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#1

 浄化警察ピュリファインの護送車に運ばれ本部まで向かわされる一同。

 その道中でサテライトシティを通っていた。

 外の空気を吸わないためガスマスクを着けられる一同だがそれ以上に苦しいものがあった。


「消えろ疫病神!」


「家を返せ!」


 多くの汚染難民たちによる罵倒の嵐だった。

 護送車に向けて石を投げつけて来る者も多くいる。

 一同は車体に石がぶつかる音を聞きながら悔しそうな表情を浮かべていた。


「チクショウ、奪ったのは俺たちじゃねぇのに……」


 サムエルがボソッと呟くと彼らを捕らえた女性ピュリファインが反論するように答えた。


「直接奪った相手じゃなくても貴方たちを支援するために未だに土地が返却されてない。よく思わないのは当然だと思うけど」


 正論を返されてしまいこれ以上何も言えなかった。

 そしてアストラルシティに着いた後も変わらずそこの住民からの罵倒は続いた。


「噂をすれば来たぞ、我々から税金をむしり取りながらも満足せずに反抗する異邦人が!」


 かつてマイクが見たデモ隊が丁度デモを行っている最中だったらしい。

 信号待ちしている間にありったけの罵倒を浴びせて来る。


「他世界の者から生活を奪ってまで生きる人生は楽しいか⁈」


 そのような言葉が止まらない。

 一同は慣れたようなものだが一人だけ、ビヨンドとなったばかりのマイクは明らかに辛そうにしていた。


「っ……」


 頭を抱え顔色を悪くしているマイクを心配したテレサは声を掛ける。


「マイク、大丈夫……?」


 するとマイクは声を振り絞り想いを吐露する。


「ずっとこんな気持ちで生きて来たんだな、正直俺もお前らを良く思ってなかったけどこんな……っ」


 人々に責められるビヨンド達の境遇を感じて絶望していた。

 そのまま彼らはピュリファイン本部に到着し、身柄を拘束されてしまうのだった。








『Purifine/ピュリファイン』

 第3話 遺伝と血








 本部に着いた一同を待っていたのは取り調べだった。

 詳しい事情などを尋問官から聞かれるのである。


「ぼ、僕は何もっ……」


 実際の尋問官を前にして恐れを抱いてしまうジークは上手く話せない。

 それほどまでに尋問官の威圧感は凄まじかった。


「アンタねぇ、いくらアタシ達に同じ人権が無いからって……!」


 文句を言うラミナも相手にしてもらえない。

 そして次はカイルの番だ。


「……俺はテレサを守る、それだけだ」


 決して自分の意思は曲げないカイル。

 彼は何を言われても揺るがない精神を持っていた。


 ***


 そして次はサムエルの番である。

 気が付くと彼は机に頭を叩き付けられていた。


「おらぁ! もう一度言ってみろ!」


 尋問官の怒号が響く取り調べ室。

 サムエルは助手に押さえつけられたまま尋問官を睨んだ。


「何度でも言ってやるよ倫理観のカケラもないクソッタレが……! こんな正当性もない尋問なんてっ……!」


 自分たちのアリバイを証明しようと必死に出来事を語る。


「俺たちじゃねぇっつってんだろ、どこに証拠があるってんだ……⁈」


 サムエルが問う間、尋問官は死んだような目をしていた。

 そして無情にも真実を語る。


「お前らが捕らえた人質な、彼が命からがら脱走して伝えてくれたんだ。お前らに事務所を潰されたってな」


「なっ……⁈」


 その事実にサムエルは驚愕してしまう。

 しかし考える暇もなく尋問官は怒りを露わにして人間を代表した想いをぶつけて来る。


「お前らが潰したあの事務所、サテライトエリアでどんな役割を担っていたか知ってるか?」


「な、何でそんな……」


「汚染難民がなけなしの生活を得るためやってた経済ごっこの要だったんだ、あの事務所が生活を支えてたようなもんなんだ」


 具体的に何をして経済ごっこを支えていたのか、尋問官はそこも解説していく。


「汚染区域からお宝掘り出してアストラルシティに売ってたんだとよ、そうでもしないと難民たちは生きられなかったんだ」


