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第30話:獣人の里ラグス

 放課後、星琉は冒険者たちに誘われてエルク狩りに来ていた。

 エルクは鹿系の魔物で、肉は滋養に富み怪我や病気で身体が弱った者の回復に役立ち、角は邪気を払う効果があるのでお守りの素材に使われている。

 その魔石は滅多に出ない、出れば奇跡と言われるのだが…


「…あ、魔石でた」

「…ちょ!それ伝説級!!!」

 あっさり、それもゴロゴロ出てしまうのが星琉。

 女神アイラが【就職祝い】に上げてくれた運は、かなりの数値になっているようだ。


「森の守護石と呼ばれる物をこんなにドロップするとは。幸運とかいうレベルではないな」

 ミカンか何かみたいにカゴ盛りされた伝説級魔石を献上され、国王は驚きを通り越して笑うしかない。

「女神さまのおちゃめという事で…」

 星琉も苦笑して言うと、ヒランッと落ちてくる世界樹の葉っぱ。

 ん?また何か?と思って手に取り見てみると…


『それ1つラグスの里に届けてね byアイラ』


「………。ラグスの里って何処っ?」

 しばし沈黙した後、星琉はツッコんだ。

「獣人の村ね。王都の噴水広場の転送陣から行けるわよ」

 隣から葉っぱを覗き込みながらイリアが教えてくれた。

 すると、ヒランッとまた1枚葉っぱが落ちてくる。


『イリアも一緒に行ってね byアイラ』


「………え?!」

 星琉&イリア、揃って二度見。

 顔を見合わせた後、揃って国王を見た。

「…ど、どうした2人とも?」

 思わずタジッとなる国王。

 その横には、カゴ盛り状態のエルク魔石。

「伝説級魔石、1つラグスの里に届けろって言われました」

「一緒に行けって言われたの」

 それぞれ葉っぱを手に困惑気味に言う2人。

「…お…お告げとあらば仕方なかろう?行くがよい」

 同じく困惑しながら国王は言った。


 噴水広場の転送陣は、許可を得た者だけが行き来出来る仕組みだった。

 星琉とイリアは勇者や聖女の称号があるのでフリーパスらしく、魔法陣の上に立っただけで起動した。

「魔石を届けるのに何でイリアも行けって言われたんだろうね?」

「アイラ様、いつも詳しくは教えてくれないのよね…」

 ワケが分からないままラグスの里へ行く2人。


 そのワケは、現地に着いてすぐ明らかになった。

「聖女様!」

 現れたイリアを見て、付近にいた人々が駆け寄って来る。

「良かった、助けに来て下さったんですね」

「アイラ様のお告げでここへ来るよう言われたのだけど…」

 まるで来るのを待っていたような反応に、イリアはまた困惑する。

 獣人たちが顔を見合わせた後、事情を話してくれた。

「実は、森の守護石が黒く濁ってしまって…」

「草木が枯れたり、病気になる者が増えたりしているのです」

「女神さまにお祈りしていたら聖女様が来て下さったので、守護石を浄化して頂けるのだと思いました」

 守護石、と聞いてイリアは星琉を見た。

 なるほど、と理解した星琉がストレージからエルク魔石を取り出す。

「それで女神様がこれを持ってけって言ったんだね」

「!!!」

 獣人たちが驚いてそれを見る。

 まだ未使用、真新しい【森の守護石】だ。

「今日これ10コくらいドロップしたから、お裾分けするよ」

「…そ、そんな木の実かなんかみたいに…」

 伝説級アイテムを気軽にお裾分けする少年に、獣人たちが困惑した。


 星琉とイリアは獣人たちの案内で守護石を祭る祠を訪れた。

 祠の中に置かれた魔石は確かに黒く濁っている。

「これを聖女様のお力で浄化してもらいたかったのです」

「黒色化した魔石は良くない気を放ってしまうものね」

 言うと、イリアは祠の魔石に手をかざした。

浄化ピュリファイ!」

 魔石は光に包まれ、透明に変化した。

 …しかし…

「えっ?どうしてこんなすぐに黒く…」

 イリアが驚いた。

 せっかく浄化した魔石が、ジワジワと黒く濁り始める。

「魔石の許容量を超える瘴気が流れ込んでるんです」

 声がした方を見ると、白い狐耳とシッポの少女がいた。

「リマ様…」

「意識が戻られたのですか…」

 獣人たちが呟いた。

(…リマ…妹と同じ名前だ…)

