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#4

 鉄パイプにエレメントを宿し大槍を形成したカイル。

 そのまま敵ビヨンド目掛けて猛スピードで突っ込んで行った。


「ふんっ!」


 すかさず自身のエレメントを形成し盾のように防ぐ敵ビヨンドだがあまりの威力に思い切り吹き飛ばされてしまう。

 そのまま背後の壁に叩き付けられ吐血した。


「ごはっ……クソッ、もっと念入りに仕留めとくんだった……!」


 トドメを刺さなかった事、確認しなかった事を後悔するがもう遅い。


「だったらもう一度……っ!」


 全身にエネルギーを溜めて先程バンを破壊した時のような凄まじい一撃をもう一度放とうとする。

 これで仕留められなければ再度ガス欠が起こり今度こそ負けが確定するだろう。


「死ねこらぁぁぁぁっ!」


 覚悟を決めて全力を出し突撃する。

 思い切り飛び上がり、上から攻撃を叩き付ける姿勢に入った。


「……」


 しかしカイルは冷静である。

 静かに槍を構えエネルギーを先端に収束させる。


「はぁっ!」


 そして思い切り突きを繰り出した。

 その一撃は敵ビヨンドのエレメントを貫くどころか弾き飛ばすように破壊し、体にも絶大な衝撃を伝えた。


「ぐはぁぁっ……⁈」


 そのまま意識を失ってしまう敵ビヨンド。

 マイクはカイルの圧倒的な強さを見て衝撃を受けていた。


「す、すげぇ……!」


 そのまま当たり前のようにエレメントを解き普通の鉄パイプに戻したカイルは意識を失くした敵ビヨンドの体を担ぐ。


「……相性が良かっただけだ」


 そして謙遜とも受け取れる言葉を口にした。


「確かに小さい攻撃ラッシュの相手は重たい一撃ズドンのカイルの得意分野だよね〜」


 テレサもそう言うがマイクは更に驚いた。

 今の敵が小さい攻撃ラッシュだとは。

 マイクにとっては大きな脅威に感じたから。


「行くぞ、加勢に」


 休む間もなくサムエル達の所へ向かう事を決めたのだ。





 一方でサムエルとラミナは巨漢のビヨンドと戦闘を繰り広げていた。

 更に周囲には人間の構成員もおり拳銃を使い加勢してくる。


「ラミナ、大丈夫かっ⁈」


 拳銃による攻撃はラミナのエレメントで生成したエネルギーの盾で防いでいる。

 しかしそちらに意識が持って行かれ戦いに集中できない。


「アンタの援護さえなければ大丈夫なんだけどねっ」


 細い触手を伸ばし戦うサムエルにとって巨漢のビヨンドは天敵だった。

 先程カイルが言っていた相性が悪いのである。

 なのでラミナの援護は必須だった。


『ごめん、僕が戦えれば……』


 ジークからの無線が入るが彼は他にやる事がある。


「謝罪は良いからっ、アンタはやる事あるでしょ!」


『わかってるよ……!』


 ジークの仕事はその場から逃げた依頼主を探知し逃さない事だ。

 未だに相手の居場所は補足している。


『ヤバい、車乗り込むよっ!』


 しかし車に乗られてしまえばお終いだ。

 ジークは早く加勢に来てもらう事を望んだ。


「今は行けないぞ!」


 焦る一同だった、そこへ。


「っ⁈」


 なんと突然現れたカイルが鉄パイプに宿したエレメントで拳銃を撃つ人間を一人殺したのだ。

 その結果、構成員たちは焦る。


「カイルっ、無事だったか!」


「だがガス欠間近だ、最低限の力しか出せないっ」


 それでも人間たちの相手をしてくれるだけマシだった。

 サムエルとラミナは巨漢ビヨンドに集中できるから。


「十分だよっ!」


 そう言ったサムエルは触手を伸ばし巨漢ビヨンドに巻き付け動きを封じた。


「今だラミナ!」


 そしてラミナは右腕に砲台を造り出しエネルギーを溜める。


「指図するな!」


 そして一気に放ち巨漢ビヨンドは吹き飛んだ、そのタイミングでカイルも最後の一人を突き刺す。

 彼らも勝利したのだ。


