「ごめんなさい。別れてくれないかしら……」
「はいぃ?」
朝学校へと登校し自分の席へとたどり着いた時、俺の席の前に立っていた彼女、
「え? なに言ってんだよ朝から
「本気よ?」
「……り、理由は? 俺何かしたか? 頼りなかった?」
「
「じゃぁ、じゃぁなぜ!?」
がしっと真珠の両肩を掴み、同じ質問を何度も繰り返すが、真珠はずっと俺に同じ答えを返してくるばかり。
朝からそんなやり取りをしていたのだから、教室には既に登校してきていたクラスメイト達が居るわけで、ひそひそと俺達の事を見ながら話す声が聞こえてくる。
きーん こーん
かーん こーん
予鈴が校内に響き渡り始め、真珠は肩に置かれていた俺の手を振り払い、もう一度頭を下げてから教室を出て行った。
夏を迎える前の、すがすがしく爽やかな、緑の匂いが含まれた風を取り込むために開けられている窓から吹き込み、俺の鬱陶しい程に伸びていた前髪を押し上げる。
俺、
だからというわけじゃないけど、周囲の高校と比べると偏差値は高い方じゃないのにもかかわらず、受験する時の倍率はものすごく高い。
そんな学校に運よく合格できた俺であったが、更に驚くことに入学してゴールデンウィーク明けには彼女が出来た。しかも俺は成績も
そんな俺に、クラスメイトで同じ班員である相手の方から俺に告白してきてくれて、最初は冗談か良くある『嘘コク』なのかと疑いもしたけど、青々とした木々が初夏を思わせる爽やかな風に揺られる公園の中で、顔を真っ赤に染め上げながら俺に伝えてくれたその言葉が本当にうれしくて、1年とちょっと経った今でも思い出すと胸の奥がジンと熱くなる。
その告白してくれた相手というのが、朝イチで俺に『お別れ』を告げた手代木真珠だ。
――なんでなんだ……真珠……。
俺はその日一日の授業内容を覚えていない。この日ちょうど数学の時間に答えを当てられる席に居たのにもかかわらず、なぜかその時に当てられた記憶も答えを言ったという記憶もないというほど、俺の精神状態は危うい状態になってしまっていたのは間違いない。
「ねぇ聞いた?」
「何を?」
「えっと……手代木さんが
「え!? あの阿久問くんと!?」
「しぃ~!! 聞こえちゃうわよ!!」
「あ、ごめん……。でもいいんじゃない? 学校イチのイケメンと学校イチのアイドル様だもん。陰険クソヤローな滝櫻なんかと違ってさ」
「そうよね。お似合いよね」
きゃっきゃウフフと話をするクラスメイト女子。
――おい!! 聞こえちゃうって言ってるけど、お前たちが話をしている席は俺の隣だからな!! 聞こえない訳ねぇだろ!!
心の中でチッと舌打ちしながらも、俺は出来るだけ聞こえていないふりを続ける。
――しっかし……どこから流れてるのかねぇ……。その
真珠に朝イチ公開処刑されてから早2週間が経ち、宣告を受けて1週間はどん底に居るような感覚で過ごしていたけど、この女子達が言うように真珠は才色兼備で学校内で1、2を争う程有名な女の子。
学内定期考査ではいつも成績上位に名を連ねているし、部活でも1年生の時点で陸上の短距離で全国大会への切符を手に入れる寸前まで行っている。
黒髪ロングヘアを走るときはお団子状に纏めたり、ポニーテールにしたりしながら走り抜けるその姿に、陸上部だけじゃなくても男女野視線を集めてしまうのは仕方ないのかもしれない。
そして何より、真珠は誰にでも分け隔てなく優しい。凄く優しく
緩い笑顔で接してくれるので、キュン死してしまう男女が多発してしまった。
それから真珠は学校のアイドルへの道を駆け上って行った。同時に何も取り柄の無い俺が『彼氏』という話もまた広がって行ったけど、周囲は暖かい目で見守ってくれている感じがしていたのだが、最近になってちょっとその暖かい目が『鋭く突き刺さる視線』に変わってきている。
正確に言うと真珠と別れる2カ月前からは、一部の生徒たちから向けられる視線が痛かった覚えがある。
――ま、いいさ……。今の俺には守るべきものが無いからな……。
机に伏せていた顔を捻り、出来るだけ聞こえない様に耳に腕を押し当てながら、更に会話が聞こえない様にする。
