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#3

 バンに乗った一同はマイクの運転により地図に記された地点に向かっていた。

 その際、裏ルートから汚染区域の外に出ようとする。


「ほらガスマスク、忘れずにな」


 サムエルからガスマスクを受け取ったマイクは汚染区域から外に踏み入る直前に身に付ける。

 そして一同は遂に裏ルートに差し掛かった。


「……戻って来た」


 思わず口にしてしまうマイク。

 先程までの汚染区域から見慣れた景色に戻って来た。

 周囲を見渡しながらたった一日しか経っていないのにも関わらず懐かしさを覚える。

 改めてサテライトエリアを見る事で安心感と寂しさが同時に募ってしまう。


「よし、そこだ」


 そしてとうとう目的地に辿り着いた。

 そこはサテライトエリアでも端の方にある小さなマンションが並ぶ一帯だった。

 今は個人経営の事務所があるイメージだ。


「やっぱり全然怪しまれなかったね」


 テレサの言う通りプロ達が使っていたバンで来たため怪しまれる事なく駐車できた。

 警戒されていない事の証明になるだろう。


「じゃあこのまま俺たちは依頼主に勝ち込みする。カイル、テレサを頼んだぞ」


「うむ」


 事務所に乗り込むのはサムエル、ラミナ、ジークの三人だ。

 テレサは敵の目的であるためバンで待機、その護衛にカイルが着いている。

 そしていつでも発車できるよう運転席にはマイクが座っていた。


「マイク」


「?」


 すると事務所に向かう直前にサムエルがマイクに話しかける。


「俺たちのために無理する必要はないからな……」


 その言葉を聞いたマイクは母親の事を思い出してしまう、彼女も自分のために無理するなと言っていた。


「……っ」


 そのままアパートの中へ入っていくサムエル達の背中を見ながらマイクは複雑な心境を抱いてしまった。


 ***


 アパートに入り約束の事務所へと進んで行く三人。

 しかしこちらは警戒を怠らない、いつでも戦闘できる準備を整えていた。


「ここだ」


 そして事務所と思われる扉を発見しその前でジークがある確認をする。


「うん、ビヨンドはいない」


 床に手を当て目を閉じる、そして自身のエレメントを発動したのだ。

 それと同時に感覚に伝わって来る気配。

 彼は空間を認識できるエレメントを駆使するのだ。


「中央に四人、奥に一人。多分奥にいるのが依頼主かな」


「汚染区域じゃないけど頼りになるんでしょうね?」


「汚染されてなくてもごちゃごちゃしてないから確実だと思う……」


 彼の力は汚染区域の中だとより研ぎ澄まされるのだ。

 空間に接触している物体や生命の動きを微量ながら感知できるため自らのエレメントと近い物質である汚染区域内なら更に強力になる仕組みである。


「じゃあ行くぞ、準備はいいな?」


 サムエルが指揮を取り合図をした。

 ジークとラミナの二人は頷き一斉に扉を蹴破る。


「手を上げろ!」


 ラミナがエレメントを発動し右手に赤黒い銃のようなものを創り上げる。

 それを一人一人に見せつけ脅した。

 すると奥にいたジークの予想通りの依頼主が少し余裕そうに手を上げる。


「おや、彼らは捕まったか」


 恐らくプロ達の事を言っているのだろう。

 しかしこうなる事も想定内というような様子だ。


「ウチのテレサに何の用だ? 見た所やっぱピュリファインじゃ無さそうだが」


「その通りだ、我々はピュリファインではない」


「じゃあ何者だ?」


「それはお答え出来ないなぁ」


 まだ余裕そうな態度を取り続ける依頼主の方へサムエルは近付いて行き懐から取り出した拳銃を彼の頭に突き付ける。


「状況が分かってないらしいな、お前らの命は俺らの手の中にあるんだぜ?」


 脅すように言うサムエル。

