八月下旬、正確には二人で夏祭りを巡った翌日のこと。幼馴染の水瀬葉月は謎の病で病床に伏していた。
「あたしはもうダメらしいね……」
いつもの強かな彼女らしくない細々しい声でそう言った。彼女が弱音を漏らす姿を見るのは初めてでだった。
「そんなことは無い! 今から救急車呼ぶから」
「無駄だよ。あたしの身体のことはあたしがよく知ってるもの」
それなら、そうかと思った。本人が拒否しているなら仕方がない。日本には救急車に乗らない自由があるのだ。彼女を尊重しよう。
他にも理由はある。彼女の頬は血が通っており、唇も口紅を塗ったかの様に赤い。とうてい病人には見えなかったのだ。
それでも、もうダメなのかと私は彼女を上から覗き込むようにして聞いてみた。
彼女はか細い声で『ダメダメ。身体が熱くてとても耐えられない』と言った。
そしてぱっちりとした眼をゆっくり開けた。大きな潤いのある眼で、長いまつ毛に包まれた瞳は、ただ一面に真黒であった。彼女の眼には自分の姿が鮮やかに浮かんでいる。
私は昨日の今日でこうなるかと訝しんだ。昨日まであれだけ元気に夏祭りを巡っていたのに、本当に病気なのだろうか?
「やっぱり、病院診てもらった方が……」
私の問いを遮る様に彼女は語り始めた。
「あたしには夢があるの。恋愛事に疎くて鈍感で朴念仁な、だけどユーモアだし思いやりに満ちてる大好きな人と結婚すること」
彼女なりの遺言だろうか。その様な夢があったとは。幼馴染としても初耳であった。
それと同時に葉月さんの病気、その原因をかなり絞れた。あとは本人に直接確かめるだけである。
「葉月さん。もしかしてこの病気は……?」
彼女は頬を赤リンゴの様に染め上げながら、ジト目で私を見て喋り出す。
「うん。不治の病。恋煩いだよ。誰かさんのせいでね」