本日はクラスの発表日。
校舎の入り口にはクラスと名前が張り出されており、そこで自身のクラスを把握することが出来る様になっていた。基本的なカリキュラムはトレーニングなどがメインだった。数学などのカリキュラムはほとんど存在せず、戦闘訓練などののカリキュラムで時間割は構成されていた。
「えっと……あった、Aクラス」
張り出された紙には「Aクラス──98番・孤狼さくや」と書かれていた。Aクラスに入るとそこにはアサルトライフルやショットガン、スナイパーライフルを携えていた生徒達が集まっていた。その強烈なインパクトにさくやは一瞬ためらってしまうが、すぐに気を取り直し黒板に張り出されている席の通りに着席することにした。彼の席は一番後ろの窓側に用意されていた。
「ガンショップの店員が言っていた通り。本当に皆、支給品を身に着けてないんだ」
とある生徒の武装を見てみれば、M1911A1と折りたたみ式ナイフは腰には無く、代わりにM4系のマグポーチやサバイバルナイフが武装されていた。値段は分からないが、あのカタログが間違っていなければM4系は60万、マグポーチは一つで1万、マガジンは安くても5千円は確実だった。更にサバイバルナイフはカタログの中でもオススメされていた物であり、大体2万円弱程だったはずだ。
生徒の武装を改めて確認してみれば、M4本体にマグポーチが3つ、それに合わせてマガジンも三つに増えている。更にはサバイバルナイフも購入しているため、総合金額は66万5千円の消費をしていることになる。いくら支給品が5万5千で売れるからと言っても限度がある、残り39万だとしたら生活用品は何処まで購入したのか、弾薬はどうするつもりなのかと尋ねたくなってしまう。
しかしそれはあくまでも個人が貫く武装スタイルである為、第三者が文句を言う物ではなかった。それに今は自分自身の事だけで精一杯、他人を心配する余裕など無かった。
「全員席に着け。これから支給されるOD《オリーブドラブ》戦闘服に着替え、全学年生徒と共に体力テストを受けてもらう。上級生の二年・三年との顔合わせと言うこともあるが、私語は控えるようにしろ。では、記録表を渡す。記録用紙はその綱目の係にしっかり渡すように」
渡された記録表には番号と名前、そしてこれから行われる体力テストの項目が書かれていた。握力に腹筋、腕立てに反復横跳びと一般的な体力テストと変わらなさそうだった。しかし一つだけそれらとは格が違う項目が書かれていた。
「『5㎞走』……?」
20mシャトルランでは無く5㎞走、そう記録表には書かれていた。
「5㎞メートルは最後になる、一番重要な項目でもあるからな。勿論体力テストを受けている時も武装を外さないようにしろ、常に武装した状態で何処まで行けるのか、それを試すためのテストでもある。わかったな」
「「「はい!」」」
「良い返事だ。では明日からの時間割を配布する、忘れ物はしないようにしろ。と言っても常に武装していれば忘れ物もなにも無いんだがな」
渡された時間割は時間割というのには割と大雑把なものだった。
例として月曜日の時間割を見てみよう。朝六時から出席確認をした後、すぐにOD戦闘服に着替えて半から体力向上運動が始まる。有酸素運動に筋力トレーニング、俊敏性・柔軟性トレーニングの他にも格闘訓練や負荷運動などを取り入れた運動をすることになる。特にキツそうなのは有酸素運動の長距離走だった、一年から十キロを走ることになるため、自身に合った呼吸法やリズムを掴むことが出来なければあっという間に置いて行かれることになる。一年から差を付けるために厳しいトレーニングが設けられるには、当たり前のことなのかも知れない。
昼食を取った後、一時半からは射撃訓練が始まる。射撃訓練では屋内射撃場と野外射撃場の二つの射撃場を使用する、屋内射撃場では主にペイント
五時半になれば射撃訓練は終わり武器の手入れをすることになる。武器の手入れには個々で購入したメンテナンスキットを用いての作業になるため、事前にその銃器に合ったメンテナンスキットを購入しておかなければならない。一応ガンショップに持って行けばメンテナンスをしてくれることはあるが、それは個人で行えるメンテナンスではなく、しっかりと専門家が銃の点検をしてくれるため必要であれば銃の修理も行ってくれる。ただし金額は馬鹿にならない。ハンドガンなら3万円から、ライフルなどになると5万円からになってしまう。そこに修理パーツなどの金額が組み合わされば間違いなく資金は枯渇してしまう。特に頻繁に射撃をするのであれば毎回射撃後にメンテナンスをしなければ作動不良や錆の発生、安全性の低下を招く恐れがあるため非常に危険だった。
「よし、全員の手に渡ったな?それでは今から戦闘服を配る、番号が印字されているから取り間違えはしないはずだ」
目の前の机に並べられた戦闘服には小さいが番号がしっかりと印字されていた。『98番・sakya』そう印字されている戦闘服を取り、設備されている男女別の更衣室で着替えるとにした。