 かつてのマイクのような闇バイトで盗みを行わせている、その常習犯らしい。


「は……? それって違法じゃないのか?」


 サムエルは当然の反応を見せるが尋問官の態度は変わらない。


「法的にはアウトだ、でもそれで難民への支援金はこれ以上高くならずに済んでる。現にその物資は役にも立ってるしな」


 サムエルは絶望で何も言えない。


「それで損するのがビヨンド共だけってなら喜んでそうするだろ、まだお前らを受け入れてるヤツなんて殆ど居ねぇんだからよ」


 そこで尋問官は思い出したかのように言った。


「てか損するとか言うけどよ、汚染区域のものも元はこの世界のものだからな! お前らが勝手に居座ってるだけで!」


 そう言って尋問官は取り調べ室にあったモニターの電源を入れる。

 そしてチャンネルを合わせニュース映像を見せた。

 そこにはアストラルシティの門前で物乞いをするサテライトエリアの汚染難民たちの姿が。


『見えますでしょうかこの惨状が⁈ 頼みの綱がビヨンドにより潰され汚染難民たちは暴徒と化しているのです!』


 その映像をサムエルにしっかり見せながら尋問官は言った。


「お前らの立場はどうなるだろうな? 処分されたくなきゃ大人しくしてるんだ」


 サムエルはぐったりと項垂れてしまった。

 ただ独り言のようにポツリと想いを言う事しか出来ない。


「……だからって黙って見過ごせってのかよ」


 その声や想いは尋問官には決して届かなかった。

 そのまま取り調べは終わり彼らは隣に設立されたビヨンド専用の収容所へ送られる準備を整えられるのだった。





 収容所に送られるための車に乗せられる一同。

 そこには先にぐったりしたマイクが乗せられていた。


「おいマイク、大丈夫か⁈」


 手錠をされているため揺する事は出来ないが声を掛ける事で無事を確かめる。

 するとマイクは具合悪そうにこちらに目を向けた。


「うぅっ、生きてはいる……」


 しかし顔色があまりに酷かった。

 車に乗り込んだ職員に状態を問うがマトモに答えてくれない。


「何があったんだ⁈」


「抑制剤が効きすぎてる、まぁほっとけば治るよ」


 あまりに適当な受け答えだ。

 マイクはずっと苦しんでいると言うのに。


「何でそんなっ、エレメントが出せないからか……⁈」


 そして更にある事に気付くサムエル。

 なんとテレサが居ないのだ。


「てかテレサは何処だ⁈ お前らテレサに何するつもりだ……⁈」


 しかし質問には答えてもらえず彼らはすぐに収容所に移送されてしまった。


 ***


 一方でピュリファインからも狙われていたテレサ。

 本部にある研究室のような所で目を覚ます。


「う……」


 気が付くとテレサは既に謎の装置のようなものに縛り付けられていた。

 完全に拘束されており身動きが取れない。


「目が覚めたか娘よ……」


 テレサを娘と呼ぶ存在の声、それは少し篭った声をしていた。

 ゆっくりと近付いて来ると共に電子音のようなものも聞こえて来る。


「え、お父さん……?」


 その声の主を視界に入れたテレサは驚きの声を上げた。

 彼をテレサも父親だと認識しているようだが現在の姿に驚愕している。


「そうだ、お前の父親だ。ピュリファイン総司令、ノーマン・タイラーである」


 テレサの父親であるノーマンは謎の鉄仮面のようなものを被っており顔が見えない。

 更には電気車椅子に乗っており自力では歩けないようだ。

 更に自身をピュリファインの総司令だと名乗る。


「また私に酷い実験するの……っ⁈」


「安定した世界でお前と暮らせるようにするためだ、今だけ協力してくれ」


 そして背後にいる研究者のような男に合図を送る。

 その男は白衣を纏いテレサに近付いた。


「やぁテレサちゃん久しぶり」


「あなたは……っ!」


 テレサは彼を覚えているようだ、嫌な記憶が蘇ったかのように彼をジッと睨む。


「ではアルフ、頼んだ」


「了解」


 ノーマンは研究者の事をアルフと呼びそのアルフは了承し機械の電源を入れた。

 その機械はテレサの体をスキャンし侵食する汚染物質を探知していく。