「よし、後は依頼主を……!」


 サムエルは慌てて依頼主の所へ向かおうとするがそこでジークから無線が入る。


『その必要はないよ、だって……』


 その無線と同時に彼らの所にマイクとテレサが。

 マイクの肩には気絶した依頼主が抱えられている。


「はいよ、捕まえといたぜ」


 そしてマイクは依頼主を差し出した。

 床には倒れている依頼主と死んだ数名の構成員、そして血まみれの巨漢ビヨンドだった。


「うっ……」


 しかしその血の海を見たマイクは少し吐き気を感じてしまう、しかし先程テレサを助けた時から覚悟はしていた。



『襲って来るなら積極的に倒さないと、こっちにも守るものがあるからね』



 ラミナの先程の言葉が脳に過ぎる。


「うむ……」


 そんなマイクの肩に手を置くカイル。

 戦いの意味を理解させる。


「マイク、戦いってのはこーゆー事だ。今回は不本意だったがな……」


 そう言いながらも倒れた依頼主に接近していくサムエル。

 彼らがいちいち死に動じないという事は先ほど知った。


「よし、じゃあ早速……あった」


 そして依頼主のポケットを探り彼の仕事で使うIDを入手した。

 しかしそこである動きがあった事にマイクだけ気付いていた。


「……っ!」


 なんとサムエルの背後で巨漢ビヨンドが立ち上がろうとしていたのである。

 その動きにはマイクだけが気付いていた。


「あっ……」


 一同の隙を突いて逃亡しようとする巨漢ビヨンド。

 マイクの足下には人間の構成員が使用していた拳銃が転がっていた。


「くっ……」


 今から仲間に伝えても間に合わない、自分がやるしか無かった。

 彼らの仲間に加わるため拳銃に手を伸ばした、その時だった。

 脳裏にテレサの言葉が過ぎる。



『そのお人好しな性格、私たちにも向けてくんない?』



 そしてふと巨漢ビヨンドの顔を見た。

 彼の表情が心に突き刺さる。


「〜っ」


 まるで以前のジョンおじさんや父が助けた子供と同じ。 

 命乞いをしているように見える目をしていた。


「あっ……!」


 そのまま逃げ仰る巨漢ビヨンド。

 その後になって一同は気が付いた。


「うわ、逃げた!」


「クソッ……でも情報源は手に入れたから良いか」


 巨漢ビヨンドを逃してしまったが一同はそれほど痛手ではないと判断した。


「よし、さっさと依頼主とコイツ連れて帰ろう」


 サムエルが依頼主とカイルが捕らえた敵ビヨンドを指して言う。


「うん、音を聞き付けて誰か来るかも知れないしね」


 そのまま彼らは依頼主の体と先程カイルが倒した敵ビヨンドの体を抱えて帰るのだった。


「くっ……」


 一同は巨漢ビヨンドを逃した事をそれほど気に留めていないようだがマイクは何故だかとてつもない不安感に襲われるのだった。





 外はすっかり暗くなっていた。

 エリア5に帰投した一同は敵ビヨンドと依頼主を倉庫の椅子に縛り付けた。


「良いのかアイツ、目ぇ覚めたらエレメント出すかも知れない」


 敵ビヨンドをただ縄やチェーンで縛り付けるだけで良いのか疑問を抱いたマイクはたまたま隣にいたカイルに尋ねてみる。


「抑制剤だ」


「抑制剤?」


「目覚めてもしばらくエレメントは出せない」


「そーゆーのがあるのか……」


 敵ビヨンドへの心配は必要ないようだ。

 そしてひと段落したタイミングでマイクとカイルはサムエルに声を掛けられる。


「おいお前ら、飯だってよ」


 戦えぬビヨンド達が暮らす集落の方から手招きして来るサムエル、カイルは着いて行くがマイクはまだ不安が残っていた。

 暮らしているビヨンド達と上手くやれるか心配なのである。


「む……」


 立ち止まっているマイクの心情を察するカイル。

 サムエルも気付きマイクに歩み寄りその肩を優しく叩いた。


「何も心配ないぞ、きっとみんなもお前を受け入れてくれる」


「え……」


