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04 優秀なメイド達

 ターチェ伯爵夫妻と夜会に出かけたはずの私が、夫妻の代わりに若い男性を連れて帰ってきても、ターチェ家のメイド達は少しも驚きません。


 出迎えてくれたメイド達は、私達に礼儀正しく頭を下げます。


「おかえりなさいませ」


 メイド達の中で一番年上のメイド長が顔を上げたあとに、私を見つめています。そっか、状況説明しないと。


「えっと、この方はテオドール様です。ベイリー公爵家の」


 ほんの少しだけメイド長の目が見開きました。そうですよね、事前連絡もなく急に公爵令息を連れて来られたら困りますよね。私はあわてて言葉を続けました。


「あっ、テオドール様がここに来られることは、叔父様と叔母様も知っています。二人でじっくり話し合うように言われていて……」


 私が勝手にテオドール様を連れて来たと思われたら大変ですものね。メイド長は深く頭を下げました。


「かしこまりました。すぐにテオドール様のお部屋をご用意させていただきます」


 さすがターチェ家のメイド長です。理解が早い!


 メイド長は私達を客室まで案内してくれました。


「準備が整うまで、こちらのお部屋でお待ちください」


 私達は言われるままに、向かい合わせにソファーに座りました。

 メイド長が部屋から出ると、すぐに別のメイドがお茶とサンドイッチを運んできます。


「お食事がお済みではないかと思い、サンドイッチを準備させていただきました」


 いわれてみれば、夜会に参加してすぐに戻って来たので、食事どころか飲み物すら飲んでいません。


 はっ!? そういえば、憧れていたダンスも踊っていません! 叔父様が踊ってくださる予定だったのに……。


 でも、仕方ないですね。あのときの自分の行動を私は少しも後悔していません。


 メイドの気遣いに感謝しつつ食べたサンドイッチはとても美味しかったです。ふと、テオドール様を見ると、お茶は飲んでいますがサンドイッチには手をつけていません。


「テオドール様は、サンドイッチはお嫌いですか?」


 テオドール様の端正な眉が困ったように下がります。


「そうではないのですが、食欲がなくて。申し訳ありません」

「あっそうですよね。大変な目に遭(あ)われたばかりですもんね」


 そもそもテオドール様は、ずっと体調が悪そうです。ターチェ伯爵邸でゆっくり休めると良いのですが。


 私達がお茶を飲み終えたころ、メイド長が再び客室に現れました。


「お部屋にご案内させていただきます」


 立ち上がったテオドール様は、私に会釈しました。


「シンシア様、お先に失礼します」

「はい」

「また明日、これからのことをご相談させてください」

「わかりました。おやすみなさい」


 私の言葉を聞いたテオドール様は、なぜかとても驚いています。


「わ、私、何かおかしなことを言いましたか?」

「いえ、お、おやすみなさい」


 そういったテオドール様のほほは、少し赤くなっています。


 え? おやすみなさいって、王都では言わないのですか? もしかして、男性に向かって言うと下品な言葉になるとか!?


 だれか私に王都の常識を教えてください!


 そんなことを考えている間に、メイド達は私を私の部屋へと案内しました。室内は白を基調としているのですが、ポイントに淡いピンク色が使われていて、上品かつとても可愛いです。


 聞けば叔母様が私のためにわざわざ準備してくださった部屋なのだとか。初めてこの部屋を見たとき、あまりの可愛さにときめきが止まりませんでした。


 メイド達は私のドレスを脱がせたあと、入浴を手伝ってくれます。そっと私の顔にふれてメイクを落とし、優しく身体を洗ってくれました。


 バルゴア領にもメイドはいますが、皆もっと気さくです。向こうではいつもにぎやかでしたが、ここではだれも話しません。でも沈黙はここちよく、彼女達の心遣いは行き届いています。


 テオドール様もゆっくりされているといいのですが。


 そういえば、テオドール様は「また明日」と言っていました。


「また明日もテオドール様にお会いできる……」


 それどころか、テオドール様が本当にバルゴア領に来てくれたら、毎日でも会えるかもしれません。そうなったら、幸せ過ぎです。


 私はドキドキしすぎて、ベッドに入ってもなかなか寝つくことができませんでした。


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