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18 仲が良かったって誰と誰がですか?

 バルゴア城内でレイムーアの一団を出迎えました。


 彼らの多くはレイムーアの外交官ですが、その中心になぜか青い髪をした青年がいます。


 レイムーア王族の証しである青い髪を長く伸ばし、肩らへんでゆるく結んでいます。


 髪や背が伸びても、あの偉そうな態度といじわるそうな顔に、子どものころの面影が残っていました。彼はあのときの男の子で間違いなさそうです。


 子どものころのつらかった記憶がよみがえり、心臓がバクバクして嫌な汗が出てきました。


 テオドール様がレイムーアの一団に挨拶をしています。


「ようこそお越しくださいました。私はテオドールと申します。皆さんのバルゴア滞在期間中のお世話をさせていただきます」


 私はテオドール様の少し後ろでうつむいていました。


 どうか、第三王子が私のことを忘れていますように……。


 レイムーアの外交官の代表と思われる人が「よろしくお願いいたします」と伝えると、第三王子が話に割り込みます。


「出迎えはこれだけか?」


 そう言った第三王子の後ろには、立派な鎧を着た騎士の姿も見えます。きっと第三王子の護衛騎士なのでしょう。



 第三王子の言葉に、レイムーアの一団はあわてています。


「レックス殿下!」


 レイムーアの第三王子ってレックスって名前だったんですね。


 たしなめるように名前を呼ばれても、レックス殿下は気にした様子もありません。


「失礼しました。盛大な歓迎に感謝しております」


 そう言いながらテオドール様に頭を下げるレイムーアの外交官達。レックス殿下以外はまともそうで安心しました。


 テオドール様が「王家の方が来られるとは聞いていませんが?」と尋ねると、「それが、いろいろ手違いがありまして……大変申し訳ありません」とのこと。


 レイムーアの外交官は「こちらの方は、第三王子レックス殿下です」と恐縮しながら教えてくれました。


 第三王子……やはりあのときの男の子だったんですね。


 テオドール様はレックス殿下に向かって礼儀正しく会釈しました。


「レイムーアの第三王子殿下にご挨拶を申し上げます」


 その言葉に合わせて、私が淑女の礼(カーテシー)をとりました。私と一緒に出迎えていたバルゴアの外交官やメイド達も一斉に頭を下げます。


 それなのに挨拶をしたテオドール様を無視して、その横を通り過ぎレックス殿下は私の前に来ました。


 レイムーアの外交官達のあわてる声が辺りに響きます。


「で、殿下、何を!?」


 殿下の鋭い目は、なぜか私を捉えています。


「なんだ、いるではないか。こそこそ隠れるな。探したぞ」


 レックス殿下の右腕が私に向かって伸ばされました。


 驚きすぎて身動きが取れません。子どものころに腕をつかまれてすごく痛かったことを思い出し身がすくみます。


 レックス殿下の手が私の腕をつかむ前に、テオドール様が間に入ってくれました。


「レックス殿下。こちらは、バルゴア辺境伯のご令嬢シンシア様です」


 レイムーアの一団から「ひぃっ」と小さな悲鳴があがります。


「知っている。俺がこんなど田舎まで来たのは、そいつに会うためだからな」


 その言葉で私の周囲にいるバルゴアの外交官たちの空気がピリッとひりつきました。


「俺とそいつは幼馴染だ」

「……え?」


 信じられない言葉を聞いて、私はレックス殿下をまじまじと見てしまいました。


 幼馴染? 私達、子どものころに一回しか会ったことがありませんけど?


「仲が良かった。結婚の約束もしていた」


 結婚の約束? え? 誰と誰が?


「そうだろ、シンシア?」


 頭が痛くなってきました。


 テオドール様は「そうでしたか」と、レックス殿下の言葉をさりげなく流してレイムーアの一団を宿泊場所に案内するようにメイド達に伝えます。


 レックス殿下はなかなか私から離れようとしませんでしたが、レイムーアの外交官達に「お願いですから問題を起こさないでください!」と言われながら連れていかれました。


 その様子にあっけにとられていると、レックス殿下の護衛騎士と目が合います。


 レイムーアの護衛騎士にはいい思い出がありません。私が何を言われるのかと警戒していると、護衛騎士は小さく会釈してレックス殿下のあとに続きます。


 彼らの背中が見えなくなったころ、私の身体のこわばりがようやく解けました。


「はぁ……」


 一気に気が抜けてふらついてしまった私をテオドール様が支えてくれます。


「大丈夫ですか!?」

「お、驚きました」

「まさか事前に連絡もなく第三王子が押しかけてくるなんて……」


 テオドール様もあきれています。


「私に会いに来たって言ってましたけど、レックス殿下には婚約者がいるんですよね?」

「はい、それは間違いありません。お相手は、レイムーアの公爵令嬢です。王家と公爵家をつなぐ重要な婚約のようです」

「でしたら、レックス殿下は、幼馴染として私に会いに来たんでしょうね」


 こちらとしては、一瞬たりとも幼馴染だなんて思ったことはなかったですけど。


 テオドール様を見ると、なんだか難しい顔をしています。


「シンシア様。レックス殿下が滞在中、決してお一人で出歩かないでくださいね」

「それはもちろんです!」


 レックス殿下とばったり出会ったら最悪なので、用事がないときは部屋にこもろうと心に誓います。


 でも、これまでとは違い、私も交流会の準備に携わっています。仕事を途中で投げ出す気はありません。


 なにより、この交流会の責任者はテオドール様です。私のせいで失敗に終わらせるわけにはいかないのです。


「私のことはお気になさらず、予定通り進めてください」

「しかし、それではシンシア様がレックス殿下に何度も会うことになってしまいます」


 ためらうテオドール様は、私のことを心配してくださっているんですね。


「大丈夫です!」

「シンシア様の大丈夫は、あまり信用できないのですが……」


 テオドール様の手が私の髪をやさしくなでます。


「どうか私を頼ってください。あなたには頼られたいのです」

「本当に大丈夫ですよ、ありがとうございます」


 テオドール様が少し寂しそうな顔をしたのは気のせいでしょうか?


 とにかく、交流会を無事に終わらせるために、レックス殿下ともめごとを起こすことだけはさけないといけません。


 レイムーアの一団がバルゴアに滞在するのは、たったの一週間です。その間は、過去のことを忘れてレイムーアの人達を歓迎しようと私は心に決めました。

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