一日の大半を机に顔を伏せている状態で過ごしていると、当初は授業をする先生方にも注意されて起されたりもしたが、どこからか流れ聞いた噂が影響しているのか、最近は割と『そのまま』にしてくれる先生が増えて来た。
実の所割とそういう風に接してもらえて助かっている面もある。何故か俺が発言したりすると刺さるような視線を感じるようになってきたから、あまり目立つような事をしたくないからだ。
先生もその事に気が付いている様で、この2週間で2度も先生に呼び出され、その辺りの事についてマンツーマンで話をされたのだけど、俺から出来る相談なんて無い。噂に関しても事実ではないし、実際に『そんな事』を目撃されたなんて事があるわけがないのだ。
「しかしだな恭祐、このままというわけには……」
「先生が聞いているその俺の噂ってどんなものなんスか?」
「ん? 恭祐は知らないのか?」
「知りません。というか興味が無かったので……」
「そうか。俺が聞いているのは――」
担任教師である
『好きでもない女子に手当たり次第に声を掛けている』
『女の子をとっかえひっかえして、飽きたら捨てるを繰り返している』
『付き合った女の子に暴力や暴言を吐く』
『夜になると悪い奴らとつるんで色々犯罪をしている』
「中学生の時に女子を妊娠させてポイ捨てにした――なんてのも聞いたな」
「なんだそりゃ……。俺はそんな事してませんし、出来ませんよ……」
「そうだな。1年の担任だった先生もそう言っているし、恭祐を見ている限り、俺もそんな事をする奴じゃないと分かっている」
「ですよねぇ……」
俺と権藤先生が大きなため息をついた。
「しかしこのままというわけにもいかんだろ?」
「手だてが有りませんよ。先生も知ってるでしょ? 俺はあまりコミュ力が無いんですから、人から信頼されてたりなんてしてませんし、誰かに手伝ってもらうなんてできませんよ」
「そうか? クラスの連中ではけっこう恭祐を擁護する声が上がってるぞ?」
「え?」
「恭祐は知らんだろうが、ウチのクラスでその噂を信じているのは女子の一部だけだぞ。男子はほぼ全員かな? 女子も大半は恭祐がそんなことするはずがないと俺に相談に来てる」
「……そうですか」
胸の奥がジンと熱くなり、顔が熱くなってきた。
人と話すという事があまり得意ではないけど、俺は俺なりにその人と向き合って出来る限り視線をそらさずに話を聞いたり答えたりという、ごく当たり前な事をしてきた。
そういう事もあってか、毎学期ごとの班長選出などには候補として名前が俺以外から推薦されるなんて事もあったりする。
そして何度かは班長をした事もある。
「恭祐は決して一人じゃない。声を上げないだけでお前を信じている奴らもいる。だから……負けるんじゃないぞ」
「はい……」
先生に肩を叩かれながら、俺の眼から自然と涙がこぼれていた。
「よう恭祐!!」
「……
久しぶりに買い物でもしようと、一人で隣町にある大きなショッピングモールへと赴き、お店のショーウインドー越しに商品を見ていたら、背中越しに声を掛けられ振り向く。
俺の背中側に居たのは、幼馴染である阿久問泰士と、俺の元カノの手代木真珠。
二人が付き合いだしていると聞いた時から、一番会いたくは無かった相手だ。
「何してるんだ?」
「何って……見てわかる通り、買い物だよ」
「あぁ!! お前まだパソコンイジリしてるんだっけ?」
「……まぁそうだけど……」
「一人でか? あぁそっかそっか!!」
「…………」
「わるいなぁ恭祐!! お前の女を取っちまう形になってよ!!」
「…………」
「まぁ陰キャでオタでその上女にだらしないお前には真珠はもったいないぜ。だから俺になびいちまうのは仕方ないって事だ」
泰士は辺りに人がいる事も気にしていないようで、大きな声で自慢するかのように俺に話す。
そうしていると俺があまり聞いていない事に気が付いたのか、チッと舌打ちをひとつして、側にいた真珠をグイっと引き寄せた。
「せいぜい女子に気を付けろよ? お前が刺されでもしたら幼馴染の俺としても悲しいからよ。まぁその時は俺と真珠で見舞いに行ってやるけどな。死んでなければ」
がははははと大きな声を上げて笑う泰士。
大きなため息を一つつき、俺が真珠に視線を向けた。
にこり
――っ!?
