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三十七話 神殺しは迷宮の中で 其の捌

「主らとのいくさと食事は、久方ぶりの良き時間であった。気をつけて行って参れ」


 右象左象うぞうさぞうはそう言うとバサラ達を見送り、彼らは次の層へと降りて行った。


右象左象うぞうさぞう殿、いつの侍か知らないが、あの大太刀振いはよほどの実力者であったことは間違いなかった! カラカラカラ! いい首を断てた!」


「そうだね、あれが火の元の侍って言うのであれば本当に強い戦士だった」


「カラカラカラ! それはそうだが、バサラ殿は右象左象うぞうさぞう殿よりも強いのに謙遜しすぎだ!」


「そんな事ないよ。僕はもう老ぼれ、吟千代ぎんちよみたいな若い子に越されるだけさ」


 そんな会話をしながら、階段を降りて行く。


 迷宮ダンジョンラビュリントス第七階層


 先ほどの決戦場とは全く違う天井が開かれ、部屋へと到着すると彼らの目の前には巨大な門が立ち塞がった。登りようにも一苦労するかのような巨大な門を前にして、バサラと吟千代ぎんちよは観察するかの様に見回していた。


「カラカラカラ! これはこれは! 開けられるか?!」


 吟千代ぎんちよは笑いながら門に触れ、押すもびくともしない。それどころか触れた途端、何処からか矢ではなく槍が飛んでくると吟千代ぎんちよは笑顔で弾いた。


「触れれば攻撃! 進めなければ行き詰まり! カラカラカラ! どうする!? バサラ殿!」


「うーん、今のところ触れるのが引き金で反射が返ってくる感じだね。となると、やる事は一つ、一発で壊す、かな?」


 バサラは涅槃静寂ニルヴァーナを握り締め、力一杯の一撃を放った。


 門に当たるもびくともせず、ヒビひとつもつかない。そして、その反射としてバサラ目掛けてその対価が支払われる。


 瞬間、バサラの体は吹き飛ばされた。

 空気の壁が高速で彼のことを押し上げるとあまりの速さに見て反射することは出来ず、空高く宙を舞う。


(空気が途轍もなく強い氣を纏って飛んできた?!)


 宙に浮いたバサラは冷静に分析しながらもすぐに地面が近づいていたことに気づくと思わず、声を上げてしまう。


「うわぁぁだぁぁぁぁ!」


 受け身を取り、なんとか地面に着地するも自身の一撃以上の一撃が返されることを理解し、ジークフリートが進めなかったのはここであると確信した。


「カラカラカラ! バサラ殿! 大丈夫か?」


「あはは、なんとかね。さて、なんとなく仕様を把握したし、パッパと突破しちゃおう」


「なんと!! どうするのだ?」


吟千代ぎんちよは僕の背中におぶさって」


「承知!」


 吟千代ぎんちよはバサラが背負う鞄を自分が背負うと彼の背中に飛び乗った。バサラが何をするかはさっぱり分からないが、彼であれば何をしようと信頼にあたるとし、迷わず従う。


 準備を整え終え、しっかりと自分の背中にいる吟千代ぎんちよを確認するとバサラは涅槃静寂ニルヴァーナ先ほど以上に強く握り、巨大な扉へともう一撃加えた。


 ジークフリートよりも弱く、だが、先ほどよりも強く放った一撃に対してそれが引き金となり、空気の壁がバサラの体を押し上げた。


 高く宙を舞い、落下するのみであるもの、扉よりも高く飛んでいた。


吟千代ぎんちよ! 扉の向こうへ!」


「委細承知!」


 一切の躊躇いなくバサラを踏み台に吟千代ぎんちよは扉の向こうへ飛ぶと彼女の無事と自分が地面に落ちるまでの動きを考えた。


(この高さからの落下。何が正解だ?! 落ちても死ぬ! 着地しても骨折れる?!)


 そんなことを考えているとゴゴゴゴゴと大きな音共に扉が開かれる。吟千代ぎんちよが扉を開けたことを知るとバサラは安心して落下出来ると考えた。


 どうしようもないのであればせめて一番痛くない角度で、そう思っていた瞬間、彼の体をお姫様抱っこをして空中でキャッチすると軽やかに着地した。


「ぎ、吟千代ぎんちよ!!!!」


「ここまでが作戦なのですよね! バサラ殿!」


「も、もちろんだよ!」


 バサラは嘘をついた。

 実のところ、吟千代ぎんちよを扉の向こうに送った後は全くの無策であったことを。

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