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#3

 時刻は昼過ぎ、アレックスとリチャードというピュリファインの戦士は部隊の制服を身につけて本部の隣にある収容所へ来ていた。

 わざわざ戦士が来た事に看守たちは驚いている。


「何故あなた方が? しばらく肩の力を抜くと……」


 一瞬見ただけでも分かる、彼らはかなり緊張していた。

 カオス・レクスを捕らえ後は残党のようなものだ、ここまで緊張する必要はないだろう。


「彼と面会させてくれ……!」


 そう言って資料を看守に見せる。

 そこにはビヨンドとして捕らえられたマイクのデータが記されていた。


「彼はダメです、抑制剤が効きすぎたのか体力を消耗していて……」


「なにっ⁈」


 抑制剤により体力を消耗してしまう原因を考える。

 人間であれば有り得るかも知れない、更に今は牢獄という汚染された空間にいる。

 アレックスが我慢できなくなり力強く言う。


「今すぐ彼を助けて下さいっ! 彼は人間です、俺の友達なんです……!」


 流石にこの焦りようにはリチャードも危機感を覚えたようで静止する。


「アレックス、落ち着け……!」


「父さんこそっ!」


「俺は落ち着いてる……っ」


 しかしとても落ち着いているようには見えない。

 滝のような冷や汗を流すリチャードの息子を止める手は震えていた。


「何を言ってるんです二人とも……! とにかく彼には会えません、お引き取り下さいっ!」


 収容所から実質追い出されてしまうような形の二人。


「彼の状態に関しては随時報告しますから、それまで待ってて下さい」


 出入り口の前で言われて二人は仕方なくその場を後にする。


「どうする? 総司令も忙しいみたいだ、市長との食事会まで会える機会はない……」


 総司令ならば何かしてくれるかも知れないと思うが彼にも時間がないらしい。


「食事会の時に聞くしかないよ」


 覚悟を決めたアレックスはそう言うがリチャードは難しい顔をしていた。


「うーむ……あの市長との間を割って話す事が許されるのか……」


 市長の人柄の事を考え首を傾げるリチャードだがアレックスは引かなかった。


「マイクのためだ、そんなこと言ってられない……!」


 友人のために覚悟を決めた事をアピールしリチャードもそれを了承する。


「分かった、何とかタイミングを伺おう」


 そして彼らは夜になり市長との食事会へ行くまで胸を落ち着かせながら待機した。





 貧困で苦しんでいる者がいるにも関わらず高級なリムジンに乗り食事会が行われるレストランまで向かう戦士たち。

 リチャードは何度乗っても慣れなかったが初めて乗るアレックスやニーナも居心地が悪そうにしていた。


「俺たちこんなの乗ってて良いのかな?」


 アレックスは運転手に聞こえないようにニーナに耳打ちをする。


「さぁ、でも立場的に問題ないなら良いんじゃない? 私は居心地サイアクだけどね」


 そう言いながら用意された高そうなお菓子をつまむニーナ。

 彼女を見たアレックスは少し引くが自由奔放な所は以前からそうだった。


「お、あそこだ」


 そして窓から目的地であるレストランが見える。

 ガラス張りのいかにも高級な雰囲気を醸し出す建物の周辺にいくつもの車が停められてある。

 関係者たちが乗って来た車だろう、またどれも高級そうだ。


「うわぁ車高そう」


「記者とか来てんだろ」


 リムジンから降りた後、三人は周囲の車を目に入れて居心地の悪さを共有し合っていた。

 そしてレストランの中へ入ると一同は更に目を見開く。


「うわ、思ったより人来てんなぁ……」


 すると彼らの存在を感じたのか記者たちが一斉にアレックス達の方を見る。


「英雄が来たぞ!」


「カオス・レクスを捕らえた本人です!」


 多くの記者が周囲を取り囲みインタビューを求めるがリチャードが静止した。


「インタビューは後で時間を設けますのでっ」


