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三十九話 神殺しは迷宮の中で 其の拾

「あれ? なんか言ってたかしら?」


 ジータは息無き司祭の顔を上げて、本当に死んでいるか確認し、死体を部下に運ばせた。


 何かをしたがその何かは分からない。

 そんな状況ではあるがジータ達によるリトル教殲滅作戦は成功で幕を閉じる。


***


 バサラと吟千代ぎんちよ迷宮ダンジョンの第八階層の部屋に踏み込むとそこには黄金の数々が広がっていた。


 見渡せば見渡すほど、そこら中に敷き詰められている黄金と宝石を前に二人は目を輝かせる。


「こ、こ、これって! も、もしかして!」


「もしかすると!」


迷宮ダンジョン踏破達成ってこと?!」


「ことでござるか?!」


 両手をブンブンと振い、互いに喜びを分かち合うととりあえず、バサラは緊張の糸が切れたのか地面に座り込んだ。


「あはは! いやー! 僕一人じゃ絶対無理だった! ありがとう! 吟千代ぎんちよ


「こちらこそ! バサラ殿がいなければ飢え死んでおったわ!」


 そんなことを言い合いながら迷宮ダンジョン踏破という事実を噛み締めると二人は辺りの黄金に目を向ける。


 金品財宝が煌びやかに輝く中、一本だけ今まで見たことない武具ものが存在しており、それは部屋の中央に突き刺さっていた。


 黒く染まった刀身に波打つように描かれた刃紋。漆黒の刃は遠目から眺めるバサラの姿が映っており、それは彼を待ち望んでいるかのように佇んでいた。


「おお! バサラ殿! この形! この刃! 正しく刀! 刀ですぞ!」


「ん? あ、うん、そうなんだ。あれが吟千代ぎんちよの持ってる武器と同じ刀ってやつなんだ」


「うむ? どうした、バサラ殿。体調が悪いのか?」


「あ、いや! そんなことないよ! 流石に、この迷宮ダンジョンのモノだから触れちゃならないかなって」


 バサラの言葉を聞き、吟千代ぎんちよはそういうことかと理解すると気にすることなく、その刀を抜いた。


吟千代ぎんちよ!? 何してるんだい?!」


「バサラ殿が見たがっているのであれば近づけようと思ってな。この金品に目を向けず、興味がないのにこれだけには興味を示した。なら、拙者は日の本の者。それが勝手に抜いたのであれば文句は言われんさ。それにしても、この刃、この氣、正しく妖刀の名が相応しいな」


 吟千代ぎんちよがバサラに見せるように近づけると彼もその刃に魅入られていた。


吟千代ぎんちよ、一度だけ握られせてくれないかい?」


「勿論だ! この刀、もしかしたらバサラ殿を待っていたのかも知れないぞ!」


 吟千代ぎんちよは持つためのつかをバサラに向けると彼がそれを手に取った瞬間である。


 黄金広がるその部屋に、混沌の孔が生じた。


 黒紫の孔から一歩、二歩と這い出るよこしまな氣を纏うそれは黄色いローブに身を包み、人型でありながら手足は見たことない生物のモノとなっている。


 バサラ達から一定の距離があるが既に浮かれていた思考から切り替えられており、二人は構えた。


馘無侍くびなし流、 生玉いくたま


 吟千代ぎんちよは唐突に現れた敵であるかも分からぬ存在に躊躇いも無く飛び付いた。


 首としてでは無く、強者つわものと認識すると同時に敵であるとも決めつける。


 吟千代ぎんちよが見ている氣が吐き気を催す様な黒であり、それが敵ではないことは無いと自身の本能が決めつけた。


 そして、バサラも同様に動いていた。持っていた刀を投げ捨て、冷静さに欠けた自分らしくない速攻。そうしなければ吟千代ぎんちよが危ない、そう考えると彼は動かずにはいられなかった。


 吟千代ぎんちよが抜刀し、高速の斬撃が首に当たる直前、混沌より這い出る者は手を上げる。


 吟千代ぎんちよの一刀は首に打つかる手前で止められた。力を幾ら込めようとそれ以上に進むことなく、何かが拒み続ける。


 そんな中、吟千代ぎんちよの細い首に手がかかった。


「うぐ」


 苦しそうな声を上げるも首を断とうとする手は止めず、底無しの敵意を向けた。


 その光景が過去に見た惨劇が重なり、一瞬にしてフラッシュバックする。バサラはそれがかつて自身が殺し堕とした者と同様の存在であることを理解し、彼は涅槃静寂ニルヴァーナ吟千代ぎんちよの首に掛けていたの腕を切り落とした。


 首を絞められ、急に離されたことにゲホゲホと苦しそうにする吟千代ぎんちよの前にバサラは彼女を守るように立ち塞がる。


 それを見て、腕を切られた混沌はバサラに怒りを向けた。


「おまえ、おれの腕を切ったか? この邪神ハスターの手をだぞ?」


 ハスターと名乗る者はバサラを睨みつけると彼もまた睨み返し、普段の自分ではあり得ない強い口調で返した。


「知らねえよ。それよりもお前は今、俺の大切なモノを傷つけようとしたな? 切って当然だろう」

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