瞬間に泰士に向けられていた真珠の視線が俺の方へと向きを変える。そしてその顔がいつも見ていたあの優しい微笑に変化した。
「じゃぁな恭祐。一人の時間を楽しめよ。いつまでもな」
手を振りつつ俺の側から離れていく泰士。真珠もその後に続き俺の側を離れようとした時、俺の方を振り向き何かを無音で発した。そうしてまたにこりと微笑んで泰士の後に続いて歩いていく。
――え? あれって……。
その場にしばらく立ちながら、先ほどの光景をしばし考えていた。
「待ってて」
俺にははっきりと真珠がそう言っていると気が付いた。ただ何を待っていればわからない。
そうして時間だけが過ぎていく。
阿久問泰士とは幼馴染ではある。しかしどちらかというと仲が良いとは言えない。
家が隣地区同士であり、遊びに行く公園では一緒に遊ぶ頻度も多く有ったが、泰士は所謂『ガキ大将』であり『信長タイプ』の人間である。
自分がいう事が絶対であり、他人の意見はほぼ聞かない。自分がしたい事、欲しいモノは絶対手に入れたいとするやつで、嫌いな奴や嫌な事は完全に拒絶して接することもしない。
子供の頃から少し体が他の子達よりも良く、体格さや力で敵わないから付き従っているという子も多くいたし、その泰士の権力をあてにしてくっついている奴らもいた。
俺はそういう泰士とは真逆というか、あまりうまく話せはしないけどいつも一緒に居て楽しい奴らとともに遊ぶことが多く、時に泰士たちと意見がぶつかったりする事もありながら、お互いが『すみわけ』出来るようにと波を立てない様にしながら過ごしてきた。
中学生となると周囲の地区から一緒に同じ学校に通う事になったのだが、泰士は変わらずに振る舞い、いや小学生の時などからするとさらにひどくなってきていたような気がする。
部活でも野球部に入り、体の大きさを活かして早くから活躍し、周囲からも注目と期待をされるようになって、ますます手がつけられないようになった。
1年生の時に不運にも同じクラスになってしまい、あの横暴なキャラでクラス中のボス的な存在に君臨していたけど、なんとかやり過ごし2年生になってようやくクラスが離れ俺は一安心していたが、そのクラスでも泰士はやっぱり『泰士のまま』だった様だ。
まさか同じ高校へと進学するとは思っていなかった。強豪野球部で有名な所から声がかかっていると聞いていたから、てっきりそっちへ進学すると思っていた。
入学式の時に顔を見てびっくりしたのを覚えている。もう奴とは交わる事はないと思っていたのだけど……。
泰士と真珠と偶然会った時から時は過ぎ――
高校生生活にて劇的に変化するなんて事も無く、2年生の秋になり周囲は進学先の事などの話題が増え始め、同じようにもう一つのイベントである数年に一度の学園祭の話しも増加した。
俺のクラスでは仮装喫茶をする事が決まっていて、その準備に忙しい日々を送っている。
何故か俺が実行委員に推薦され、あま理目立つのが好きじゃないから断ったのだけど、クラスの皆からの良い要望で、結局は実行委員をする羽目になってしまった。
当初はあの噂の事もあり、俺の指示に従ってくれるなんて難しいんじゃないかな? と思っていたのだけど、予想外に皆協力的でいつの間にかウチのクラスの中で俺の事を悪く言う人たちも減っている気がする。
おかげで準備は順調で、当日を迎えることが出来そうなのだけど、未だに『仮装』なのに男子が『女装』して接客するというコンセプトに納得できない。女子は各々が好きな仮装をしていい事になっているんだが――。
――何故に俺までが女装しないといけないんだ!?