 何とか記者たちを押し除けて奥へと進んで行く。

 食事会のため綺麗に並べられたテーブルの周囲には時間まで立ち話を続けている市長やアストラルシティ政府の者たちが。


「お、来ましたね」


 市長はワイングラスを片手に持ちながら市長はリチャード達の方を見た。

 高級そうなスーツや腕時計や眼鏡、それら全てが自前なのだろう。

 流石にアストラル市民でも普通に生きていればここまでのものに手はだせない。


「お久しぶりです市長」


 リチャードが前に出て市長と握手を交わす。

 すると市長は誇らしげに彼らの功績を讃えた。


「よくやってくれた、君たちの活躍を誇りに思うよ」


 そして次にニーナ、アレックスと握手を交わして行きそれぞれに賞賛の言葉を告げていく。


「またまだ若いのにこの街のために命を賭してくれて感謝する」


「ありがとうございます……」


 しっかり応えはするが何処か市長を不審に思っている二人の若者はあまり元気には対応できなかった。


「はは、緊張する必要はないよ。今日の主役は君たちだ」


 あくまで優しい表情を浮かべる市長だが周囲の政府の者たちは冷たい表情であった。

 その違和感を覚えながらもアレックスはある事が気になって仕方がない。


「あの、総司令は……?」


 マイクの事を質問するためにも早く総司令と話がしたかった。


「おいアレックスっ……」


 リチャードとニーナは焦るような反応を見せるが市長は純粋に総司令の行方が気になったのだと感じた。


「あのお体だからね、こっちに来るのも大変なんだろう」


 そう言いながらまたワインを口にする市長。

 するとそのタイミングで出入り口の方から記者たちの声が迫って来るのが聞こえる。


「総司令、お答え下さいっ!」


 総司令が到着したのだ。

 相変わらず謎の鉄仮面を被り電動車椅子に乗っている。

 付き添いに黒子のような者を一名付けて市長に近付いた。


「揃ったぞ、宴を始めようか」


 鉄仮面のせいで篭った声を響かせる。

 しかし市長は賛成し正式に食事会が開かれる事となる。


「では皆さん席にお座り下さい、始めましょう!」


 一同が用意された席に向かって動き出す中、アレックスは総司令に話しかけたくてウズウズしていた。


「総司令っ……」


 しかしリチャードに静止され彼らは一度席に座るのだった。


「今はまだだ、機会を探ろう」


 こうして記者たちや参列した政府の役員、そしてピュリファインの職員や戦士たちは席に座り食事会を始めるのだった。





 食事会を兼ねて記者たちによる質疑応答の場を設けた今回の場。

 市長が代表してスピーチを行っていた。


「ビヨンドによる我が街への襲撃は後を絶ちませんでした、しかし彼らが主犯格であるカオス・レクスを捕らえてくれた事により事態は限りなく収束に近付いているでしょう」


 横にリチャード達を並べ彼らを讃えるようなアクションを見せる。

 そして遂に質疑応答の時間がやって来た。

 記者たちは皆ある事が気になっており同じ質問をした。


「サテライトエリアのデモは現在も拡大しています、このような事をしている場合でしょうか⁈」


「要求に応じて寄付をするとなればまた市民の不満は高まると思われますが⁈」


 汚染難民たちが抱える問題、それが気になって仕方がない。

 アストラルシティに住む者たちは恐れているのだ。


『私は士気を高めるためにもこの機会は行う方針で考えていました、それにカオス・レクスも今回の騒動を起こしたビヨンドも既に捕らえております』


 マイクを持った市長が語る。


『"これ以上の心配はない"と市民を安心させるためにも我々が余裕を見せねばなりません』


「ならば難民の問題はどう解決するつもりですか!」


『カオス・レクスにより汚染されたアストラルシティの土地を浄化して行きます、それにより経済も回復すれば難民たちの支援金も市民の所得も増える事でしょう』


 しかし記者の一同は納得しない。

 一斉に抗議を行った。


