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第28話:中級ダンジョン実習

 プルミエ王立学園のダンジョン実習の日。

 星琉たちのクラスは初級ダンジョンをクリアしたので、中級ダンジョンに行く事になった。

「よお、来たぜ」

「多分見てるだけで終わりそうだけどな」

 ガハハと笑うのはA級冒険者たち。

 ボア狩りに誘ってくれたパーティだ。

「知らない場所だから慎重に行くよ」

 星琉は言った。

「中級からは魔法を使う魔物が出てくるからな。そこだけ気をつけたらいい」

 冒険者のリーダーがアドバイスしてくれた。


 初めての中級ダンジョン実習は、冒険者たちの予想通り順調に進んだ。

 生徒たちの魔法や物理攻撃の威力は上がっており、入口から近い場所では余裕で1人1体を倒せている。

 初級と中級の魔物の違いは上位種が出る、特殊攻撃や魔法を使ってくるといったところ。

 最初に出て来たのはポイズンスライムだったが、イリアの祝福ブレッシングで状態異常抵抗と自動回復のバフがついたら毒は無いようなものだった。

 星琉は相変わらず小石を投げて核に当てて倒している。

「そういやスライムって魔石出ないのかな?」

 ふと気付いて聞いてみた。

 スライム系を狩るのはこれで3種類目だが、まだ魔石を見た事が無かった。

「いや、一応出てると思うぞ。砂粒みたいに小さくて気付かないだけで」

「小さ過ぎて使い道が無いから誰も拾わないけどな」

 冒険者が教えてくれた。

 ちなみにポイズンスライムのゼリーは有毒なので食用にはならないらしい。


 次のフロアで出て来たのは魔法を使うゴブリンメイジ。

 物理攻撃をしてくるゴブリンウォリアも出て来た。

 学生たちは先に詠唱が終わる魔法で攻撃したり、物理攻撃で倒したり。

 星琉の場合は…

 ボッ!

 …急所一撃必殺、小石が早かった。

「小石最強だな」

 見ていた冒険者がガハハと笑った。


 3層目に出て来たのは身体強化を使うオークジェネラル。

 ノーマルタイプのオークをお供に出て来るが、お供にも身体強化がかかるので初級より強い。

 おまけに召喚魔法で増援のオークが出て来る。

 学生たちが少々手こずるかと思われたが…

 ボッ!

 ボボッ!

 ボボボッ!

 …オークが沸く度に星琉が小石を投げて粉砕!

 ジェネラルはお供を瞬殺し続ける星琉に気付いた。

 そして突進攻撃しようとしたが、ゴロゴロ落ちてた魔石に足をとられて派手に転んだ。

「………」

 一同、シーンとした。

 ガバッと起き上がったジェネラル、マジ切れで星琉に剣をブン投げるが…

 反射魔法リフレクト発動。

 …返ってきた剣が急所にブッスリ刺さってしまうジェネラルであった。

「なんすっごい不幸な奴を見た気がする…」

 ドロップした魔石を拾いつつ星琉は呟く。

 見てた人々も同感だった。


 中級以上のダンジョンにはボスがいるという。

 通常は初回は狩らずに帰るが、星琉がいるから進もうという事に。

 最奥にいたのは派手に火を吐いてくる大きなトカゲだ。

 巻き添えを食わないように下がって見る学生たち&冒険者。

 星琉は悠々と歩いて近付いてゆく。

 グワォッ!

 火トカゲ(大)が炎の塊を飛ばしてくる。

 反射魔法リフレクト発動。

 返された火球を食らい、衝撃でひっくり返されるトカゲ。

 起き上がり、次の火炎を吐こうとしたところで…

 ボッ!

 …真っ二つになって消滅。

 いつの間に抜刀したか、星琉が手にした刀を鞘に納めた。

「ダンジョン来て武器使うのがボスだけってのもお前くらいだと思うぞ」

 呆気にとられた後、笑い出す冒険者たちであった。



 同じ頃、瀬田はプルミエ王ラスタに新情報を伝えていた。

「元王宮魔道士とはいえ失脚した者が持つ兵の数ではないとは思ったが、隷属紋を使っていたのか」

 話を聞いたラスタが言う。

「それと、自決用の毒薬を持ってた連中は金で雇われてたらしい。おそらく暗殺者か何かだろうね」

 瀬田はバレルの話を元に推測する。

 バレルはならず者と言っていたが、ならず者は色々いる。

 ただのチンピラなら自決の準備なんかしない。

 殺人のプロ集団なら秘密厳守で毒を持ち歩く事が多いので、多分それだと推測した。


「出陣と撤退の転移を担当していた魔法使いの話では、フォンセはカートル領土内の地下迷宮を拠点にしてるらしい。人外の下僕がいろいろいそうだね」

「魔王にでもなるつもりか…」

 国王が呟き、問うた。

「勇者たちは奴を倒せそうか?」

「能力的に言えば可能、セイルもソーマも日本にいる間にVRで強さを極めたから私なんかよりずっと強い。しかし殺れるかどうかという事なら不可…いや、しないだろうね」

 瀬田は言う。

「空港でもコロシアムでも、セイルは圧倒的な強さを持ちながら1人も殺してなかったろう?」

「うむ」

 国王は頷いた。

「歴代の勇者や私と違って彼等は神の力による転移者じゃない」

 瀬田は説明する。

「そして、彼等は神の加護の1つである精神最適化オプティマイズを受けてない」

「つまり、人を殺す事に強い精神抵抗レジストがかかるという事か」

「そう。魔物なら狩れるけど、人間は殺れないだろう」


 神は異世界転移を行なう際、転移先の環境に拒否反応が出ないように精神を最適化する事が多いという。

 日本のように戦争から離れて久しい国の人間がいきなり戦乱の世界へ行くと殺し合いを嫌悪し戦えない為、現地の人間の精神に合わせてから送り込む。

 神の力で転移した瀬田は精神最適化オプティマイズを受けているので、必要とあらば敵対する者を滅する事が出来る。

 しかし星琉や奏真は瀬田が作った機械による転移で、瀬田が加護を頼んだ女神アイラはその強過ぎるステータスを見て精神最適化オプティマイズをしなかった。

 つまり2人は地球での意識そのままにフォンセという「人間」を討伐しなければならない。

 どんなに強くても、人殺しに強い抵抗がある者が敵を滅ぼすのは無理がある。瀬田はそう感じていた。

「…まあ、それについては対策を考えておくよ」

 そして、また何か考える瀬田であった。




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