食事が始まって一時間が経つ頃には既にマイクは馴染んでいた、他のビヨンド達から外の世界での話を聞かれ答えている。
「確かに殺される心配はないけどさ、直接見下されるような視線を感じるんだよ」
汚染区域内ではあまり無いような差別での苦しさを話して行くとサムエルが反応した。
「それはそれでキツいな……」
そう言いながら何か瓶を開けるサムエル。
ビールのようだったが。
「何それ?」
「リビッシュだ、さっきのリトルビーンズを発酵させて加工した俺らの嗜好品よ」
そう言って一口飲ませてくれるサムエル。
「おぉ、ビールみたいだ」
「確かにこっちの酒って感じだな」
するとサムエルはいい気になりリビッシュの瓶を一気に飲み干した。
「ぷはっ……おーいもっと持って来てくれ、マイクの分もな!」
すると大人の面々が続々と手を挙げる。
「俺も!」
「私にもちょーだい!」
なんとその中にはテレサの姿もあった。
「え、テレサも?」
「失礼な! 私だって立派なレディだよ?」
そうこうしている間に箱に入ったリビッシュが運ばれて来た、人数分どころかそれ以上にある。
「持って来たぞー!」
そして一同は揃って栓を開けた。
「じゃあかんぱーい!」
***
そこから数分で彼らの酔いは良い感じに回っていた。
住民の一人がサムエルに今回の戦果を問う。
「アリバイは大丈夫なんだろうな、ピュリファインにバレたらマズイだろ?」
「あったりめーよ! そこに元々ビヨンドがいたんだ、ソイツらとやり合ったって構図になってるはずだ」
ピュリファインの捜査がここまで来ない事を宣言しながらマイクと肩を組む。
すると酔って頭が痛くなったジークが地面に寝ながら少し反論をした。
「でも完全じゃないからねっ……時間は稼げたろうけどいつかここまで来る可能性はあるからっ……」
「わぁーってるよ、だからいつでも移動できる準備は整えねぇとな」
その言葉を聞いた一同は少し寂しそうな表情を浮かべる。
「あーあ、ここ良い場所だったのにな」
「仕方ないだろ、移動は慣れてんだし今更だよ」
まるで学生の席替えのようなノリで住処を移動する話をしている、彼らにとっては当たり前の行為なのだろう。
「いやー、でもまさかコイツがやってくれるとはな」
「えっ?」
酔った初老のビヨンドがマイクに迫る。
マイクも驚いてしまうが彼自身も少し酔っていたため素直に受け入れる事が出来た。
「ずっと人間として平和ボケしてたろうに、突然覚悟決めやがってよ」
恐らくテレサを救った事だろう。
するとサムエルも反応しマイクを更に褒めた。
「マジで疑問だよな! 何で動けたんだ? さっきまで死にビビってたのによ」
そう言われ改めて考えてみるマイク。
あの時に思った事を正直に伝える。
「いや、俺はいつも咄嗟に……何でなのか」
改めて理由を考えてみる。
その際にこの場にいる一同の顔を見て何かに気付いた。
そしてしばらくの沈黙の後、口を開いた。
「この間父さんが死んだんだ、悲しかったし知り合いも悲しそうにしてた……」
脳裏に浮かんだのは母や知り合いが悲しむ顔。
「それが当たり前って環境を知ってもっと悲しくなった、だから阻止したかったのかも……」
少ししんみりした雰囲気になってしまったがサムエルは更に質問をする。
「でもそれだけで咄嗟に動けるもんなのか?」
そう言われたマイクは父の事を更に思い出す。
「父さんがいつも言ってたんだ、困った人には手を差し伸べてやれって。その結果父さんは他人を助けて死んだし母さんもそんな事するからだって言ってた、でも……」
母との言い合いで放った言葉を再度思い出す。
「他人を想う事が間違ってるとは思いたくない、俺は父さんが間違ってなかったって証明したいんだ……!」
サムエルはその言葉を聞いて弟の死と重ねてしまった。
少し表情が曇ってしまうが疑問は晴れた気がする。
「……それで、俺たちに協力してくれるのか?」
更に質問を受けたマイクは少し考えてから頷いた。
「元人間だから出来る事、両方の立場に立つ事。それって争わないようにするためだと思うんだ、だから殺しに協力は出来ない。でもお互いに伝える事なら……!」
