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45APC
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紅葉椛
現実世界青春学園
2025年03月14日
公開日
1.4万字
連載中
20XX年4月。東京第一総合武装学園に入学することになった孤狼さくやは、支給された武装を駆使して学園生活を過ごしていく。学園から支給される資金、生徒同士の悶着が何度も訪れてしまう。さくやは無事に学園生活を送れるのか、無事に卒業することが出来るのか。
そんなお話。

武装の季節

4月1日。桜が満開に咲き誇り、期待と希望に満ちた新入生達が学園の門を叩いた。

ここ「東京第一総合武装学園」では全寮制の学園であり、特殊な校則が設けられていた。その特殊な校則は一部のマニアからは有名な話であり、その噂話は全国に話が広まっていた。

その特殊な校則は主に五つ。

『全ての生徒は銃を持つこと』

『全ての生徒は近接武器を持つこと』

『武器を手放さないこと』

『装備は全て自分で管理すること』

『命は自分で管理すること』

この五つが主な校則だった。他にも色々あるが、この五つを憶えておけばある程度は問題無く学園生活を送ることが出来る。ただし、三つ目の校則を破れば即退学。そんな噂話もあった。

そんな学園にこれから入学しようとしている男子、孤狼さくやは比較的に身長が低く小柄な体型であり、中学時代にはよく身長を弄られて苦労していた。基本的に人に馬鹿にされるため、さくやは集団行動する際は全く意見せず、どちらかというと単独行動を好む携行にあった。

そんなさくやは体育館に並べられた新入生用の硬いパイプ椅子に座り、落ち着かない様子で周囲を見回していた。さくやと同じ新入生達はざわついており、期待や興奮、不安などが入り交じった表情を浮かべていた。中にはこれから銃を持てる、ナイフなどの武器を持てるという事もあり、気持ちが高揚しているであろう新入生達も居る様子だった。

壇上にはこの東京総合第一武装学園の校長が淡々と、この学園について説明を続けていた。

「諸君も知っていると思うが、この学園では銃と近接装備を一つずつ必ず武装していなければならない。この学園のパンフレットを読み見事入学してきた諸君らが、この学園の校則を破り退学しないことを祈っている」

その校長の言葉は、校則を破った際の噂話を本物にすることだった。銃もしくは近接装備のどちらかを武装していないだけ、たったそれだけで退学扱いになってしまう。この事実がさくや達新入生に現実を見せ始めていた。

「まず初期装備としてM1911A1コルト・ガバメント。近接装備として折りたたみ式のナイフを装備したタクティカルベルトを支給する。M1911A1の予備弾倉は本体と合わせて3つ、それ用のマグポーチも事前にベルトに装着されている状態だ」

M1911A1。アメリカの銃器設計者ジョン・モーゼス・ブローニングによって設計された伝説的な半自動拳銃であり、20世紀の軍事史において最も象徴的な武器の一つとして知られている傑作拳銃だった。元々は1911年にアメリカ陸軍に採用されたM1911の改良型として1924年に導入されたもの、それがM1911A1だ。M1911A1はシングルアクション方式が採用されており、ハンマーを手動で起こすか、スライドを引いて初弾装填することで撃鉄がコックされた状態になる。安全装置はグリップセーフティーとサムセーフティの二種が取り付けられているため、初心者向けのハンドガンと言えるかも知れない。支給されたM1911A1は軍から払い下げられた物らしく、傷や汚れが酷いように見えた。

折りたたみ式のナイフは言葉通りの物であり、刃渡り7センチ程のシンプルな物だった。ナイフケースに入れればコンパクトに収まるため、見た目はかなりシンプルに抑えられる物だった。こちらは払い下げられた物ではなく、装備として新調された物のようだった。

「また武装を自身のスタイルに合わせたい、軍から払い下げられた銃を使いたくないと言った生徒も多いだろう。そこで初期資金として100万円を支給する、これには生活費や弾薬費も含まれている。来月にはこの資金の10分の一、10万円が支給されるようになる。資金を如何に上手く扱うか、それだけで今後の生活が変わっていく。資金は支給されるICカードで使用し、携帯端末で残金を確認できるようになっている。しっかり考え使え」