 その名を聞いて、星琉は実家にいる次女・理真が心に浮かぶ。

 白狐の少女リマは星琉に歩み寄って来る。

「勇者様、新しい魔石を隣に置いて頂けますか?」

 言われて、星琉は持って来た魔石を祠の魔石の隣に置いた。

 少女がそれに手をかざし、唱える。

同期シンクロナイズ!」

 1つでは流れ込む瘴気を防ぎ切れなかった魔石が、2つの力となり瘴気に抗い始めた。

「聖女様、もう一度浄化をお願いします」

 リマに頼まれ、イリアが魔石に手をかざした。

浄化ピュリファイ!」

 魔石は透明に戻り、微かな光を放ち始める。

 キラキラした金色の粒子が魔石から湧き出て、フワ~ッと森中に広がっていった。


「これでこの森は大丈夫…」

 言いかけて、少女がフラッと倒れかかる。

 隣にいた星琉が慌ててそれを抱きとめた。

 縦抱きするように支えたが、リマは意識を失ってグッタリしている。

「この子、魔石が受ける瘴気を減らしてくれてたのね」

 少女の手足が黒ずんでいる事に気付き、イリアがそちらにも浄化魔法をかける。

「リマ様は祠の魔石を管理する巫女なのです」

 獣人の1人が教えてくれた。

「巫女は聖女様のような浄化の力はありませんが、魔石が受ける瘴気を他の物に移し、負担を減らす事が出来るのです」

 事情を聞いている間に、イリアの浄化でリマの黒くなっていた肌が白さを取り戻した。

「あとは休ませてあげれば回復するわ。星琉、家まで運んであげて」

「分かった」

 星琉はリマを横抱きに抱え上げ、イリアと共に獣人たちの案内でリマの家へ向かう。

 少女の身体は華奢で軽く、ゴハンちゃんと食べてる?と心配になった。


 リマの家は祠の近くにあった。

 同じ白狐の獣人である母親が先代の巫女だそうで、現在はリマに力を譲渡して巫女ではなくなり、普通の女性として暮らしているという。

 父親は冒険者だそうで、今日は仕事に出ているらしく不在だった。

「これ、リマちゃんが起きたら食べさせてあげて下さい」

 抱えていたリマをベッドに寝かせた後、星琉はストレージにあったエルク肉を母親に渡した。

 エルク肉は身体が弱った者に食べさせるといいらしいので、リマの回復に役立つだろう。

 妹と同じ名前の少女が何かほっとけない星琉であった。

「ありがとうございます」

「いっぱいあるから気にしなくていいですよ」

 頭を下げる母親に、星琉は笑みを向けた。


 その後、星琉とイリアはラグスの長に報告した。

 ラグスの長は大柄な狼タイプの獣人で、剣術大会で出会ったルーに似てると思ったら兄だという。

 剣術大会に出ていた獣人たちはみんな冒険者で、普段は世界各地を旅していて里にはいないらしい。

「貴重な魔石に浄化の力、心より感謝する」

「弟さんにカタナを頂いたので、お礼が出来て良かったです」

「お礼が高価過ぎる気がするが…そうだ、ルーがジパングに行っておるから土産を買ってこさせよう」

 狼人の長は思い付き、笑って言う。

「じゃあ楽しみにしてます」

 星琉も笑って答えた。




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