 確かにここにいる者たちは普通の人間だ、正面から戦えばビヨンドに軍配が上がるだろう。

 しかしそれでも依頼主は余裕そうな口ぶりだった。


「んー、分かっていないのはそっちじゃないのかな? まさかこれで全員だとでも?」


「なにっ⁈」


 次の瞬間、ジークが口を開いた。


「ヤバい、上から何か来るっ!」


 そう言ったのも束の間、事務所の天井が一瞬にして崩落しそこから赤黒いオーラが放たれたのだった。


「チッ、ビヨンドの用心棒か……っ!」


 突如として上から現れたビヨンド。

 その戦闘服にはある組織のマークと思わしき刺繍があった。


「このマーク、カオス・レクスの残党か!」


 ビヨンド同士の戦いが始まった。

 その隙に人間である依頼主はその場から離れる。


「ははは! 私が逃げ切るまでに彼を倒せるかな⁈」


 そのまま姿を眩ましてしまった。

 予想はしていたが戦いは激しくなりそうだ。





 一方バンの中で待機していた三人はジークからの無線で状況を知らされていた。


「えぇっ⁈ じゃあこっちで依頼主を……?」


 マイクは焦ってしまいある提案をするがテレサはそれを却下する。


「何も考え無しに動いちゃダメ、まだ他にいるかも……っ」


 そしてテレサがそう言った瞬間、カイルは何かを感じ取る。


「テレサ、逃げろっ!」


 一瞬の間に慌ててカイルはバンからテレサを逃す。

 外に放り出されたテレサはまだ状況を理解していない。


「えっ……?」


 そしてマイクも何かを感じ取り運転席から外を見た。

 すると何か赤黒いオーラがこちらに向かって来ているのを見つける。


「やべっ……」


 咄嗟にマズいと判断し運転席から降りるマイク。

 次の瞬間、まだカイルが乗ったままのバンは思い切り捻り潰されてしまった。


「うわぁっ⁈」


「カイルっ!」


 くの字に折れ曲がってしまうバンの中にはまだカイルが乗っていた。

 彼の安否が気になる所だがそれよりも目の前にいる恐ろしい存在、バンを一撃で捻り潰したビヨンドに目が行ってしまう。


「ひぃ〜ひゃひゃ! 強いヤツは先に潰しとくに限るなぁ!」


 高笑いを上げるビヨンド。

 その間にマイクは慌ててテレサに駆け寄る。


「テレサっ!」


 彼女の肩を抱き逃げる準備を整える。

 しかしビヨンドのオーラに圧倒されてしまい中々動けなかった。


「おぉ、見事にターゲットは無事だなぁ? 何よりもコイツを守る使命感があるみたいだからなぁ」


 目の前のビヨンドへの恐怖、そしてカイルやテレサへの心配が同時に脳内を渦巻く。

 自分には何も出来ないかも知れない、ここまで力の差を感じたのは初めてだ。


「くっ、おぉぉっ!」


 しかし何とか力を振り絞りテレサを抱き上げ走り出す。

 とりあえず今の自分に出来るのはそれだけだった。


「やっぱ逃げるかぁ、んっ……ガス欠かよぉ」


 追いかけようとするビヨンドだがバンを破壊するために大きな力を使ってしまったため回復に時間を要する事になった。


 ***


『おいカイルっ、どうした! 何があった⁈』


 無線にサムエルからの連絡が入る。

 慌ててマイクは答えたのだった。


「ビヨンドが襲って来て……! 俺はテレサと逃げてるっ!」


『マイクか⁈ カイルはどうした⁈』


「バンが潰されてまだその中にっ」


『っ……!』


 そしてサムエルはしばらく考える。

 無線機から戦うような音が聞こえるため彼らも危険なのだろう。


『ひとまず建物の中に隠れろ! テレサが目的な以上ヤツらも無闇に攻撃は出来ないはずだ!』


「わ、分かった……!」


 周囲を見渡すと目の前に丁度廃ビルの入り口があった。

 テレサを抱きかかえたままマイクはそこに入って行くのだった。





 廃ビルに入り一階の元オフィスのような所に隠れる。

 机ごとに仕切りがあったため姿勢を低くしていれば見つかりづらいだろう。


「はぁ、はぁ……ヤバすぎだろっ」