その言葉を最後に校長は一礼して壇上から降りていった。


入学式が終わり、さくや達は1列に並んで支給品を受け取った。折りたたみ式のナイフは文字通りの物であり、折りたたんでポーチに入れておけば持ち運びには便利そうだった。

M1911A1を手に持つとずっしりと重く、黒光りする金属の冷たさが伝わってきた。表面はやはり傷だらけであり、軍から払い下げられた物である事が伝わってきた。本体の弾倉と予備弾倉を確認するが一発も弾薬が入っていなかった。

こういうことか……。さくやは先の校長の言葉を思い出した。

弾薬も初期資金から購入し、それを使用してカリキュラムに挑まなければならない。100万円は本当に考えて使用しなければ、あっという間に消えてしまう可能性があった。そんな考えが過ったさくやは支給された装備だけを使用したシンプルなスタイルを極めることにした。それと同時にハンドガンとナイフ、たったそれだけの武装で何処まで行けるのか試したくなっていた。

これからクラスメイトになるであろう新入生達は、学園から少し離れたガンショップ『EZ-GUN』に向かって歩いていた。EZ-GUNは学園公認の武器販売店であり、銃器や近接武器、弾薬や防具などが所狭しと商品として並んでいた。さらにはメンテナンスキットやナイフの研石なども置かれている為、ここに来ればある程度の装備は購入出来ると言ったところだ。そんな事もあってEZ-GUNは武器庫の様な雰囲気を醸し出していた。

さくやが店内に入ってみると既に新入生達で賑わっており、商品の銃器や防具などを選り好みしていた。ある生徒はレミントンM1100を手に取り、またある生徒はH&KのG36を手に取っていた。値段は見ていないが近くに置いてあったカタログには「60万円」と記載されていた。

まさか初回からそんなライフルやショットガンを所持しようとしているのか?とさくやは信じられない物を見るような目で目の前の光景を見ていた。そして目を背けるように店員に話しかけていた。

「すみません」

「お、どうした?なにか探してるのか?」

「えっと、M1911A1に使用できる45APC弾を買いたいんですけど……一発のお値段は」

「一発150円。基本的には1箱50発入りで売ってるから、7500円だな」

「じゃあそれを2箱と、銃のメンテナンスキットと研石をお願いします」

「メンテナンスキットは簡易的な物から高級品まで、研石は単品かセットがあるぜ。簡易的な物だと5千円から、高級品は5万円からになるな。研石セットは単品で購入するよりも比較的安価だ」

「えっと、じゃあ3万円のメンテナンスキットと研石セットは1万5千円のをお願いします」

「それじゃあ6万の支払いだ。袋はいるか?」

「お願いします」

ICカードを決済機械に軽くかざすだけで支払いが済ませられるのは、キャッシュレス特有の便利な物だった。支給された端末を見てみれば100万円は94万円にしっかりと減ってた。さくやが弾薬やメンテナンスキットの入った袋を受け取る際、店員が笑顔で話しかけてくる。

「珍しいよ、お前みたいなヤツは。今年は新入生が何人入ったんだ?」

「えっと……確か98人ですね」

「なら新入生の中でお前だけが、そのM1911A1を所持していることになるな」

「……どういう事ですか?」

「他の連中はタクティカルベルト以外全部売ったって事だ」

店員の言葉にさくやは一瞬理解が追いつかなかった。つい先ほど支給された装備をベルトを残して全て売った、そんな事が許されるのかと困惑していた。よく見てみれば他の生徒の腰にはベルトが付けられているだけであり、マグポーチもホルスターも無くなっていた。

