名亡右象左象と名乗る巨体武士は吹き飛ばした吟千代とバサラを立ち上がるまで自ら動く事はなく、ただ、そこで立ち塞がるかの様に仁王立ちしていま。
ガラ空きでありながらも踏み込めば再び大太刀が振るわれる。バサラは壁に吹き飛ばされてはいるものの受け身をしっかりと取れており、右象左象と彼が握る大太刀を分析していた。
(大太刀での攻撃は目視で避けれる。だけど、問題は彼との距離を詰めた瞬間だ。振るっていたはずの大太刀がいつの間にか手元に戻っている。そこから一撃が比べ物にならないほどの速度になって、自分に攻撃が当たる直前は目では追うには困難な状態になる。どうしたものか)
手付かずの状況の中、そんな彼らの沈黙を吟千代は気にすること無く、切り裂いた。
「カラカラカラ! 痛かったぞ! 強者! だが、日の本の強者あれば! 断つぞ! 断つぞ断つぞ断つぞ断つぞ!」
壁を飛び台にし、再び右象左象との距離を詰めるも彼もまた大太刀を振るう。
一撃を躱し、追撃を飛び跳ね、大太刀の連撃をアクロバッティックに避け続けた。そして、その隙を突き、吟千代の刃は右象左象の首へと至った。だが、それでも彼女の間合いに入った途端、大太刀を振るう速度は加速する。
手元に戻った大太刀を吟千代目掛けて振るうと彼女は防御では無く、無理矢理刀を打つけ、その勢いでクルクルと空を回転しながら距離を取った。
バサラと吟千代は互いに顔を見て、右象左象の得物が持つ違和感について確信した。攻撃は早くない、だが、バサラ達の間合いに対しては攻撃が見えなくなるほどの速さを発揮する。
(大体、こんな感じ。吟千代も気付いてる。なら、今からやる事は)
(バサラ殿も同じ事を考えていると信じるか。カラカラカラ! さぁ、さぁ、頭を空っぽにして参ろうぞ!)
互いに言葉は要らず、呼吸を合わせると二人同時に右象左象へと走り出した。
両翼から迫る兵に対して、右象左象は真っ向から受けて立つ素振りを見せ、彼は大太刀を振り回す。
雑に見えながらも正確にバサラと吟千代を捉えており、横振りは彼らの陣形を崩し、縦振りは一人一人に目掛けて放たれた。
だが、それらをバサラと吟千代は簡単に捌き切り、彼らの持つ得物が右象左象の首に至る間合いまで距離を詰めた。
間合い入った途端、大太刀による殺意が過ぎるもバサラは吟千代を吟千代はバサラを、信頼して突き進む。
右象左象は二人同時であっても叩き潰す気でいた。彼の大太刀は共鳴器であり、名を涼芽の囀り。
本運命と合わぬ共鳴器を使えば、真価を発揮するどころか死すら自分から向かい入れるものでもあった。だが、名亡右象左象はこの大太刀と数百年を共にしており、その能力を無理矢理引き出すまでに至っていた。
その本質は復帰。能力は主人への生命の危機に瀕して大太刀の攻撃をリセットすることとリセット同時に攻撃の速度を跳ね上げると言うもの。
先ずはバサラへとその一撃を打つけた。何故、バサラなのか、それは彼が自身を物理的に破壊すると思わせるような凄みを纏っており、名亡右象左象の本能が先ずは彼を潰せと警告した結果の行動であった。
その行動の選択、それが、それこそがバサラと吟千代の作戦でもある。
バサラが防御を取ると右象左象は確信していた。だが、それは逆であり、バサラは涅槃静寂を振るい、涼芽の囀りの刃に打つけてきた。
刃と刃が交じり、火花が舞うとその直ぐ上に吟千代が居た。150センチの小柄な彼女にとって、2メートルを超える右象左象の首は遥か遠くにあり、彼らが打ち合う最中を飛んだ。
既に構えは終わっており、その時点で右象左象は詰んでいた。
「その首、頂戴いたす。馘無侍流、 死返玉」
馘無侍流、それは首を断つことだけに心血を注ぎ込んだ流派。首を断つことに於いて、どの太さ、どの長さ、首が無かろうが関係無く断つことが流儀である。
その継承者、馘無侍吟千代は五代目でありながら、最も首を断つことに狂った者としめ忌み嫌われた。
故に、断つと決めた首は必ず断つ。
馘無侍流、 死返玉は兜を太い首を同時に断つための技。
バサラによる破壊の一撃か、吟千代による首断ちか。
右象左象はそれを前にして兜の下でありながらも分かるように嬉しそうに受け入れた。
「お見事」
その一言を呟き、彼の首は空高く宙を舞う。