 息を切らしているとテレサが心配そうに顔を覗き込んで来る。


「大丈夫、無理してない?」


 またその言葉だ。

 いい加減に聞き飽きたマイクは本心を告げる。


「やめてくれそれ、無理してるとか決めるのは俺だ」


 そしてまたそのタイミングでサムエルから無線が。


『隠れたか? じゃあそのまま動くなよ、身を潜めてろっ! 頼むから無理して死んだりはするな……!』


 弟の事を思い出し焦っているのだろう。

 本来は何よりもテレサを守らなければいけないはずがマイクの心配ばかりしていた。


「はぁ……っ」


 頭を抱えて俯いてしまうマイクにテレサは質問をした。


「ねぇ、何で焦ってるの?」


「はっ?」


「さっきから"無理する"って言葉に凄い反応してる、お人好しだから散々言われて来たの?」


 少し考えたマイクは全て話してしまう事を決めた。

 今の気持ちを整理するためにも吐き出すのだ。


「ずっと母さんのために頑張って来た、俺も父さんも……! なのに母さんは無理するなって、自分はもう良いからって……っ!」


「……っ」


「でもそれじゃ俺の気が済まなかった……母さんこそ無理してた、それを見ぬフリして俺だけ楽できないって!」


 これで満足か、と言わんばかりにマイクはテレサの顔を見る。

 その話を聞いたテレサは抱いたイメージを要約してくれる、それはマイクにとって新しい視点だった。


「なるほどね、つまりお互いに譲らなかったんだ」


「あぁ……」


「マイクは自分を受け入れて欲しかったんだね」


 そう言われてある事に気が付く。

 先程ケビン少年を助けて感謝された件についてだ。

 初めて感謝されて満たされた気持ち、そして逆に自分は感謝をしなかった事。


「そうだよ、でも今更……」


 少し諦めのような発言をしたその時だった。


「ひぃ〜やっ! ここにいるかぁ⁈」


 先程のビヨンドが回復してここまで来たのだ。

 思わず肩を振るわせてしまうマイク。

 テレサの口を押さえ自分も声を出さぬように気を付ける。


「おらぁっ!」


 机や仕切りを次々と薙ぎ倒して行くビヨンド。

 このままではすぐにバレてしまうだろう。


「はぁ、はぁ……」


 息を切らしながらマイクは葛藤する。

 脳裏には人を助けて傷付いた父の姿が浮かんでいた。


「くっ、父さん……」


 どうやら血は争えないらしい。

 だからこそマイクは提案をしたのだ。


「……テレサ、俺が囮になる。ヤツの注意を引くからその隙にあの窓から逃げろっ」


 破壊の音が響くため小声でなら話せた。

 指差した先には割れた窓ガラス。

 そこからなら逃げられそうだ。


『おい何言ってんだ、死ぬ気か⁈』


 無線機からサムエルの声が響く。

 やはり彼はマイクに無理をして欲しくないらしい。


「頼む、これが俺のアイデンティティだから……!」


 そして次の瞬間、マイクは思い切り影から飛び出した。


「うぉぉぉっ!」


 すると敵ビヨンドもマイクの存在に気付きニヤリと笑った。


「自暴自棄になったかぁ⁈ ……ん?」


 しかしある事に気付く。

 テレサがいないのだ。

 つまりこれは囮作戦、マイクに注意を向けている間にテレサは逃げるのだろう。


「こっちか……!」


 予想通り窓の方を見るとテレサが逃げようとしていた。

 そのため敵ビヨンドはテレサの方へ向かい彼女を捕まえた。


「あぁっ……!」


「マズい、テレサっ!」


 片腕にテレサを抱えながら敵ビヨンドは嗤う。


「ひゃひゃ、捕まえたぜぇ」


 そしてマイクを睨みながら呟いた。


「どうやらエレメントは出せないようだなぁ、その割に大した度胸だぁ。気に入ったぜ、お前は見逃してやる」


 そのままテレサを抱え去って行こうとする敵ビヨンド。


「さっさと帰んなぁ〜」


 マイクの瞳には絶望が浮かんでいた。

 ジッと目でテレサを追う。