「一体いつになるんですか! それまで怯えて待てと⁈」


 確かに今から浄化し経済が回復するまでとなるといつまで掛かるのだろう。

 市民を安心させるまでの間はどうするのか。


『質疑応答並びに食事会はこれにて終了させて頂きます、皆さん気を付けてお帰り下さい』


 その言葉を最後にレストランの裏へと消えていく市長。

 総司令も共に行ったためリチャード達も焦り裏へと回った。





 バックヤードで市長は上着を身につけながら焦っていた。


「マズいな、どう信頼を取り戻す……⁈」


 表で見せていた顔とは真逆に目は血走っている。

 そこでピュリファインの総司令にある提案をした。


「そうだ、カオス・レクスや昨晩捕らえた襲撃犯を処刑するのはどうだ⁈ せめてもの誠意を見せるんだ!」


 総司令の肩を力強く揺する市長。

 しかし総司令の顔は鉄仮面で隠れておりどのような反応を見せているのか分からない。

 しかしビヨンド達を処刑するという発言を聞いたアレックスは黙っていられなかった。


「何てこと言うんですか! 処刑なんて……平等に支援するのが方針じゃないんですか⁈」


 リチャードも静止するが想いは同じなため完全に止める事が出来ない。

 しかしアレックスの声を聞いた事で市長は彼らに近付いた。


「分かってないな、支援対象者であっても罪を犯した者は平等に裁くんだ」


 それでもアレックスは納得行かない。


「それでも今の言い方は配慮に欠けていると思います、"とりあえず処刑する"という風に捉えられましたが……⁈」


 マイクの危機を感じ黙っていられなかった。

 そこで市長は呆れたように溜息を吐く。


「はぁ、実際ビヨンドの存在なんて誰も望んでないんだよ。我々は機会を伺いいずれヤツらに消えてもらうつもりだ」


「っ……」


「準備が整うまで悟られぬように支援してるだけに過ぎない、君たちもそれは分かっているだろう?」


 勝ち込みを行うまでの時間稼ぎである。

 しかしそれは極秘事項だった。


「ピュリファインに入る時この思想に共感してくれると信じ極秘事項を話したんだ、守ってもらわねば困るよ」


 それでもアレックス達はマイクの事が気がかりだ。

 黙っていられなくなりその事も口にしてしまう。


「……でも今、収容所には人間が囚われてるんですっ」


 市長はその発言が理解できなかった。

 しかし総司令は少し顔を上げる。


「何を言ってるんだ君は」


「資料を見ました、俺の友人がその中に居たんです……! 見間違いじゃない、それでもアイツは人間なんですっ!」


「はぁ……」


 大きな溜息を吐く市長だったが総司令がアレックスの方に近付いて行く。


「アレックス、それはどのような者だ?」


 真剣に質問をする総司令。

 市長は更に溜息を吐いたがアレックスはしっかり答える。


「サテライトエリアの汚染難民で身長は俺より少し低めな髪の逆立った男です……! マイクって言います」


「ほう……」


 その言葉を聞いた総司令はしばらく無言で考える。

 沈黙に一同は少し心配したがすぐに総司令は顔を上げた。


「アレックス、常識だけが真実とは限らない。……どうせ暇だろう、俺も興味が湧いた」


 なんと総司令はアレックスの言葉を信じてくれたのだ。

 市長は何度目か分からない溜息を吐いたが、そのタイミングでピュリファイン職員の男が入って来る。


「た、大変です!」


 血相を変えて慌てている職員。

 リチャードは問う。


「どうした⁈」


 するとその男は焦りながら真実を話した。


「たった今、収容所に囚われていたビヨンド達が脱獄したとの報告が……!」


 その言葉を聞いた瞬間、アレックス達ピュリファインの戦士は駆け出していた。

 マイクはどうなったのだろうか。

 戦士としての役割よりそちらが気がかりで仕方なかった。






TO BE CONTINUED……

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