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#2

 マイクはテレサに連れられある場所へと向かっていた、まだ完全に受け入れた訳ではないがひとまずテレサしか希望がないためだ。

 その際にテレサから現状の説明を受けていた。


「ビヨンド達も集落ごとに土地や資源を求めて争い合った話は知ってる?」


「あぁ、聞いた事はある」


「実は最近は落ち着いてたの、かなり数が減っちゃったからね」


「そうだったんだ……」


 ビヨンド達にも色々と事情があるらしい。

 恐ろしいものである事に変わりはないが。


「私たちは静観してた、子供も多いからね。でもここは良い土地だから狙われた事は何回もある、それで追い返してたら危険な奴らだってピュリファインに目ぇ付けられちゃった」


 歩きながら周囲にいる戦えないビヨンドたちを見せて行くテレサ。

 確かに子供の姿は多かった。


「でもカオス・レクスの対策でこっちにまで手回し出来なかったみたい、でも逮捕されたでしょ?」


 マイクは思わず身震いした。

 カオス・レクスが逮捕された意味。


「だから今はその対策をするの」


 そしてある古い倉庫のような所に辿り着いた二人。

 錆びついた扉を力一杯開けるテレサ。

 マイクの目に飛び込んで来た景色は。


「え……っ?」


 そこにいたのは先程の会議室にいたこの集落に住むビヨンドの構成員たち。

 更に中央の二つ並んだ椅子には見覚えのある姿が。


「うぅっ……」


 なんと闇バイトでテレサを攫おうとしたプロの二人が椅子に縛り付けられ尋問されていたのだ。

 汚染物質を取り込まないためガスマスクは装着されたままである。


「何でこの人達が……?」


 テレサに目を配り回答を求めるマイク。

 先程はお互いのためになるように等と言っていたが明らかにこれは暴力的に見える。


「ごめんね、本当は誰も傷付けるような真似はしたくないんだけどさ。どうしてもって時は手荒な事もするよ」


 そしてテレサも彼らに近付いて行く。

 それでも尚、不安そうなマイクに対しラミナが呟いた。


「良かったね、コイツらが先にバイトは何も知らないって言ったからアンタは無事」


 嫌味のようなラミナの言葉にマイクは血の気が引く。

 しかしテレサがすぐに緩和した。


「もー脅かさないで! そんな扱いはしないから!」


 変に怖がらせて来るラミナと彼女を静止するテレサ。

 それでも今は彼女らが何をするのか気になった。

 するとテレサはパソコンを弄るジークの所へ行きあるものを受け取った。


「はいコレ、コイツらのポケットに入ってた」


 そう言ってジークはプロ達の顔写真の貼られたIDカードのようなものをテレサに手渡す。

 テレサはそのカードを確認して行く。


「浄化警察ピュリファイン……やっぱりね、私に特別な何かあるの?」


 なんと彼らはピュリファインの一員らしい。

 その言葉でマイクは初めて知る、自分に闇バイトをさせた組織の正体を。


「え、ピュリファイン……?」


 一人で驚愕しているマイクを他所にプロ達は黙ったまま。

 それに対しサムエルが脅しをかける。


「おい答えろよ。お前らが腐ってる事は知ってるけどよ、こっちも守るものがあるんだ。何でテレサを狙った?」


 プロの内の一人の胸ぐらを掴み迫るサムエル。

 マイクから見れば優しい印象の彼であったが敵にはここまで恐ろしいのか。


「テレサ、特別なビヨンド……だが俺たちはただ依頼を受けただけだ」


 そしてサムエルの顔を睨んで嘲笑うように言った。


「はは、もうお前らも終わりだよ。後ろ盾となっていたカオス・レクスはもういない」


 そう言ってプロの男は何か口をモゴモゴと動かす。

 何をしようとしているのか、サムエルが察した時にはもう遅かった。


「やばい、伏せろっ!」


 慌ててサムエルはテレサを庇う。

 そしてプロの二人は奥歯で何かスイッチを押した。

 次の瞬間、彼らの体が爆発を起こし飛び散る。


「うわぁぁぁっ⁈」


 熱い爆風が全身を包む。

 あまりの衝撃に驚きを隠せなかったが他のビヨンド達は溜息を吐いていた。


「チッ、何も聞き出せなかった……」


「大丈夫だよ、IDがあるからそれハッキングする」


 目の前で人が二人も死んだと言うのに情報が大事ともとれる発言をしている。

