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四十話 神殺しは迷宮の中で 其の拾壱

 一言後に、バサラはその邪神を殺そうとその場で切りかかった。

 涅槃静寂ニルヴァーナを両手で握る感覚は30年前と重なり、力がいつも以上に込められた一撃をハスターに放つ。


 凡夫の一撃。

 力と怒りに身を任せ放つ誰でも出せるような攻撃。


 異なる世界の邪神かみであるハスターにとって自身を殺そうとするものなどザラにいたと。故に、ハスターはバサラの一振りを甘く見て、凡夫と侮り、切られた腕とは別の腕でその一撃を止めようとする。


 縦に振るわれた涅槃静寂ニルヴァーナが腕にぶつかった後、地面まで叩きつけられドゴンと大きな音を立てた。ハスターが上げていた腕は真っ二つに切り裂かれ、肩までを切り落とす。


 両腕を切り裂かれ、初めてハスターはその男のことを認識する。一度はまぐれであると甘く見た。


 だが、二度目は認めざる得なかった。

 腕には吟千代ぎんちよの攻撃を止めた風を用いており、自身の能力に過信し、簡単に止めれるモノであると思っていた。


「貴様、俺の腕を二度も?」


 顕現直後より、ハッキリとした口調で喋るとバサラはハスターの顔に蹴りを放ちながら口を開く。


「誰だか知らねえよ。黙ってろ、言うこと聞けないのか? もっと大きな声で喋ってやろうか?」


 蹴りが打つかり、ハスターは軽く吹き飛ばされも自身の腕を再生させ、直撃を免れるとバサラを敵と認め、全力で排除することを決めた。


名状し難き黄衣の王ディスコミュニケーション


 ハスターの一言で彼の周囲に風が嵐のように吹き荒れるもバサラにとってそんなことは関係なく、純粋なまでの殺意を頼りに疾走する。


 距離を詰めるとともに剣を振るい、嵐の壁の氣が乱れる瞬間、空いた腕でハスター目掛けて突きを放った。


 涅槃静寂ニルヴァーナによる剣撃はハスターの嵐の壁に阻まれるものの亀裂を入れ、そこに拳を無理矢理突き通し、彼の体に貫く。


 血塗ちまみれの腕を気にすることなく次の行動に移っており、両腕で涅槃静寂ニルヴァーナを握りしめ、ハスターが張り直した嵐の壁を再び破壊する。


(こいつ?! 神の、神の風だぞ?! 力任せで、大雑把。そう見せかけてるだけで俺の嵐の壁を簡単に破り捨てる。なんなんだ、こいつは?!)


「考え事か? 戦闘中に余計なことを考えるのはお前達の悪い癖だな」


 バサラは荒々しい口調でハスターに喋りかけると嵐の壁を破壊した瞬間、再び彼の顔に蹴りが入った。


 邪神を前に剥がされた理性が本能へと書き換えられ、かつてのバサラを曝け出させる。


 神による一方的な蹂躙を、一人で否定した男、神殺しを成したカツラギ・バサラの本領であり、本質。


 神の破壊者、それこそが彼の運命なのかも知れない。


「おの、れ?!」


 ハスターは嵐を纏う拳を振るうもそれは打つけられず、バサラは再び彼の腕を切り落とし、顔を掴み込んだ。


 バサラはその顔を地面に叩きつけると離すことは無く、片腕でありながら軽々と持ち上げ、何度も何度も止めることなく叩きつける。


 リズミカルにドンドンと叩きつけられ、嵐を纏うことすら不可能となり、ハスターは一方的にその暴力を受けた。邪神である自分が、敬われ、恐れられた自分が、ある一人の男の前に踏み躙られる。


「ゆ、るして」


 ハスターの掠れるような声を出すとそれはバサラに届くと彼はほんの一瞬だけ手を緩めた。次の瞬間、その一瞬を突き、自身の腕を伸ばし、嵐の刃をバサラの首を目掛けて放った。


 起死回生の一撃を放つもそれはバサラの左目を傷つける程度であり、彼は再び確信した。


 神は嘘つきで、理不尽で、信用ならないモノだと。


「ゆ、るじでえ」


 その一言は断末魔となり、ハスターの体は涅槃静寂ニルヴァーナによって真っ二つに裂かれる。


 邪神の死体はぶくぶくと黒い泡が浮かび上がりながら消え去るとバサラは徐々に冷静さを取り戻していった。


 異界ゴルドバレー、その地に30年ぶりに顕現した神は再びカツラギ・バサラによって人知れず、殺された。

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