放課後、星琉は冒険者たちに誘われてエルク狩りに来ていた。
エルクは鹿系の魔物で、肉は滋養に富み怪我や病気で身体が弱った者の回復に役立ち、角は邪気を払う効果があるのでお守りの素材に使われている。
その魔石は滅多に出ない、出れば奇跡と言われるのだが…
「…あ、魔石でた」
「…ちょ!それ伝説級!!!」
あっさり、それもゴロゴロ出てしまうのが星琉。
女神アイラが【就職祝い】に上げてくれた運は、かなりの数値になっているようだ。
「森の守護石と呼ばれる物をこんなにドロップするとは。幸運とかいうレベルではないな」
ミカンか何かみたいにカゴ盛りされた伝説級魔石を献上され、国王は驚きを通り越して笑うしかない。
「女神さまのおちゃめという事で…」
星琉も苦笑して言うと、ヒランッと落ちてくる世界樹の葉っぱ。
ん?また何か?と思って手に取り見てみると…
『それ1つラグスの里に届けてね byアイラ』
「………。ラグスの里って何処っ?」
しばし沈黙した後、星琉はツッコんだ。
「獣人の村ね。王都の噴水広場の転送陣から行けるわよ」
隣から葉っぱを覗き込みながらイリアが教えてくれた。
すると、ヒランッとまた1枚葉っぱが落ちてくる。
『イリアも一緒に行ってね byアイラ』
「………え?!」
星琉&イリア、揃って二度見。
顔を見合わせた後、揃って国王を見た。
「…ど、どうした2人とも?」
思わずタジッとなる国王。
その横には、カゴ盛り状態のエルク魔石。
「伝説級魔石、1つラグスの里に届けろって言われました」
「一緒に行けって言われたの」
それぞれ葉っぱを手に困惑気味に言う2人。
「…お…お告げとあらば仕方なかろう?行くがよい」
同じく困惑しながら国王は言った。
噴水広場の転送陣は、許可を得た者だけが行き来出来る仕組みだった。
星琉とイリアは勇者や聖女の称号があるのでフリーパスらしく、魔法陣の上に立っただけで起動した。
「魔石を届けるのに何でイリアも行けって言われたんだろうね?」
「アイラ様、いつも詳しくは教えてくれないのよね…」
ワケが分からないままラグスの里へ行く2人。
そのワケは、現地に着いてすぐ明らかになった。
「聖女様!」
現れたイリアを見て、付近にいた人々が駆け寄って来る。
「良かった、助けに来て下さったんですね」
「アイラ様のお告げでここへ来るよう言われたのだけど…」
まるで来るのを待っていたような反応に、イリアはまた困惑する。
獣人たちが顔を見合わせた後、事情を話してくれた。
「実は、森の守護石が黒く濁ってしまって…」
「草木が枯れたり、病気になる者が増えたりしているのです」
「女神さまにお祈りしていたら聖女様が来て下さったので、守護石を浄化して頂けるのだと思いました」
守護石、と聞いてイリアは星琉を見た。
なるほど、と理解した星琉がストレージからエルク魔石を取り出す。
「それで女神様がこれを持ってけって言ったんだね」
「!!!」
獣人たちが驚いてそれを見る。
まだ未使用、真新しい【森の守護石】だ。
「今日これ10コくらいドロップしたから、お裾分けするよ」
「…そ、そんな木の実かなんかみたいに…」
伝説級アイテムを気軽にお裾分けする少年に、獣人たちが困惑した。
星琉とイリアは獣人たちの案内で守護石を祭る祠を訪れた。
祠の中に置かれた魔石は確かに黒く濁っている。
「これを聖女様のお力で浄化してもらいたかったのです」
「黒色化した魔石は良くない気を放ってしまうものね」
言うと、イリアは祠の魔石に手をかざした。
「
魔石は光に包まれ、透明に変化した。
…しかし…
「えっ?どうしてこんなすぐに黒く…」
イリアが驚いた。
せっかく浄化した魔石が、ジワジワと黒く濁り始める。
「魔石の許容量を超える瘴気が流れ込んでるんです」
声がした方を見ると、白い狐耳とシッポの少女がいた。
「リマ様…」
「意識が戻られたのですか…」
獣人たちが呟いた。
(…リマ…妹と同じ名前だ…)
その名を聞いて、星琉は実家にいる次女・理真が心に浮かぶ。
白狐の少女リマは星琉に歩み寄って来る。
「勇者様、新しい魔石を隣に置いて頂けますか?」
言われて、星琉は持って来た魔石を祠の魔石の隣に置いた。
少女がそれに手をかざし、唱える。
「
1つでは流れ込む瘴気を防ぎ切れなかった魔石が、2つの力となり瘴気に抗い始めた。
「聖女様、もう一度浄化をお願いします」
リマに頼まれ、イリアが魔石に手をかざした。
「
魔石は透明に戻り、微かな光を放ち始める。
キラキラした金色の粒子が魔石から湧き出て、フワ~ッと森中に広がっていった。
「これでこの森は大丈夫…」
言いかけて、少女がフラッと倒れかかる。
隣にいた星琉が慌ててそれを抱きとめた。
縦抱きするように支えたが、リマは意識を失ってグッタリしている。
「この子、魔石が受ける瘴気を減らしてくれてたのね」
少女の手足が黒ずんでいる事に気付き、イリアがそちらにも浄化魔法をかける。
「リマ様は祠の魔石を管理する巫女なのです」
獣人の1人が教えてくれた。
「巫女は聖女様のような浄化の力はありませんが、魔石が受ける瘴気を他の物に移し、負担を減らす事が出来るのです」
事情を聞いている間に、イリアの浄化でリマの黒くなっていた肌が白さを取り戻した。
「あとは休ませてあげれば回復するわ。星琉、家まで運んであげて」
「分かった」
星琉はリマを横抱きに抱え上げ、イリアと共に獣人たちの案内でリマの家へ向かう。
少女の身体は華奢で軽く、ゴハンちゃんと食べてる?と心配になった。
リマの家は祠の近くにあった。
同じ白狐の獣人である母親が先代の巫女だそうで、現在はリマに力を譲渡して巫女ではなくなり、普通の女性として暮らしているという。
父親は冒険者だそうで、今日は仕事に出ているらしく不在だった。
「これ、リマちゃんが起きたら食べさせてあげて下さい」
抱えていたリマをベッドに寝かせた後、星琉はストレージにあったエルク肉を母親に渡した。
エルク肉は身体が弱った者に食べさせるといいらしいので、リマの回復に役立つだろう。
妹と同じ名前の少女が何かほっとけない星琉であった。
「ありがとうございます」
「いっぱいあるから気にしなくていいですよ」
頭を下げる母親に、星琉は笑みを向けた。
その後、星琉とイリアはラグスの長に報告した。
ラグスの長は大柄な狼タイプの獣人で、剣術大会で出会ったルーに似てると思ったら兄だという。
剣術大会に出ていた獣人たちはみんな冒険者で、普段は世界各地を旅していて里にはいないらしい。
「貴重な魔石に浄化の力、心より感謝する」
「弟さんにカタナを頂いたので、お礼が出来て良かったです」
「お礼が高価過ぎる気がするが…そうだ、ルーがジパングに行っておるから土産を買ってこさせよう」
狼人の長は思い付き、笑って言う。
「じゃあ楽しみにしてます」
星琉も笑って答えた。