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六話 そうだ王都へ行こう 其の弐

「そうですね、説明が抜けていました。申し訳ないです」


「あははは、ジータはそう言うところあるね。まぁ、今から説明してくれれば全然大丈夫だよ。もうラセンからも出ちゃったし」


 バサラの言葉を聞き入れ、ジータはコホンと一度咳払いをするお自分のミスを無かった様にした。そして、続けて説明を始める。


「30年前、あなたが神を殺し、人はようやく人の時代を謳歌出来ました。しかし、また、神の魔の手が迫ってます」


「と言うと?」


「ミレニア王国内である宗教が流行っていたのです。何を信仰しているのか、何が目的なのか、それらが一切分からない。探りを入れたらその探りを入れたものが帰ってこなくなると言うのが度々あり、そこで私が率先してその宗教、リトル教の捜査をしました。結論から言うと、彼らは異界の地にいる神の信仰とこの地へと誘おうとしています」


「人が神に縋ったってこと、30年もあればそれは忘れ去られるモノ、か。いや、まぁ、それは分かったんだが、僕もう歳だし、ジータとの組手で結構キツかったからそんなに前線でバリバリってのは難しいと思うんだが」


 バサラの言い分を全て知っていた様に、ジータはニッコリと笑顔を浮かべながら応えた。


「ええ、御師様は絶対に自分の実力を認めようとしないのは百も承知。ですから、御師様にはミレニア王国の剣術指南役となって貰います」


「ジータ、それは良くない。僕は、ただの田舎のしがない道場の師範だ。なんの戦績も、成績も上げてないやつが急に立つとなると不満が出てくる。そんなことで君達のキャリアに傷をつける、ぶへぇ」


 バサラが一生懸命に話しているところにジータは笑いながら突きを放った。痛みはないが、驚きはする。大人しい、凛としていた少女であったジータが放った唐突の拳に彼は驚きを隠せず、彼女の顔を見るとニッコリと張り付いた様な笑顔を見せた。


「御師様、その謙遜しすぎる所。お直ししましょう」


「いや、その、謙遜でも、なんでも、ぶっふ」


 二度目の衝撃。

 一度目よりも強かった。


「あなたは一度、人類を救っている。その功績があれば誰もが認めてくれます」


「それは、僕の功績じゃない。もう、他人が立ててしまった功績だ。そこに今から出て来たおじさんがってのは相手に悪い」


「はぁー、御師様はいつもそうやって自分のことを普通の人間と思い込んでいる節がございますね」


 ため息を吐くジータの姿を見て、バサラは少しばかり気不味そうにあはははと言いながら笑うとそんな彼を見ながら彼女は口を開いた。


「我々、四護聖を育てたと言うのを功績にしましょう」


「それはだって君達が才能があって、僕の教えがあったからじゃないよ」


「いいえ! 私達はあなたの技術を、あなたの教えを、あなたから多くのことを学んできました! 御師様にはそのことを誇って欲しい。いや、誇らなければなりません!」


「あ、いや、誇りに思ってないわけでは無いよ。ただ、それを地位のために使うのは君達に悪い」


 謙遜に謙遜を重ねた結果、ジータはキレた。


「ああ! もう! そこまで言うなら良いです! 怒りました。私、怒りましたからね。御師様にはこれから王都でみっちり功績を上げて貰います。幾ら、頼んでも持ち込みますから」


「あはは、でも、うん、まぁ、それなら僕の手で挙げれたものとしても良いかな? 頼むのは些か、申し訳ないけどジータの業務に支障が無い様に、お手柔らかに頼むよ」


 一人は怒り、一人の感情は凪いでいる。

 そんな二人を乗せた馬車は、ゆっくりながらも王都へと着実に近付いており、その城壁の姿が徐々に見えて来た。

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