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ラジオのお仕事
ラジオのお仕事
土井武志(ハビタ)
現実世界仕事・職場
2025年03月12日
公開日
6,817字
連載中
普通の大学生、伊織美鈴が、ラジオのお仕事に巻き込まれていきます(笑)
テレビに比べて極めて少人数で制作されているのがラジオ番組です。
その現場は数々の苦労にまみれていますが、それ以上に楽しさにも溢れています。
そんな雰囲気が伝わるといいなと、書き進めていきますのでよろしくお願いします!
毎週水曜日更新予定です。

第1話 電リクって何?

「伊織さん!メッセージ急いでまとめてや!」

 番組構成作家・牧原隆一の関西弁が、伊織美鈴を追い立てる。

「はい!すぐにスタジオに持っていきます!」

 その日、秋葉放送(Akiba Broadcasting System)通称FMakibaのテレフォンセンターは大騒ぎになっていた。数多く並ぶ電話がひっきりなしに鳴る。そしてそれを受けてリスナーからのメッセージを用紙に書き留めていくオペレーターたち。通話を切り、その話をまとめて書こうとしているとすぐにまた電話が鳴る。まさにテンヤワンヤなのである。

 ラジオで受け付けるメッセージと言えば、メールやSNSなのが一般的だ。だがこの番組「サトカナの情報ジャンクフード」略称「情ジャン」は、10年以上ぶりに電話リクエストを復活させたことで業界では話題となっている。

 ひと昔前の生放送ラジオといえば、電話によるリクエスト曲の受け付けや、パーソナリティーへのメッセージ、その日のテーマへのエピソード募集などが当たり前だった。だが、2010年を超えた頃から、少しずつその様相が変わってきたのである。その原因の第一は、インターネットやスマホの普及によるメールの台頭だろう。ネットによるメールやSNSの発展は、葉書やFAXでの投稿をあっという間に駆逐した。なにしろ一通送るのに数十円の郵便代がかかる葉書や電話代が必要なFAXに比べ、メールやSNSは無料と言ってもいい。その立場が置き換わるのは当然だと言えた。

 そしてそれと時を同じくして問題になったのが、電話を受け付けるオペレーターの人件費の高騰だ。

 その昔、生ワイドと呼ばれるラジオ局の看板番組は、それぞれ番組ごとに大学生のバイトなどで、電話オペレーターを確保していた。しかも、多い場合は毎回数十人を揃えていた。そんな状況に、時代とともに高騰していくバイト代が重くのしかかり始めたのである。その上この時代のラジオは、テレビやネット配信との比較での媒体力の衰退もあり、番組予算を減少させる必要もあった。そして廃止されたのが電話オペレーターであり、電話リクエスト番組であった。

 今回「情ジャン」で電話オペレーターが復活したのは、たまたま付いてくれたメインスポンサーのおかげである。

 メッセージアプリ「LIME」。

 スマホを使って、友人などと文字によるメッセージやスタンプのやりとりをする人気アプリだ。日本での普及率90%以上、若者層に至っては98%とも言われている。そんなLIMEには音声通話機能もある。インターネットを経由するため無料で電話のように通話できることで人気だが、文字によるメッセージに比べると利用者は極端に少ない。

 そこで生まれたアイデアが「電リク」なのだ。

 若者に音声通話の楽しさを普及させ、残りの2%を埋める。そして日本での全年代普及率100%を狙っているらしい。

 と、言うのは、美鈴が高校時代の先輩から聞いた受け売りだ。

 美鈴は、そんなビジネス的な話には興味は無いのだが、ラジオ局のお仕事にはほんの少し好奇心が動いたのだ。それが、こんな状況に彼女が巻き込まれた原因だと言えた。


「電リクって何ですか?」

 その日、大学に入ったばかりの伊織美鈴は、高校時代の先輩に呼び出されてカフェで難しい話を聞かされていた。

 先輩の名前は流川理央、21歳の社会人だ。短大を卒業後、テレビやラジオの番組を制作する制作会社に入社、今は出向でラジオ局のFMakibaでディレクターとして働いている。

 久しぶりに会った美鈴に理央は挨拶をするわけでもなく、開口一番こう言ったのだ。

「電リクが復活するんだ!すごいだろ!」

 そこからは美鈴にとって意味不明な単語の連発だった。今思えば、それは全てラジオのお仕事で使われている用語だったのだが、その時の美鈴にはまさにチンプンカンプンだったのだ。

「電リクというのはだな、電話リクエストの略だ!」

「ああ、確かリスナーさんから、ラジオで流して欲しい曲のリクエストを電話で受け付ける……んでしたっけ?」

 ほとんど無い知識から絞り出すようにそう言った美鈴に、理央が力強く言う。

「その通り!まさに生放送番組の醍醐味だ!」

 美鈴は、ふーんと言うように軽くうなづいた。

「伊織、分かってるの?」

「え? 分かってると言うか、電話じゃなくてメールやLIMEでいいんじゃないかな、と思って」

「まぁそうなんだけどね」

「今でもまだ、そんな番組ってあるんですか?」

 美鈴の問いに、理央が中空を見つめて何かを考える。

「多分、日本中のラジオ局を探してもほとんど死滅してると思うなぁ」

「そうでしょうね」

 そう言って美鈴は、右手のカフェラテをひと口飲んだ。

「あ、でも!私でもふたつだけ知ってるぞ!四国放送の演歌deリクエストと、RKBの電リクじゃんけんだ!」

「どんな番組なんですか?」

「うーん……私も聞いたことないから知らない」

 そう言って理央は苦笑した。

「それで、私にお願いがあるって言ってましたけど、どんなことなんですか?」

 美鈴の質問に、理央はニヤリとした笑みを返した。

「今度始まる新番組を担当することになったんだけど、その番組で電リクが復活するんだよ。だから、伊織にも手伝って欲しいんだ」

「私に?」

「ああ。電リクとなると仕事が山ほど増えるから、これまでの体制じゃ人手不足にもほどがある!だから、伊織にデスクのバイトを頼みたい!」

「デスクって何ですか?」

 美鈴が首をかしげる。

「番組まわりの色々をお願いする仕事なんだけど、まぁそれはおいおい説明するとして、ねぇ、ラジオのお仕事に興味はない?」

 この時から、美鈴の大騒ぎの生活が始まったのである。

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