「っ……!」


 するとテレサが震えるマイクを安心させるように呟いた。

 その言葉は彼にとって大きな転機になる。


「大丈夫、どんな選択をしても私は貴方を受け入れるから」


 これはまるで逃げるのを諭すように聞こえた。

 テレサを置いて逃げてもマイクを責めない、そう聞こえるような発言であったがマイクは真意を察する。


「はぁ、はぁ……」


 体の重みが消えたような気がする。

 脳裏では今までの自分を否定した者たちの声が。


「くっ……」


 次の瞬間、マイクは立ち上がり転がっていたオフィスチェアを手に取った。

 そのまま気付かれぬように敵ビヨンドの背後へと近付いて行き思い切りオフィスチェアで頭を殴ったのだ。


「おらぁっ!」


 その衝撃で敵ビヨンドはテレサを離してしまう。

 地面に転がるテレサへマイクは一気に駆け寄った。


「大丈夫かテレサ⁈」


 しかし次の瞬間、テレサに駆け寄るマイク目掛けて敵ビヨンドは怒りエレメントを放つ。


「お前ぇ、ふざけんなよぉっ!」


「ぁがっ……⁈」


 そのままマイクの体は貫かれてしまう。

 覚悟を決めた矢先、やられてしまうが後悔はなかった。


「(後悔はないさ、テレサも言葉通り受け入れてくれる……っ)」


 薄れ行く意識の中でテレサの事を考えていた。

 そのままテレサの目の前で血を流し倒れてしまうマイク、どう見ても致命傷だった。


「……うん、やっぱり言葉の意味わかってくれたんだね」


 そう呟いたテレサはマイクの一番大きな傷口に手で触れる、そして自分に宿るエレメントを彼に注いで行った。


「安心してマイク、私なら貴方を受け入れてあげられるから……!」


 そしてエレメントを注いで行くと同時にマイクの傷口は塞がって行く。

 そして次の瞬間、マイクの意識に何かが流れ込んで来た。





 意識が戻りつつあるマイク。

 その中でビヨンドになってしまった時に見た夢のような光景を再度見る事となる。


「(これは、エレメント……?)」


 赤黒いエネルギーと蒼白いエネルギーが混ざり合い自身に宿って行くのを感じる。

 そしてマイクは目を覚ました。


「……はっ」


 気が付くとテレサの膝枕で寝ている事が分かる。


「目ぇ覚めた?」


「あ、テレサ……」


 傷が治っている、その事について聞いた。


「何で傷が? あの時も……」


 ビヨンドと化してしまった時もテレサにより傷が癒えていた、という事はテレサの力なのだろうか。


「私の力だよ、ビヨンドの傷を癒せるんだ。それよりも……」


 やはりテレサの力らしい、何て神秘的なのだろう。

 しかしそれ以上にテレサは言いたい事があるらしい。


「ちゃんと意図汲んでくれたんだね」


「あぁ、お前なら受け入れてくれるって気付いたんだ」


 そしてテレサはマイクがずっと求めていた言葉を告げる、それが彼らの始まりとなるのだ。


「ありがとう、マイク」


 テレサに感謝されたマイクは一瞬嬉しさで涙を流すもすぐにある事に気付き飛び起きる。


「そうだ、敵はっ⁈」


 先程までそこにいた敵ビヨンド。

 そして視線をある箇所に向けると何やら戦闘が行われている事に気付く。


「チッ、お前まで生きてやがるなんて……!」


 敵ビヨンドの攻撃を防いでいる存在、それはカイルだった。

 なんとあの潰れたバンの中からやって来たのか。


「マイク、俺からも感謝する」


 そう言って敵ビヨンドの攻撃を防いでいる鉄パイプに自身のエレメントを纏わせて行く。

 そのエレメントは鉄パイプに宿り大きな槍のような形を作った。


「……後は任せろ」


 そして大きな槍を構えながらマイク達を守るようにカイルは敵ビヨンドに立ち向かって行くのだった。






TO BE CONTINUED……

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