マイクは遂に自分だからこそ出来る事を見つけた。
その言葉を側から聞いていたテレサは自分が言った事だと認識し感心していた。
「もっと人間を知って欲しい、そして俺もまだまだビヨンドって人達を知りたい……!」
まだ疑問は拭えないがその言葉をマイクの口から聞いたサムエルは少し優しく微笑んだ。
「……はは、嬉しいもんだな。な、テレサ」
月明かりに照らされたマイクの決意に満ちた表情を横から見ていたサムエルは思わず彼の肩に手を回していた。
そこに話を聞いていたテレサが割り込む。
「嬉しいよ、私たちを"人"って言ってくれて」
その言葉にはこれまでが報われたというような想いが込められていた。
「うん、良かったね」
そして空き瓶を片手に頬を赤らめながらテレサがマイクの隣に座る。
酔いの影響かそれとも。
「何が?」
「頑張りを受け入れてくれる環境に来れて」
その言葉を聞いたマイクは思わず目頭が熱くなってしまい夜空を見上げた。
月明かりが優しく照らしてくれている。
「ふふ、これで私たち家族の仲間入りだ!」
優しく微笑みながら言ってくれるテレサにマイクはまた感動してしまう。
"家族"という言葉で認めてくれた事に感謝を覚えた。
「家族か、確かにいいな」
そのまま時は過ぎ、すっかり夜は更けて行った。
***
そのまま一同は地面に突っ伏して眠ってしまった。
夜明けまでずっと眠り続けている。
そして日が昇る頃、マイクはとある音で目を覚ました。
「ん、何だぁ……?」
地面に寝ていたので全身が痛い。
何とか体を起こし前方に目を向けた。
地面を揺らす何かが近付いているのを感じたからだ。
「っ……?」
視線を前の方に向ける。
すると酒を飲んでいなかった子供やその母親たちが向こう側から走って来る。
その背後からなんと大型の車両のようなものがやって来る。
「なっ!」
大型車両が近付いて来る轟音で流石に酒を飲み眠っていた一同も目を覚ましてしまった。
「あれは……ピュリファインッ⁈」
サムエルも一瞬で酔いを覚ます。
なんとやって来たのは浄化警察ピュリファインの大型車両だったのだ。
一同は慌てて立ち上がり車両が通る道を開ける。
そして車両はサムエル達の前で停まった。
「ふぅ……」
停車した扉からピュリファインの戦士が降りて来る。
それは女性の戦士だった。
「ニーナ一等戦士、エリア5に到着しました」
無線で上に報告しているのだろう、その女性戦士ニーナは金髪を靡かせそのままサムエル達の方を見た。
「貴方たちに逮捕状が出てるので同行願います」
浄化警察手帳を見せてサムエル達に事情を説明する。
しかしサムエル達はこんなに早くピュリファインがやって来た事が理解できない。
「なっ、俺たちが何をしたってんだ……?」
慌てながらもひとまず罪状を確認した。
するとニーナは当たり前のように答える。
「昨日サテライトエリアのとある事務所が襲撃されました、その犯人としてあなた方の名前が挙がってます」
そしてニーナはサムエルに手錠をはめようとする。
しかしサムエルはそれを拒絶した。
「抵抗するんですか? 罪が重くなりますけど……」
「くっ……」
そして下っ端の兵士に手錠をはめさせるニーナ。
サムエルは手錠から更に抑制剤まで打たれてしまった。
「ほら、大人しくしろっ」
地面に突っ伏してしまうサムエル。
彼は悔しそうに歯を食いしばった。
「うん、そこの貴方もですね」
ニーナは次にマイクの方も見た。
そのまま他の下っ端たちに指示を出す。
「逮捕状にある顔、見つけ次第捕まえといてー!」
そのままニーナはマイクにも手錠をはめ抑制剤を打った。
「ぐあっ……⁈」
元人間のマイクにとってそれは地獄のような苦しみであった、精神が蝕まれ意識が飛ぶような感覚。
これまでに味わった事のない苦痛である。
「ぁ、そんな……」
薄れ行く意識の中、マイクの視界に映ったのはテレサを始めとした他の戦いに参加した一同が捕まる様子であった。
TO BE CONTINUED……