 受け入れるというテレサと同じ言葉に反応してしまうマイク。


「なにせテレサを助けてくれた今回のMVPだからな」


 そう言いながらマイクを連れて無理やり前へ歩かせる、集落へ向かっているのだろう。

 緊張しながらも覚悟を決めるしか無かったマイクはそのままサムエルに身を委ねた。


「おーい来たぞ」


 そして集落に到着する。

 サムエルの声を聞いた一同は嬉しそうな顔でそちらを見るがマイクが一緒にいるのを目撃し一気に表情が曇ってしまった。


「う……」


 マイクもそれを感じ恐れていた予感が的中してしまう。

 それでもサムエルには抗えず外に用意された席に座る。


「外で食べるの……?」


「今日は特別だ、お前には馴染んでもらいたいからな」


 そう言って使い古されたコップに入った水を渡してくれる、マイクは疲れてもいたので一度それを飲むがまだ気になる点はあった。


「でも本当に良いのか……?」


 やはり気になるのは周囲からの視線。

 既にテレサを始めとした仲間たちは食事に手をつけており美味しそうな顔を浮かべている。

 その者たちとは住民たちも楽しそうにしていた。


「あぁ……」


 サムエルもそれに気付き周囲のビヨンド達に呼びかける。


「おーい大丈夫だぞ、コイツは俺たちのために活躍してくれた!」


 住民たちは少し揺らぐ。

 そこで一人だけ、マイクが先ほど助けたケビン少年がやって来た。


「こ、これ……!」


 そう言って器に料理を盛り付け渡してくれた。

 アストラル政府から配給された食材で作ったシチューだろう。


「あ、ありがとう……」


 マイクは器を受け取りスプーンで掬ってみる。

 すると見た事のない小さな豆が入っていた。


「何だこれ」


「リトルビーンズだ、この環境でしか育たないんだよ」


 サムエルが解説をしてくれる。

 しかしマイクは更に心配になった。


「汚染区域でって大丈夫なのか?」


「汚染って言っても本当に汚れてる訳じゃないからな、環境が違うだけ。外の世界からしたら汚染って風に見えるだけで」


 そう言われる事で少し勇気が出て来た。

 何よりせっかく歩み寄ってくれたケビン少年の想いを無下には出来ない。


「はむっ……」


 リトルビーンズたっぷりのシチューを口にした。

 すると予想外の食べた事がない旨味があった。


「お、美味い……!」


 スプーンが止まらなくなり一瞬で平らげてしまう。

 その様子をケビン少年を始めとした住民たちは見ていた。


「すげぇ美味かった……!」


 器を下げようとケビン少年に渡すが反応が嬉しかったのか少年は彼の母であろう人物にマイクが平らげた器を持って行く。


「美味しかったって!」


「うん、よかった……!」


 ケビン少年の母も少し戸惑いながらも嬉しそうにしている、どうやら彼女が作ったらしい。

 するとサムエルがマイクの肩を組んできた。


「美味いだろ? お前は分かる奴だと思ってたんだ!」


 マイクが美味いと言った事で緊張感が少し解けたのか他の住民たちもシチューを食べ始める。

 美味しそうな顔で食べる様子を見たマイクの腹はまだ空いていた、すると。


「あのよければ、まだいっぱいありますから……」


 ケビン少年の母がおかわりを持って来てくれたのだ。

 その事実でマイクは少し報われた気がした、彼女も受け入れてくれたのだ。


「あ、ありがとうございますっ」


 そしてまた一気にシチューを平らげる姿を見せるマイク、その様子を見た一同は自然と笑みが溢れていた。


「えっと、もう一杯もらえますか……⁈」


 次の一杯を平らげる頃、マイクは既に他の住民たちと雑談が出来るまでになっていた。

 徐々にエリア5、もといビヨンドの生活に馴染んで行くのだ。






TO BE CONTINUED……

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