「森田君、辺境でヒーラーが不足してるそうだから行ってくれるかい?」
SETA異世界派遣部社員・森田にお仕事がきた。
女神から
「はい喜んで!」
やっと出番がきた~と喜ぶのであった。
「村の周辺で魔物の出現が増えてるそうだから討伐係にソーマ君にも行ってもらうよ」
「そういえば騎士団の稽古だけじゃ物足りないとか言ってましたね」
退屈だ~とボヤいていた奏真を思い出し、森田は言う。
そのスピードについてこれる騎士がいない為、奏真は暴れ足りないらしい。
唯一、星琉ならいい相手(むしろ奏真が負ける)だが、学校に行ってたり放課後に冒険者たちと出かけてたりしてなかなか一緒に稽古出来なかった。
そんな暇を持て余してる奏真に声がかかる。
「ソーマ君、辺境で魔物狩りしてきてくれるかい?」
「100でも200でも狩りますよ!」
張り切る奏真は、森田と一緒に辺境へ転移された。
辺境の村テルマ。
小さな教会が1つあるだけの田舎の村に、負傷者が溢れかえっている。
座っていられる軽症の者もいれば、意識が無くグッタリしている者もいた。
広場は痛みに呻く怪我人だらけだ。
回復魔法が使える者は神父だけらしく、1人で治療に追われていた。
そこへ、転送された森田と奏真。
「神官様…!」
神官服姿の森田を見て、人々が歓喜の声を上げた。
「治療を手伝いに来ました」
ヘトヘトになっている神父に森田は声をかけた。
「あぁ良かった、助かります」
神父はホッとした顔で言った。
「あの人から治した方が良さそうですね」
広場の端に横たわっている患者のところへ行き、森田はスキルを発動させた。
「エクストラヒール!」
大きな裂傷を負って瀕死の状態だった青年が光に覆われ、その傷が癒えてゆく。
ほんの数秒で傷は跡形も無く消えていた。
「おぉ!大神官様だ…!」
(…いえ、ただの平社員です…)
誤解している人々に、心の中でツッコむ森田。
森田は剣術大会の頃に怪我人を見慣れており、多数の負傷者を見ても落ち着いている。
最近はずっと神殿務めをしているので、すっかり神官が板についてしまった。
「手足の欠損など大きな怪我をした人から治します!」
その場にいる全員に聞こえるように大きな声で言い、治療にかかる。
知力特化型の異世界転移者である森田は、チートなくらい魔力が高かった。
「こりゃ多いな。ちょいと手伝っとくか~」
一緒に来た奏真が辺りを見回して言う。
彼は広場の中央まで進み、範囲スキルを発動させた。
「エリアヒール!」
サッ!と両手を広げると、奏真を中心に金色の光が広がる。
光は広場にいた怪我人たちを包み、治癒してゆく。
人々がどよめいた。
聖職者には見えない白い特攻服(?)を着たちょっと目つきの悪い男が、大神官や聖者クラスの範囲スキルを使ったのが信じられないようだった。
「…あはは…派手だなぁもぅ」
「あとは森田さんよろしく。俺は魔物シメてきますんで」
じゃ、と片手を上げて告げると、奏真は村の外に出た。
村を護る外壁の外側に出ると、すぐ魔物の群れを見つけた。
(何だこりゃ?多いな。モンパレか?)
数十頭の群れが森から村に向かって来る。俗にいうモンスターパレード状態だ。
奏真は双剣を抜き放った。
その姿がフッと消える。
押し寄せていた群れの先頭が崩れるように倒れた。
そこから後ろの魔物たちも次々に斬撃を浴びて倒れてゆく。
中にはクリティカル発動で消滅させられた魔物もいた。
獣人並みかそれ以上と評される奏真の速度に、ついてこれる魔物はいない。
魔物たちの目に映るのは残像だけ。
奏真が剣を納めた直後、最後に斬撃を浴びた魔物がドッと倒れた。
魔物はそのほとんどが猪系か鹿系だった。
奏真は解体スキルで全て肉にしてストレージに収めた。
そして村へ戻ると、広場にいた人々に肉を配り始める。
星琉なら家族分を残すところだが、奏真は全部村人に配った。
倒した数が多いので村人全員に配っても余りそうなほどだ。
「食い切れんかったら干し肉にでもしな」
多めに配りつつ奏真は言った。
「ありがとうございます!」
農村の人々にとって貴重な肉、みんな歓喜していた。
「ヒロヤ様、ソーマ様、本当にありがとうございました!」
役目を終えて帰りかける2人に、村人たちが深々と頭を下げる。
「もしもまた治療の手伝いが必要な時は王都の神殿に報せて下さい」
森田は神父に言った。
「あれくらいの魔物なら余裕で狩れるんで、沸いたら騎士団に連絡よろしく」
奏真も言う。
「えっ、ソーマ様は騎士様なのですか?」
驚く神父。
「『えっ』て何だよ『えっ』て…」
奏真がスネてジト目で言う。
「…い、いやその…てっきり凄腕の冒険者様かと…」
苦笑して神父が言った。
「冒険者かぁ~そっちの方が退屈しないかな?」
ふむ、と考える奏真。
「冒険者は歩合制だから固定給や福利厚生が無いよ?」
森田が現実的な事を言う。
「あ、やっぱり騎士団でいいや」
あっさり冒険者を諦めた奏真だった。