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三十八話 神殺しは迷宮の中で 其の玖

 迷宮ダンジョンラビュリントス第八階層


 吟千代ぎんちよバサラはお姫様だっこをされながら走っていた。第七階層からバサラを抱えて、離すことなく走り続けており、彼は自分の顔を両手で隠した。


吟千代ぎんちよさん、その~」


「なんだ」


「その~、そろそろ降ろして欲しいんだけど」


「ダメだ」


「ひん」


 バサラが無策に行ったことに気付いた吟千代ぎんちよは彼を抱き抱えてから第七階層を通ると第八階層へと向かう最中、彼女は一度も離すことなく降りて行った。


 第八階層に到着するとそこには再び扉があり、その前でバサラを降ろした。そして、吟千代ぎんちよはバサラを正座させると自身も同じく正座をし、螺旋巻く目で覗き込んだ。


「バサラ殿、何か言う事は?」


「その~、はい、申し訳ございませんでした」


「うむ、拙者も全面的にバサラ殿を信用した結果あの様な事態に至ってしまった。そこは謝ろう。だが、自分の身をああも簡単に投げ出すなど拙者が許さぬ。侍は戦で命を爆ぜ、落とすもの。バサラ殿は世界が違えど拙者が侍と認めている。ならば、簡単に戦以外で命を投げ出すな、わかったか?」


「はい、肝に銘じます」


「うむ! なら、よし! カラカラカラ! 早速、進もうぞ! バサラ殿!」


 説教が終わり、立ち上ると第八階層の扉の前に立った。


 先ほどとは全く違う、小さく閉じられた扉を前にバサラと吟千代ぎんちよは互いに得物を握りしめると同時に攻撃を放つ。


 扉は簡単に破壊されると呆気なく部屋への道が開かれた。


「さっきみたいな感じになるかと思ったけど違ったね」


「うむ、さてはて、奥に進めば何があるか! 楽しみであるな!」


 そう言うとバサラと吟千代ぎんちよは部屋へと踏み込んだ。



***


 バサラ達が第八階層に踏み込んだ時同じくして、ジータ達四護聖率いる騎士団とリトル教が総力戦を繰り広げていた。


 リトル教は海近くの村一つを本拠地としており、村人全員が信徒であった。村人達とリトル教の儀式と言われ洗脳と改造を施された信者達が壁となり、王国騎士団は攻め切れずにいた。


 故に、四護聖率いる精鋭達による総力戦を決定し、その準備が終わるとジータは既に先陣を切るために前に立った。


「ジータ様、いつもより気合い入ってるな」


 ユースがそう言うとなんとなく理由を察していたラビはそれを隠して答えた。


「そうだな、うちの騎士の者も被害に遭ってるし、彼らへの弔いに燃えているんだろう」


「やはり、ジータ様はすごいな! 俺も気合を入れて武勲を上げるぞ! な! ラビ!」


「そうだな」


 そんなやり取りを終え、彼らはジータの背後についた。そして、準備を終えたジータは剣を取り出すと大きな声で宣言する。


「四護聖ジータ・グランデが命じます。参りましょう、殲滅です」


 その一言により、開始したリトル教総力戦は四護聖の率いる精鋭を前に蹂躙という言葉似合うほどの結果に終わった。


 ジータは一切の好戦を許さず、自身が放つ矢は改造兵の命を悉く奪い尽くす。


 グランが戦場を駆け、その姿を見た兵達が勇気を貰い、彼の背中を追うように進撃した。


 シンクは改造兵達の弱点を分析し、それらを他の四護聖達に伝えた。


 バサラの弟子であり、四護聖最後の一人であるミカ・イゾルデは自身が奪う命に祈り、拳を振るう。


 四人と彼らが率いる精鋭達による圧倒的なまでの実力差を埋める事はなく、司祭達の死体が幾つも並べられるも最後の一人が見つからなかった。


「最後の司祭は海に向かったそうです!」


 兵からの伝言を受け、四護聖全員が集うと最後の司祭は逃れられないことを悟ったのか海を背後に立っていた。


「ふふ、恐れいった、え?」


 司祭は何かを喋ろうとするもののそんなことお構え無しにとジータは彼の太ももに矢が放たれており、遺言すら残すつもりは無かった。


 両太ももに穴が空き、立つことすらままならない。だが、司祭はこの状況で四護聖達に見えないように薄気味悪い笑みを浮かべる。


「いあ いあ」


 自分達の計画が頓挫したはずであったのにそれでも彼は笑うことをやめず、最後の儀を始めようと死ぬ間際での足掻きを見せた。


「 はすたあ はすたあ くふあやく 」


 自身の命が尽きる前ですら止まらない。


「ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん」


 自身の肉体に穴が幾つも空こうとも止められない。


「 ぶるぐとむ あい あい はすたあ」


 死にかけでありながらも自らが縋る神へと祈る。


その呟きは異なる世界の召喚のまじない


 異界ゴルドバレー、その地に邪神が初めて顕現した瞬間である。

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