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第31話:白狐の少女リマ

 翌日の放課後、星琉はまたエルク狩りに来ていた。

 昨日手に入れた肉は家族分に保管していたのをリマの家に置いてきたので、改めて家族分を狩る。

 冒険者たちと共に森に入ってゆくと、ちょっと毛色の違うエルクが出てきた。

「お、上位種だな。そいつの魔石なんて1000年に1度出るかどうかの神話級だぞ」

 と教えてくれた冒険者たち、すっごい期待している様子。

「それじゃ、運試し行きます」

 星琉の姿がフッと消え、直後に上位種エルクが消滅と同時に肉と…

「あ、魔石でた」

「だと思ったよコンチクショウ」

 あっさり出る神話級魔石に、一同のテンションおかしい。

 とりあえずストレージに収納して、狩りを終えた星琉は街へ出かけた。


「おじさん、ミノ汁テイクアウトお願い」

 ミノタウロス料理の常設屋台へ行くと、星琉はミノタウロス汁を持ち帰りにしてもらった。

 それをストレージに入れると、今度はスマホの転移アプリで獣人たちの里へ向かう。

 前回は初めて行く場所だったので転送陣を使ったが、2度目なのでアプリで行ける。

 リマの家の前に出ると、洗濯物を干している母親がいた。

「こんにちは~、これ差し入れです」

 まるで近所の人みたいなノリでストレージからミノ汁が入った容器を差し出す。

 リマは両親と兄の4人家族と聞いていたので人数分買ってきている。

「えっ?いいんですか?ありがとうございます」

 洗濯物を干し終えて差し入れを受け取りながら、リマの母が言う。

 そして星琉がリマの様子を聞こうとした時

「あれ?セイル??」

 聞き覚えのある声がして見ると、家の中から1人の少年がヒョッコリ顔を出した。

 剣術大会で最初の対戦相手だったナルだ。

「えっ?ここナルん家だったのか」

「おう。そういや昨日はリマが世話になったって?ありがとな」

「大した事はしてないよ」

 友達感覚で談笑していると、不意に気配探知が敵の接近を報せた。

「…2体か」

 ナルも分かるらしく呟いた。

「祠を狙ってるみたいだ」

「リマが…!」

 母親の慌てた様子で察した星琉とナルが祠へ走る。


 祠の傍ら、白狐の少女は血だまりの中に倒れていた。

 首に2ヶ所、刺されたような深い傷があり、そこから鮮血が流れ続けている。

 先に着いた星琉が抱き起こしたが、少女の身体はグッタリとして動かなかった。

 昨日倒れた際に抱きとめた時とは違う、命が尽きようとしている気配…

 しかし、瀕死の重傷ながらまだ息はあった。

「リマ!」

 妹と同じその名を呼び、星琉が最上級回復魔法エクストラヒールを発動させた。

 少女の身体を淡い光が包み、損傷した細胞を再生してゆく。

 僅か2~3秒で傷は跡形も無く消え、呼吸もしっかりしたものになってくる。

「………」

 少女は目を開けた。

 そこへナルも駆け付けてくる。

「大丈夫か?!」

「ナル、リマを護ってて」

 意識が戻ったリマをナルに託し、星琉は祠から離れてゆく敵を追った。


 異形の者が2体、森を駆ける。

 鋭い爪と大きな牙を持つそれは、剣歯虎サーベルタイガーに似た魔物。

 魔物はそれぞれ口に魔石を咥えていた。

「それは返してもらうよ」

 声がした直後、魔物はボボッ!と音を立てて2体同時に消滅する。

 その場に現れたのは星琉、TシャツにGパンという普段着姿だが、リマを抱き起した時に返り血で染まっていた。

 星琉は手にした刀を鞘に納めた。

 残されたのはドロップ品と思われる魔物の毛皮と牙、そして魔石が4つ。

 2つは倒された魔物がラグスの祠から奪った物だ。

 星琉はそれらを拾うと、祠へ戻った。


「取り返して下さったんですね…」

 星琉から森の守護石を受け取り、リマはホッとした様子で目を潤ませた。

「身体は大丈夫?どこか痛いところ無い?」

「はい。勇者様が治して下さったから…ありがとうございます」

 心配する星琉に、リマは微笑んで答えた。

