「シュロロロロロ」
シームルグが狙いをつけたのは、ララクのほうだった。これまでに多数のスキルを使用したのを見てきたので、先に対処した方が良い、と判断したのかもしれない。
翼を使ったスキルを発動するようで、天を追うように広げ始める。そして、勢いよく翼を後ろから前へと動かした。
すると、シームルグの羽が何本も翼から離れて、ララクの元へと向かっていった。
【フェザーウィンド】
効果……風の力を宿した羽を一気に放つ。威力は羽ばたきの勢いによって変動する。
このスキルは風系統のスキルなので、速度に優れている。
翼が大きいので、羽の量も膨大だ。
ちょっとのことでは、シームルグの羽が無くなることはありえないだろう。
「【ウィンドスラッシュ・乱舞】!」
ララクはゴールデンソードを振りかぶり、素早く10回連続で斬撃を放った。刃からは、風力が加わった斬撃が飛んでいく。
このスキルは、【強斬乱舞】と呼ばれるスキルを組み合わせたものだ。一撃ではなく、一瞬で何度も斬りつけるのが特徴だ。
レベルが上がれば、一度で繰り出せる斬撃数が増加する。
風の刃は、シームルグの羽とぶつかり合い打ち消していく。羽の耐久値はそこまで高くはないようだ。しかし、問題はその数だ。
ララクの放った【ウィンドスラッシュ】では対応しきれていなかった。
撃ち落とせなかった大量の羽が、ララクを襲う。
「っく」
目を凝らし羽一枚一枚をしっかりと捉え、体を俊敏に動かして何とか避け切ってみせる。
適度に【ウィンドスラッシュ】を放つも、やはり羽の数の方が勝っている。
「シュロロロロロ」
【フェザーウィンド】が有効的だと判断したようで、そのスキルを何度も発動していった。羽はまだまだ残っており、シームルグの猛攻は止まる気配がなかった。
(どうする? 【テレポート】で空中に移動するか? だけど発動時には少し隙があるから、近づいたところで避けられるだけかもしれない。)
【テレポート】は長距離の移動だけではなく、戦闘にも使える便利なスキルだ。しかし、発動時と転送後に僅かだが隙ができる。
今いるララクの位置からだと、【テレポート】を使えば姿を消したことがシームルグにバレバレだ。
そうすれば、どこからか現れるのではないかと、警戒が高まるはずだ。
そんな状態で、奇襲が成功する可能性は低い、とララクは考えていた。
「【フレイムショット】」
風系統のスキルは相手に分があると思い、今度は炎系統のスキルを発動した。燃え盛る豪炎が、羽を飲み込んでいく。
炎と風系統の相性は、威力によって変わる。
風の力が弱ければ、炎の力を上昇するだけだ。
今回の【フェザーウィンド】は風の力は加わってはいるが、起点となっているのは羽だ。羽は炎によって燃えやすいので、必然的に炎系統のスキルで対処できた。
しかし、それを見たシームルグは【トルネードブレス】を発動した。
すると、羽を燃やし尽くした炎が、跡形もなく消えてしまった。
それどころか、炎を通り過ぎてララクの元まで到達してきた。
(やはり、炎ではダメか)
色々と試そうとはするものの、未だ有効打になるスキルを発動できていなかった。【トルネードブレス】は短時間ではあるがその場に残るので、どんどんララクの逃げ場が無くなっていく。
相手の攻撃を避けながら作戦を考えているので、すぐには解決方法が思いつかない。
だが、ゼマは違う。
竜巻によってララクに近づくことは出来ないが、彼女の位置からもシームルグの姿ははっきりと見えた。
空中から攻撃しているので、頭からつま先まで全て目で捉えることができている。
(今は私になんか目もくれてないけど、近づけばまた避けられる。
ここから攻撃することが出来れば、不意を突けるはず。
……確かあの子、【伸縮自在】って言ってたよね)
ゼマはこの場で相手に通用する可能性がある技を思いつく。
彼女は姿勢を低くして、まずは右腕だけでロッドを構える。棒の先はシームルグを向いていた。
そして、安定させるために左手でアイアンロッドの先端を支える。
その後、ゼマはアイアンロッドに自身の魔力を流し込んだ。
「【刺突】!」
彼女が放つのはシンプルな突きだ。彼女が何度か発動した【スイングインパクト】が打撃系統の威力を上げるのに対して、こちらは突きの威力とスピードを上昇させるスキルだ。
貫通力も高まっているので、一般的には槍使いが使用することが多い。
が、棒や剣でも発動することは可能だった。
だが、この技はリーチはあるが、空中の敵にまで届くようなものではない。
しかし、彼女が【刺突】を放った瞬間、直線状にアイアンロッドが伸びていったのだ。スキルの効果で速度が格段に上がっており、一瞬でシームルグの距離まで伸びていった。
これがララクがロッドに付与した【伸縮自在】の効果だ。
これを使用することの多い軟体戦士ワンタムは自分自身に使用していたが、武器にもスキル効果を与えることが出来るのだ。
武器に付与した場合は、それに魔力を流し込めば発動できる。
シームルグに対抗できる遠距離技として、ララクが思いつき、それをゼマが察して発動することに成功したのだ。
「シュレェ!?」
シームルグの頬に、強烈な突きが叩き込まれた。
槍のように切っ先がないので、シームルグの顔面を貫通させることは出来なかった。しかし、顔には円型の跡がくっきりとつけられており、奴の脳を軽く揺らした。
棒で放たれた【刺突】は斬撃ではなく打撃攻撃になっている。打撃系統の技は相手の頭部に当てることで、一時的に混乱させることも出来る。
が、斬撃を頭部にヒットさせられればそれだけで大ダメージなので、剣のほうが武器として優秀とされることが多い。
脳が揺れて意識が散らばったことで、発動して残ったままだった【トルネードブレス】が綺麗さっぱり消滅した。
これによって、ララクとゼマはお互いの状況を確認することが出来た。
「よっし! やっと当たった」
ゼマは棒を引き戻すと、それに合わせて長さも元に戻っていった。