「まぁ良くある事だ。M1911A1はマグポーチと予備弾倉含めて5万、折りたたみ式ナイフは5千円で買い取る。憶えておいて損は無いぜ」

「……憶えておきます」

さくやは店員に軽く一礼をした後、ガンショップを後にした。


学園が用意した学生寮に向かう途中、さくやは屋内射撃場に立ち寄った。屋内射撃場はブースの中をディバイダーで区切られており、ブースからバックストラップまでのレーンは25レーン用意されていた。25ヤードからライフル対応の100ヤードまで備えられており、25レーン全てにベンチが用意されている。ベンチでは空になった弾倉に弾薬を装填することが出来る様になっており、イヤーマフもしっかりと用意されていた。ターゲット・リトリーバル・システムが採用されており、ハンガーで取り付けた的にどう着弾したのか確認することも出来る様になっていた。

そして一番の目玉は無料のペイント弾だった。ペイント弾は訓練用に用意された弾薬であり、先端がプラスチックの外装に着色料が入った物に変わっている。プラスチックの弾頭が人体などに当たると色がつくため、訓練用にはもってこいの弾薬だった。ペイント弾は別名『シムニッション』と呼ばれており、それ用のコンバージョンキットに交換しなければ使用不可能なのだが、用意されているペイント弾はキットを交換しなくても使用出来る様に改良が施されていた。

「……荷物置いてきてから試そうかな」

さくやはレーンが空いていなかった為、先に寮室を目指すことにした。

寮室は端末に表示されている三桁の番号がその生徒の部屋番号になっていた、さくやの番号は「198」だった。最初の桁は学年、他二桁は生徒番号らしい。この場合は1年生の98番と読むことが出来る。

さくやは198と書かれた扉に設置されているレバー式のドアノブに、端末をそっと近づける。ガチャ、と解錠された音が鳴りドアノブが動くことを確認すると、ゆっくりと寮室の中に入っていく。

寮室は簡素な空間になっており、ベッドや机、クローゼットと本棚が用意され、簡易的なシャワールームが用意されていた。本棚にはこれから使うであろう教科書や参考書が詰められているが、多少の物も置けるように2段は開けられている。しかしノートや筆記用具は用意されていないため、それは自身で用意しなければならない。シャワールームにもシャンプーなどが用意されていないため、生活用品をある程度揃えなければいけないと思ってしまった。

「射撃場より、先にこっちをなんとかしないと……とりあえず最低限必要な物は記憶しておこう」

さくやはこれからの学園生活に不安を持ちながらも、生活品を手に入れるためにショッピングモールに走っていた。


ショッピングモールから帰ってきた頃には、射撃場は使用不可能になっていた。屋内射撃場の入り口には『close』と書かれた看板が吊り下げられ得ており、文字の下には『朝10時~夜7時』と書かれていた。現在時刻は7時10分、生活用品を選んでいるうちにあっという間に時間は過ぎ去ってしまっていた。

「……メモして憶えておこう」

学園から貰っていたパンフレットには屋内射撃場が紹介されていたが、開放時間までは記載されていなかった。記載ミスかと思っていたが、最後の方に「時間は各自で調べるように」と記載されていた。一々教えて貰わなければ扱うことも出来ないのかと、学園側から遠回しに言われているような気がした。

ショッピングモールは24時間開放、屋内射撃場は10時から7時。他にもガンショップやカスタムショップの開放、閉鎖時間。全てを把握してから学園生活に望んだ方が良さそうだった、朝と夜は寮制と言うこともあり食事は出るが、昼はコンビニやスーパーなどで食料を買わなければならない。

「飲み物は常温で良いかな、お昼は……500円くらいで収められるかな」

シャンプーやリンスと言ったバス用品やペンやノートは全て100円ショップで購入し、簡易的な救急セットを3千円ほどで購入した。訓練時に怪我などをした場合にすぐに対応出来る様にするため、タクティカルベルトに装着していた。ガンショップで購入したメンテナンスキットは机の上に、研石セットは本棚の空いている場所に仮置きすることにした。

流石にこれからの事を考えると最初は色々と資金の消費を抑えて安物で生活する方が良いと思ってしまった。市民の味方であるダイソーがショッピングモールの中にあったのが幸いだっただろう。

「明日はクラスの発表か……どんなクラスになるんだろう?」

さくやはそんな思いを抱えながら、明日に備えることにした。

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