体育館には既に上級生達が集合していた。上級生の武装はダガーナイフやグロック社のグロック34、ザウエル&ゾーン社のSIG SAUER P226などのハンドガンを武装している生徒がほどんどであり、長物を携行している生徒は一年生だけだった。恐らくメインウェポンではなくサイドアーム、今回メインは使用せずに個人の武装ロッカーに置いてきたのだろう。
「なんだよ、上級生全然武装してねえじゃん」
「地味だよね……」
そんな声がクラスメイト達から漏れていた。中にはクスクスと笑っている生徒も見えていたが、上級生達はそんな言葉を一切聞かずに綺麗に整列していた。上級生は洗練された立ち姿であり、戦闘服は所々で汚れが目立っていた。それがこれから先訪れる訓練の厳しさを物語っていたのは、一年生のほとんどには伝わっていない様子だった。一部の上級生達がチラッと横目でこちらを見てくることはあるが、特になにも言わずにすぐに視線を元に戻していた。
「よし、全員揃ったな。ではこれより体力テストを行って貰う、一年は必ず上級生と組むようにしろ。最低でも二人一組だ、分かったか」
「「「はい!」」」
一年が元気よく返事をする。しかし上級生との初対面がこんな形になるとは思わなかった、もう少ししっかりとした顔合わせがあるのかと思ったがそうでもないらしい。一年生はわちゃわちゃしながらペアを組んでいくが、上級生とはそうも行かなかった。どう話しかけたら良いのか分からないのもあるが、雰囲気が違いすぎて近寄りがたいというのも事実だった。一年生とは違って凜々しい顔つきの上級生達は、一年生を品定めしているかのようにじっと見ていた。
「これお互いに話しかけられ待ちになってない……?」
「どうしよう……」
そんな雰囲気がずっと続いていると、さくやの元に一人の上級生が近づいてきた。その彼女はタクティカルベルトにヘッケラー&コッホ社のHK45を携帯しており、ショルダーハーネスにナイフホルダーを取り付けていた。
「良かったら組まない?色々と聞きたいこともあるし」
そう言って話しかけてきた。さくやは話しかけられたことにも驚いていたが、その優しい微笑みになにか裏があるのでは無いかと思ってしまうほどだった。
「よ、よろしくお願いします」
彼は疑いながらも、提案を受け入れることにした。もしかしたら最初で最後のチャンスになる可能性もあったため、断ることが出来なかったのだ。
「えっと、一年Aクラス98番。
「二年Cクラス45番、
「はい、よろしくお願い……支給品使い君?」
優子の口から出た『支給品使い』と言う言葉に、さくやは困惑していた。何故彼女がそう自身を呼んだのか、理由が分からなかった。
「一年の中でも唯一支給品のM1911A1と折りたたみ式ナイフを売らなかった子、その子を私達は『支給品使い』って呼んでるの」
確かにさくやは追加の武装も無く、他クラスメイトのように派手なライフルやナイフなどは武装していない。しかしそれが『支給品使い』という名を目立たせるという結果になってしまっていた。さくやが困惑していると、彼女がこっそりと耳打ちして教えてくれた。
「実は上級生・教師達でかなり注目されてるんだよ?一年の中で唯一まともな生徒ってね」
「まとも……どういう事ですか?」
「それは後々分かるよ。とりあえず今はよろしくね孤狼さくや《支給品使い》君」
そうウィンクされて言われてしまったさくやは、優子の言葉に様々な感情が混ざり合いながらも頷いた。その頃には他の一年も上級生達と組むことが出来た様子であり、なんとか二人以上のグループが形成されていた。さくやの組には二年の優子の他に同じ二年Cクラスの
さくや以外の全員上級生と言うこともあり、緊張して少し声が裏返ってしまった。その様子がおかしいのかそれとも初々しいと感じたのか、二年生の二人はクスクスと笑っていた。
「そう緊張するな、これはオリエンテーションだと思ってくれて良い」
五十嵐がそう言ってさくやの肩を軽く叩いてくる、さくやの緊張をほぐすためにしたのだろうが、さくやはどうしたら良いのか分からず逆に緊張を高めてしまっている様子だった。
「一年の頃の俺達も当時の上級生達には話しかけられなかったからな、今の一年が話しかけられなくても無理はない。二年になると一気に授業のレベルが上がって顔つきが分かるからな、新入生に怖がられても仕方ないんだ」
腕を組みながら苦笑いしてそう言う柏木、その言葉に優子も透も苦笑いしていた。反応を見るからに毎年同じような状況らしく、グループ作りが難航するらしい。特に一年生の武装を見て「絶対にこの生徒とは組みたくない」という場合も存在するらしい。どういった生徒なのかと尋ねると、楽観的で後のことを考えずに武装する生徒と答えられた。
さくやが「それって……」と、その言葉を口に出そうとすると、上級生全員の笑顔で黙らされていた。さくやは冷や汗を流しながら、クラスメイト達の健闘を祈ることしか出来なかった。
「さてと、それじゃあ俺達も移動するか」
五十嵐の言葉に、さくやは頷くことしか出来ず後ろをついて歩いて行った。