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第37話:シナリオの行方

「おかえり。そしてお疲れ様」


 ルウの部屋。

 僕とケイはメインクエストのラストエピソードを迎えるため、ルウに会いに行った。


「いろいろイレギュラーがあって、一時はどうなるかと思ったけど、ここまでこれて良かった」

「頑張ったねヒロ。では私とのエンディングに進もうか」

「うん」

「じゃあ俺は一旦ルウの中に入るよ」


 ケイがルウの中に入り、僕はルウと共にエンディングを迎える場所へ向かう。


 エンディングの場所は神の間、生命の木セフィロトの枝の下、攻略対象が主人公に告白をするというエピソードだ。

 主人公が魔王を倒した後に、最も好感度が高い攻略対象の部屋を訪れると始まり、攻略対象に誘われて告白の場所へ向かう。

 ちなみに好感度が5以上の場合はエンディング前に恋仲になることもあり、その場合はエンディングで別のイベントが発生する。


「私たちの間で告白は今更だからね。今日はヒロにおねだりをしようと思ってるんだ」


 ステータスウィンドウを確認して見たルウの好感度はMAXのハート10。

 魔王戦をクリアしたことで、最後の好感度アップが完了している。


「ルウがおねだりなんて珍しいね。何を望むの?」


 僕は微笑んで答える。

 何をおねだりされるかは知っているけれど、ここは知らない感じで話しておこう。


「知ってるクセに」


 クスッと笑われてしまった。

 それからルウは生命の木セフィロトの幹に片手で触れて、微笑みながらこちらを見つめる。


「で、OKしてくれるのかな?」

「OKしなきゃクリアしないの分かってて言ってるよね?」


 今度は僕が笑って言う。

 もちろんそれを断るつもりはない。


「いいよ。多分それがケイを現実世界へ戻す方法だと思うから」

「じゃあ、これを食べて」


 ルウが生命の木セフィロトの枝からもいだ果実を、指先でつまんで差し出す。

 僕は雛みたいに口を開けて、真っ赤なハート型の果実を放り込んでもらった。

 甘酸っぱい果実は、サクランボみたいな味がする。

 でも一般的なサクランボよりも粒が大きめで、糖度が高い。

 贈答用の化粧箱に入ってる高級サクランボに近い味と形だ。


 果実の中には種が1つ。

 これを飲み込むことで、身体に変化が起きる。


「どう?」

「なんか、疼くような感じがする」

「触ってみてもいい?」

「う、うん……ひゃっ?!」


 自分の身体に何が起きたかは、情報として知っている。

 知ってるんだけど、ルウにそこを触れられた途端、ビクッとして変な声が出てしまった。

 男性の身体に無いモノが、今の僕の身体にはある。


「OK、ちゃんと機能してるね。じゃあ……攻めるよ?」

「ど……どうぞ」


 ルウが楽しそうだ。


 生命の木セフィロトの種には、生き物を1日だけ両性具有にする効果がある。

 つまり、それを食べた僕は今、男性でありながら女性の機能も備えた身体になっていた。


「今日はこっちの姿にしておくよ」


 いつもなら行為に及ぶ際は少年の姿になるルウが、青年の姿で攻めてくる。

 期間限定で存在する場所に、ルウが入ってきた。

 初めてなのに痛みが無いのは、生命の木セフィロトの果実に快感をもたらす効果でもあるのか?

 やがてルウが解き放ったモノは、僕の胎内に新たな生命を宿した。


 生命の木セフィロトの根元は、子供を授かりたい天使カップルが行為に及ぶ場所でもあった。

 神様は呼ばれなきゃ出てこないので、気にしなくてOK!



 30分後(多分)。

 満足そうに微笑むルウの横で、普段は経験したことがない感覚に翻弄され続けた僕は果てていた。

 ゼェゼェ息切れしていたら、ルウがいたわるように頬を撫でてくれた。


生命の木セフィロトの実には妊娠確率100%にする効果もあるから、これで君は妊娠した筈だよ」


 ルウの身体に憑依してしまったケイを、現実世界に連れ戻す方法。

 それは、僕がルウとの子を胎内に宿してケイを憑依させ、一緒にログアウトすることだった。


「ケイはそっちに入ったよ。ログアウトしてみて」

「ありがとう。また会いに来るからね」

「うん、待ってるよ。次にログインしたらヒロは出産することになるけど」

「あはは……子供に会うの楽しみにしてて」


 そんな会話を交わし、感謝のキスをして、僕はシステムウィンドウを開いてログアウトした。


 ルウが時間操作をしてくれたおかげで、プレイタイムは5時間ほど。

 ゲーム世界ではかなり長い期間を過ごしたけれど、現実世界では僕がログインした夜で、まだ夜明け前だ。

 ケイが昏睡状態になっている期間としては3日、入院2泊目の深夜、消灯の時間帯で付き添いがいる個室だから、看護師が見回りに来ることは無いだろう。

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