「ここまで深く侵食しているとは、テイルゲートを取り除くのは骨が折れますよ」


 謎のワードを発するアルフ。

 しかしテレサには聞いている余裕がなかった。


「うっ、あぁっ……」


 体をスキャンする際に照射されるエレメントを探知する光が熱く苦しいのだ。


「すまない、頑張ってくれテレサ。必ず"テイルゲート"を取り除き家族にしてやる」


 このままテレサの苦しみはしばらく続いた。

 その際、家族と呼んだ仲間たちの顔がずっと頭に浮かんでいた。





 ここはピュリファイン本部の事務所。

 まだカオス・レクス戦での怪我が少し残っているリチャードが退院して自分の机に座り資料を見ている。


「まさかそんな……」


 ある資料を見て首を傾げていた。

 それは今回逮捕されたビヨンドの一覧だ。

 するとそこへドタドタと足音が聞こえる。


「父さん! どういう事だ⁈」


 慌ててやって来たのはアレックス。

 血相を変えて恐れているように見える。


「ちょっと、職場では隊長って……!」


 マイク達を捕らえた女性戦士も事務所におりマイクの父親発言を静止したがリチャードは許していた。


「良いんだニーナ、親子での問題が発生してしまった」


 リチャードはその女性戦士をニーナと呼び次にアレックスの顔を見た。

 そして見ていた資料を手に立ち上がるとゆっくり息子に近付く。


「……お前も心配か」


「そりゃそうだよ、サテライトエリアがやばいから連絡しても出ないしさ……心配してたらこんなっ」


 そしてアレックスはリチャードが見ていたものと同じ資料を突き付ける。

 そこには逮捕されたビヨンドの情報、つまりマイクの事が記されていた。


「どういう事だよ、マイクがビヨンドだなんて……⁈」


 親子揃って同じ資料を見て焦っている。

 その姿に疑問を抱いたニーナは質問をしてみた。


「似てるだけじゃないです? だって汚染区域でマスク無しでいたし抑制剤が効いてたし……」


 そのニーナの言葉に対してリチャードは返事をする。


「俺たちはマイクと家族ぐるみの付き合いだ、見間違えるはずがない……っ」


「え、じゃあ何なんです……? 彼は一体?」


 ニーナも頭を悩ませてしまう。

 そしてアレックスは自身の願いも込めて力強く言い放った。


「アイツは、マイクは……人間だっ!」


 疑問が加速していく。

 そして更にリチャードは新たな危機感を覚えた。


「本当にこれがマイクなら早速ヤバい状況だぞ……」


 資料を指して言う。


「もう収容所に移送されたよな、そこには今……」


 今まさに収容所にいる存在、それを考えるとマイクが更に心配になってしまった。


 ***


 そして件の収容所。

 そこにある牢獄にまず先に用済みとなったマイクとサムエルが入れられる。

 手錠は外してもらえたが抑制剤が効いているため力が出ない。


「くぅっ……」


 真っ暗な牢獄。

 まだ力が出ないマイクはサムエルに支えられながら地べたに座った。


「くっははは……」


 すると牢獄の奥の方。

 薄暗い闇の中から笑い声が聞こえて来る。

 視界が慣れないためよく見えないが他に囚われているビヨンドがそこに居るらしい。


「誰かと思えばサムエルのご一行じゃないの」


 その声を聞いた途端、サムエルが顔色を変える。


「ま、まさか……」


 彼らは奥にいるのが誰か分かったようだ。

 まるでこちらを嘲笑っているよう。


「えっ……?」


 それでも疑問に思うマイク。

 そのタイミングで近くに雷が落ちた。

 雷光で牢獄の中が照らされ奥にいる人物の顔が明らかとなる。


「あ、まさか……」


 見覚えがある、いや見覚えどころではない。

 テレビに映るたび憎しみを募らせた最悪の存在。

 それが今目の前で自分を嘲笑っているのだ。


「なるほど、新入りがやらかしたパターンだな?」


 その人物とは今の世界を作り出した元凶と言っても過言ではないカオス・レクスだった。






TO BE CONTINUED……

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