担当をローテーションすると人手が足りない時間が出てくるという事で、俺も組み込まれてしまっているのだ。
――あぁこれであれを見なくて済むからいいか……。
ウチの学校では毎回学園祭の名物として、ベストカップル大賞なるイベントが開催される。
今回はそのイベントにあの泰士と真珠がノミネートされているのだ。
イベント当日。
俺のローテーションわり振りの時間までは、クラスの催しを手伝ったり、足りないものを買うためにに少し出掛けたりと、自分に出来る範囲で動き続け、いよいよ自分の割り当て時間が近づいてきて着替えをする為に更衣室へと向かう。
がしっ!!
がしっ!!
「え?」
「恭祐確保!!」
入った瞬間に俺は両腕を掴まれ、背中越しに羽交い絞めにされるという状態位に陥る。
「な、何すんだ!! 放せ!! 着替えできないだろうが!!」
「しなくていいんだよお前は」
「は?」
クラスの中でも仲が良い数人の男子生徒が羽交い絞めされている俺の前でニコリとほほ笑む。
「さて、では行くぞ!!」
「「「おう!!」」」
「おいこら放せ!! 何処に行く!! ちょ、ちょっちょっ!!」
「大人しくついてこい」
「……何処にいくんだよ?」
「「「「「体育館だ」」」」」
「え? いや、今の時間は……」
「
にこりとしたまま男子生徒に強制連行される俺。そうして辿り着いた体育館ではまさに今『ベストカップル大賞』のエントリー者がステージの上に勢ぞろいしていて、体育館の中に集っている生徒も一般の方々もみなテンションが高い状態になっていた。
「――では続いてのカップルのごしょうかいでぇ~す!!」
陸上部の先輩だったはず――何度か真珠の練習を見学していたので顔を見たことが有るけど――の女子生徒がマイクを持って歩み寄って、丁度これから泰士と真珠を紹介するところの様だ。
「2年生の阿久問泰士君と手代木真珠さんでぇ~す!!」
「「「「「「「「「「「おぉ~!!」」」」」」」」」」
紹介された瞬間に上がるボルテージ。
「アピールポイントなどお話ししてください」
「えっと、俺達がこの場に立てるなんて光栄です。でも皆さんも知っている様に織れと真珠はお互いが大好きで――」
「違います!!」
泰士がデレデレな顔をしながら答えていると、キーンと大きなハウリング音と共に突然大きな声が体育館中に響く。
「な、何を言ってるんだ真珠!!」
「違います。私はあなたの事が大嫌いです」
「はぁ? 俺のこと好きだって言ったじゃないか!?」
「いつ? 私があなたを好きって言ったの?」
「だって告白の時に――」
「お付き合いしてくださいと言われたから、はいと答えただけだけど」
「いやいやいやいや!! 好きだから告白をオッケーしたんだろ?」
明らかに動揺している泰士。すると真珠がクラスメイトに連れられて入って来た俺達の方へと視線を向け、そのままこくりと頷くと、俺を連れたままクラスメイト達がステージの方へと歩き出した。
そしてそのまま一緒に上がり、俺はようやく実が自由になったのだけど、そのままクラスメイト達は俺の後ろ斗横に回り込み、どこにもいかせない様にと包囲網を作る。
「先輩、マイクいいですか?」
「はいはぁ~い。予定通りでいいの?」
「はい。お願いします」
スッと先輩が手を上げると、体育館中に誰かの声が流れ始めた。
『知ってるか? 滝櫻ってやつな、中学生の時に女を妊娠させて逃げたんだぜ?』
『恭祐はな、お前たちの事なんて気にしちゃいねぇんだよ。あいつにとっておまえらなんて価値ねぇって言ってんだからよ』
『あいつにちょっかい出すと、裏のやつらが襲ってくるぜ? アイツ危ない奴らとつるんでるからな』
『気を付けろよ? お前らの彼女狙われてるぜ? 滝櫻ってやつにな』
「な、ななななな、なんだこれは!!」
ステージ上で先ほどよりも動揺する泰士。そして音声を聞いてどよめきだす体育館内。