「ありがとなセイル。お前が来てなかったらリマは死んでたかもしれない」

 ナルも頭を下げて言う。

 彼が駆け付けた時には治癒が済んでいたが、少女の血に染まった衣服や地面の血だまりを見ればどれほどの重傷だったかは想像がつく。


「そうだ、これも何かに使える?」

 ふと思いつき、星琉はストレージから上位種エルクの魔石を取り出してリマの手に乗せた。

「!!!!!」

 神話級の魔石を渡されて、リマも横から覗き込むナルも耳やシッポの毛が逆立つほど驚いた。

「お、お前!な、何だよそれは!!!」

 ナルは動揺し過ぎて声が上擦っている。

「え~と、今日ドロップした魔石だけど」

「いやそれ普通ドロップしないし!」

 涼しい顔で言う星琉にナルのツッコミが入った。

「その魔石を使えばこの森全体を包む結界が作れます」

 どうにか落ち着きを取り戻し、リマが言う。

「その結界があれば森への瘴気の流入や、今回のような魔物の侵入を防げるのですが…」

 星琉が倒した剣歯虎のような魔物は、本来この森にはいないものらしい。

 森の守護石が1つで浄化しきれないほどの瘴気が流れ込むというのも滅多に無いという。

「私は魔力が足りなくて、その術を起動出来ないのです。でも、勇者様が持つ膨大な魔力を分けて頂けたら出来ると思います」

「魔力って人に分けてあげられるのか。いいよ、いっぱいあるからテキトーに持ってって」

 気軽に応じる星琉。

「お前そんな野菜かなんか分けるみたいに…」

 ナルのツッコミが入った。


 リマは祠の中に上位種エルク魔石を置くと、魔法陣を展開させた。

「ではこちらに…」

 そして、星琉の手を引いて魔法陣の中心に誘導する。

「ここにいるだけでいいの?」

「はい」

 答えたリマが、ポンッと音を立てて白い仔狐の姿になる。

「…えっ?!」

 驚く星琉。

 その足元から仔狐がよじ登ってくる。

「抱っこして下さい」

 キュルンとした目がめちゃくちゃ可愛い。

「…は、はい」

 可愛いは正義、逆らえる筈は無く、星琉は仔狐リマを抱っこした。

「なんだ星琉、お前カワイイ生き物に弱いのか。俺も仔狐になっとけば大会で勝てたかな?」

 ナルが大笑いしていた。


 星琉に抱っこされながら、白仔狐リマは結界の魔法を起動する。

 祠に置いた上位種エルク魔石が光を放ち始めた。

「眩しいので目は閉じてた方がいいですよ」

 リマに教えられ、星琉は目を閉じる。

「この森に安寧を、聖域サンクチュアリ!」

 魔石の光が一気に広がり、大きな魔法陣が森全体を覆った。


「もう目を開けても大丈夫ですよ」

 言われて目を開けると、光は治まっていた。

 森の中の空気が変わっているのが感じられる。

 それは例えていうなら清められた神社の敷地内のような清々しさだった。

「これで結界は完成?」

「はい」

 星琉の問いに答えた仔狐が、ポンッと音を立てて少女の姿に戻った。

 仔狐を抱っこしてた筈がケモ耳美少女お姫様抱っこ状態に変わり、星琉しばし呆然。

「えっと…もう降ろした方がいいのかな…?」

 とりあえず聞いてみた。

「はい。ありがとうございました」

 リマが微笑んで答えたので、そっと降ろしてあげた。

「なんだ、女の子より狐の方がいいのか?次は俺が狐になろうか?」

 ナルが面白がってからかう。

「もう!お兄ちゃんうるさい!」

 ふくれっ面で言うリマは巫女ではなく普通の少女の口調になっていた。

(…普通に話すと、うちの理真みたいだなぁ)

 兄妹のやりとりを見て、リマに日本に居る妹を重ねる星琉であった。


 兄妹を家まで送った後、帰ろうとした星琉はリマたちの母親に慌てて止められた。

「そんな血まみれの服で帰ったらお城の人たちビックリしますよ」

 そう言って、かけてくれたのは洗浄ウォッシュの魔法。

 無属性の生活魔法、賢者シロウ作。

「ありがとう。じゃあまた遊びに来ます」

 友達の家に遊びに来た時みたいなノリで言うと、星琉はスマホの転移アプリで帰っていった。




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