゃんを世界で一番愛される存在にしようと。

全てが悪になってしまった、私のような不幸を感じることなく、

ただただ、愛されて幸せな存在にしようと。

ダイゴが幸せになれば、私も幸せになれるはず。

ダイゴが愛されることは、私も愛されること。

「決めたようだね。では、赤ちゃんのもとに君の魂を転生させよう」

神様が手をあげた。

私の意識はごうごうとなったような気がして、

ぷつりと意識が途切れたような気がした。


次の瞬間、私は寝床にいた。

私が何か考えるのだけど、

同時によくわからない言葉が流れていっている。

言葉というよりもイメージのようなものに近い。

手を持ち上げると小さい。

これは赤ちゃんの手だ。

私の意識を無視して、頭を駆け抜ける意識が指をしゃぶる。

このイメージの意識は、赤ちゃんであるダイゴの意識だ。

考えというものがまだ言葉になっていないんだと私は理解した。

映像や嗅覚や触覚、聞こえる音。

それらのイメージが流れていくけれど、

これらを言語化して考えるということに至っていないらしい。

なるほど、これが赤ちゃんの意識かと私は納得する。

今の状態であれば、私がダイゴの意識を乗っ取るのは簡単かもしれないけれど、

以前何をしても悪い方向に行っていた私が、

ダイゴを不幸にさせるのはよくないと思う。

私は、ダイゴを導こうと思う。

この小さな身体の持ち主であるダイゴが、

この世界でみんなに愛される勇者のような、

そんな大人になる人生を送れるよう、

私が手伝って上げられればと思う。

「ダイゴくん」

私は意識で話しかける。

ダイゴくん。自然とそう呼びかけていた。

これから人生を共に生きる存在に、

呼び捨てはよくないと思った。

「ダイゴくんは、この世界の勇者になる存在です」

ダイゴくんの意識のイメージがごちゃごちゃするけれど、

勇者というイメージが作れないようだと私は理解する。

多分、ダイゴくんは、偉いとか、強いとかも、まだ理解できない。

もっと簡単な言葉を言っても、

まだ言葉を理解できないだろうなと思う。

私は意識でイメージを送る。

たくさんの人に抱きしめられるイメージ。

たくさんの笑顔。

頭を撫でられたり、手をつないだり、

触れあってみんなで笑っているイメージだ。

アイリスとしてずっと欲しかったものを、

ダイゴくんにイメージとして届けた。

寝床にいるダイゴくんは、キャッキャと笑う。

ダイゴくんのイメージが明るいものになる。


この無垢な魂を導いてあげたい。

誰からも愛される、この世界の勇者にしてあげたい。

何をしても褒められて、

ただただ無償の愛を感じて、信じられる人生を送らせてあげたい。

成長すればいろいろなことが起きるかもしれないけれど、

出来事を乗り越えられるくらいの強さも持たせてあげたい。


私は元悪の令嬢アイリス。

今度はダイゴくんをこの世界の勇者にする。

そして、ともに幸せになる。

私はダイゴくんの無垢な意識を抱きしめると、

一緒にトロトロとまどろんだ。

ダイゴくんの勇者への道は、まだ始まったばかり。

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