「私は恭祐の噂がどこから出ているか調べたかったの。それで恭祐の事を良く知っていると思う幼馴染のあなたにたどり着いた。でも本当にあなたから出ているのかなんて証拠が無かったわ。だからあなたの彼女になる事で、あなたがしている事を証拠に出来るかと思って色々と手を回していたのよ」
「なんだと!? いや、こ、こんなの知らない。俺じゃない。偽物で偽造したんだろ!?」
『明日さぁ、俺と真珠はベストカップル大賞ってのとるんだけどさぁ。くくくく……あの広めた噂のおかげで相当まいってる恭祐が、更に落ち込むかと思うと笑えてくるぜ!! あははははは』
「……て言ってるけど?」
「こ、こんなこと言ってない!! 嘘だ!! こ、こんなの何処で!?」
「知らなかった? あなたが通ってるBARだけど、あのお店の店員さんって私のお兄ちゃんなんだよね」
「なっ!?」
「大好きな人のピンチだから助けてってお願いしたら、お兄ちゃんの後輩さんが
「な、なんだ……と」
「という事で、これと同じ内容のものは既に職員室へと届けてるからね。後で先生……以外にもお呼び出し食らうかもね?」
にこりと微笑む真珠。
「阿久問泰士、私の大好きな恭祐にした事……絶対に許さない!! これまでの事も、もちろんこれから先もね。覚えておいて」
「あ……」
膝からがっくりと崩れ落ちる泰士。そうして体育館に入って来ていた先生方数人に抱えられるようにしてステージを下ろされ、そのままどこかへと運ばれて行った。
「恭祐!!」
「え!? は、はい!!」
泰士が運ばれて行く様子をぼんやりと見送っていたら、大きな声で名を呼ばれびくりと体が跳ねる。
「ごめんね。こうでもしないとあの人の本性を掴めなかったの」
「えっと……俺の為……に? いつから?」
「変な噂が流れ始めた時から……かな?」
「そっか……そんな早くから……」
「本当にごめん!! それで……その……」
「ん?」
真珠がもじもじしながら俺の顔を見つめてくる。
――あれ? この場面って……。
脳裏にあの時の事が蘇る。
「滝櫻恭祐君!! ずっとずっと大好きです!! わたしと付き合ってください!!」
体育館中に響き渡る真珠の声。耳まで真っ赤に染め上げて頭を下げている。
そうして静まり返る体育館内。
――あの時もこうして俺に告白してくれたんだよな……。こんな難も取り柄の無い俺に……。
「頭を上げてよ真珠」
「え?」
ポンと頭に手を乗せ、それからかがんで真珠の手を取り顔を上げさせる。
「こちらこそ。こんな俺で良ければ。またお願いします」
「は、はい!! ありがとう!!」
ばふぅ
「うわぁ!!」
返事を聞いた瞬間に真珠が俺の胸の中へと飛び込んできて、慌てて真珠を抱きとめ、足に力を入れて踏ん張る。
こうして体育館の中では静寂から一転しお祭り騒ぎとなったのだった。因みにこの日ベストカップル大賞は該当なしとなり、俺と真珠が『特別賞』を獲得したのだけど、前代未聞のイベントとして代々語りつがれていく事を俺達はまだ知らない。
泰士はあの後、先生達に付き添われ職員室ではなく校長室へと連行され、その場に保護者の両親も後に合流し、真珠が集めてくれた証拠などを一緒に確認。
そのうえで、非行行為が確認されたという事と、今回の事がかなり悪質であるという事で1週間の謹慎処分の上、退学処分が言い渡された。
俺に関することは全てうそであり、泰士がばらまいた元凶であることが全校生徒に知れ渡ると、俺にようやく平穏な日々が戻って来て、俺の側にいつも真珠が居てくれるようになった。
久しぶりに訪れた公園で二人、静かにベンチに腰を下ろし、夕日を眺めていた。
「ありがとう真珠」
「なにが?」
「助けてくれて」
「ううん。私は当たり前のことしただけだよ? だって……」
「ん?」
「いやじゃない? 大好きな人が悪く言われるのって」
「そっか……俺も大好きだよ。真珠の事……」
「恭祐……」
真珠が初めて終えに告白してくれた公園で、日が沈んでいく二人の影が静かに重なった。