 それがマイクにはとても信じられなかった。


「何でみんな……人が死んだのにっ!」


 思わず震えながら口に出してしまったマイク。

 何故死を見たというのにここまで冷静なのだろう。


「……アンタ、随分と幸せだったんだね」


 ラミナがそんな事を口にする。

 マイクは一瞬理解が出来なかった。


「アタシ達の暮らしは常に死と隣り合わせなの、いちいちビビっていられない」


「そんな……」


「襲って来るなら積極的に倒さないと、こっちにも守るものがあるからね」


 そう言ってラミナは苛立ちながら倉庫から去ってしまう。


「おい待てよ……っ! ジーク、ハッキングよろしくな」


「あいよ」


 そんな彼女を追い掛けるサムエルはジークに挨拶だけした。

 その場に残されパソコンを弄るジークと何も言わないカイル、そしてテレサとマイクは気まずい時間を過ごす事となる。





 ジークがプロ達のIDをスキャンしたハッキングで情報を集めている間、カイルは爆発したプロ達の死体処理をしている。

 その環境に耐えられずマイクは外へ出ようとした。

 外に向かい歩いて行くマイクを見た一同、その中でカイルはビニール袋に飛び散った肉片を集めた後テレサに声を掛けた。


「……何故ヤツをここに?」


 寡黙なカイルはようやく口を開きテレサに質問をする。

 単語は少なかったが彼の意図をテレサは察していた。


「これから協力してもらうから私たちが何やってんのか知ってもらわなきゃって思ってさ、まぁいきなりショッキングだったね……」


「……そうだな」


 そしてマイクは外へ出ようと倉庫の扉に手を掛ける。

 少し開けたタイミングで丁度扉の前でサムエルとラミナが話しているのを見つけた。


「あっ……」


 気付かれないように少しだけ開けた隙間から覗き込み彼らの話を聞いてみる。


「何でアンタ、そんなに優しく出来るのさ?」


 ラミナがサムエルにマイクの事で質問をしている。

 するとサムエルは少し俯きながら言いづらそうに答えた。


「似てると思わないか、ディランに……」


 見知らぬ男の名前を口にするサムエルはどこか心苦しそうにしていた。


「はぁ⁈ アンタ本当に大丈夫、とうとうイカれた?」


 何やら彼らの中ではデリケートな話題らしく、そんな人に似ていると言われたマイクは自然と気になってしまう。


「未練ったらしいのは分かってるけど……! まだ後悔が止まらないっ……ん?」


 そこで一瞬マイクの方を向いたサムエルと目が合ってしまった。

 彼は一瞬戸惑うがすぐに近付いて来る。


「悪いな、弟を重ねちまったんだ……」


「弟さんに……?」


 サムエルの反応から察するに弟は亡くなったのだろう。   

 マイクはそう考える。


「同じビヨンドの仲間を庇ってピュリファインにやられた、だからあの時のお前を見て思い出したんだよ……」


 ジョンおじさんを庇った時のマイク。

 サムエルには弟のように見えたらしい。


「でもあんま気ぃ遣わなくていいぞ、アイツは自分の意思を貫いたんだ」


 口ではそう言うサムエルだが苦しみが伝わって来る。


「ただ……まだ弱かったアイツを戦場に向かわせた俺に責任があった、だからお前は無理するなよ」


 無理をするな、そう言われたマイクは少し母親を思い出してしまう。


「なるべく人の死を知らず平和に生きてくれ、じゃないとお前みたいなヤツはすぐ首を突っ込む……」


 人の死に怯えていたマイク。

 どうやら弟も人の死に敏感だったらしい。

 だからこそ身を挺したのだろう。



『お人好しのせいでどうなったか知ってるでしょ?』



 それでもマイクは母を思い出してしまったため複雑な気持ちだった。


「お前は平和の中にいろ、危険な事は俺たちに任せてな」


 肩に置かれた手は震えていた。

 するとそのタイミングでジークからの呼び出しが入る。


「お、良い感じの情報出たぞー!」


 その声を聞き三人は倉庫の中へ戻るのだった。





 集まった一同はジークが弄るパソコンのモニターをジッと見る、そして解説を求めた。


「どうやら彼ら、あの後テレサを引き渡しに行く予定だったみたい」


 ハッキングしたデータから地図を見せるジーク。

 地図上ではサテライトエリアのある位置に印がつけられていた。


「ピュリファイン本部に持ってくんじゃないのか?」


「僕もそう思ったんだけどね、なんか怪しいな」


 サムエルが当然の疑問を抱きジークも答えた。

 そのやり取りで全員が先程のプロ達が怪しく思えて来る。


「裏があるね」


 そしてテレサの核心的な一言で一同は決心する。


「よし、引き渡しの時間は?」


「一時間後だね」


「じゃあ早速準備すっか」


 一斉に立ち上がり各々で準備を始める。

 倉庫の壁にかけてあったタクティカル装備を手に取り身に付けて行った。


「っ……!」


 その光景にマイクは圧倒されてしまう。

 彼らの目の色の変わりよう、本当に戦いに行くのだ。


「マイク、ちょっと待っててね。調べてすぐ戻るから」


「えっ、テレサも行くの……?」


 テレサも着いて行くらしい、彼女がいなくなるのはかなり心許なかった。

 このままでは自分を苦手とする集落の人々の中に置き去りだ。

 だからこそ声を上げる。


「ちょ、ちょっと待って……! 俺はどうすりゃ良い……?」


 ここで一人残るのは心細かった。

 しかし反応は思っていたものでは無かった。


「なっ、お前も行く気か……⁈」


 弟の話をしたばかりのサムエルは驚いた口調で言った。

 他の一同も当然驚いている。


「いやあの、テレサが行っちゃったら俺ここで一人で……どうすりゃ良い?」


「あー、なるほどね」


 更にマイクは思う事があった。


「それに……ジッとしてられなくて」


 その言葉を聞いたテレサは一同に問う。

 マイクを連れて行くべきか。


「ねぇどうする、連れてく?」


 しかしそれに合わせてラミナが聞いて来た。

 それはビヨンドにとって大切な力。


「アンタ、エレメントは出せんの?」


「え、エレメント……?」


 聞いた事はある、ビヨンド特有の力らしいが。

 もしや変貌した自分にも出せるのではとマイクは思ってしまう。


「あの赤黒いやつか? どうやって出せば……」


 出し方が分からず質問してみるとラミナが答えた。


「アタシ達にとってエレメントは生まれた時から感覚として備わってるの、感じられない時点でダメね。人間から変わったからそもそも無いのかも」


 人間から変わったビヨンドは出せないと言うのか。

 今のラミナの発言でテレサも反応した。


「おーい、地味に私も傷付くんですけど」


「あ、ごめん……」


 今の発言から察するにテレサもエレメントが出せないのだろう。

 そしてマイクを慰めるように言った。


「うーん、まぁ出せなくても役には立てるから。似たもん同士頑張ろうよ」


「あぁ……」


 そこでテレサはマイクの役割を提案する。


「マイクにはさ、運転してもらうのは?」


「え、結局手伝わせるのか……? 危険じゃないか?」


 サムエルは微妙な反応を見せる。

 先程の弟の件があるのでその意図がマイクにも分かった。


「無事に終わらせるまで待ってて貰って、乗り込んだらすぐ飛ばせるようにしとく! 私を攫った時と同じやり方だね」


 冗談めかしく笑えない事を言うテレサにマイクは肝が冷えたがお陰で役割を与えられた。


「……はぁ、戦わないなら良いか」


「それに相手は人間だし、ピュリファインとか他のビヨンドじゃないなら初陣に適してるんじゃない?」


「あぁ、じゃあ行くか。さっさと依頼主をとっちめてIDだったり情報を手に入れるんだ」


 更にそうする目的も明かす。


「……そしてテレサが狙われる真の理由も探ろう」


 彼らもテレサが狙われる理由は詳しく分かっていないらしい、なのでそれも探る目的があった。

 サムエルが改めて作戦の内容を伝え彼らは目的地へと向かうのだ。

 そして外へ出て車を停めてある所まで向かう。

 マイクは目を見開いた。


「ホラ、このバン。一応回収しといたんだ」


 そこにあったのはマイク達がテレサを攫うために乗って来た黒いバンだった。


「確かにこれがあれば怪しまれず近付けるな……」


「そーゆー事、更に全員乗れる!」


 そしてバンに乗り込んだ一同は地図に記された場所へ向かうのだった。

 敵の動向を探り目的に近付くため。






TO BE CONTINUED……

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