プルミエ王妃アリアはシエム国の第二王女。
今から20年前、15歳の少女だった彼女は、史上最悪の飢饉に苦しめられていたプルミエ王国を救う為、友好国シエムから派遣された聖女であった。
聖女はその祈りで全ての生命を癒し、自然界を浄化する力を持つ。
作物も家畜も謎の奇病に侵され、育たなくなったプルミエ王国。
アリアは神に祈りを捧げ、国内の全ての生命が健やかに育つ癒しの力が降り注がれた。
草も生えなかった大地が緑に覆われてゆく。
死産が続いた動物たちも、卵を生まなくなった鳥たちも、新たな生命を生み出し始める。
聖女の祈りで、健やかな命の営みが復活した。
それから2年後、アリアは2歳年上のプルミエ王太子ラスタに見染められ妃となった。
ラスタとアリアは仲睦まじく、翌年には第一子イリアが誕生した。
プルミエとシエム、2つの国の交易は盛んになり、人々は活気に満ち始めた。
しかし14年前、新たな危機が忍び寄る。
聖女アリアが暗殺者に襲われ、一命をとりとめたものの昏睡状態となった。
作物は枯れ、家畜は死産し、困窮する人々。
それを狙うかのように、敵対国カートルが侵略を開始した。
飢饉で国力が弱っていたプルミエに滅亡の気配が近付く。
床に伏した妻とその傍らから離れようとしない幼い娘を案じつつ、王太子ラスタは神殿へ赴いた。
彼は神に願った。
「この国を救う力が欲しい」
神はラスタの願いを聞き入れ、異世界から1人の男を召喚した。
神の力でプルミエ王国へ転移したのは瀬田史郎という名の日本人。
元々高い知力と発想力を持っていた彼は、神の加護を得てその能力が更に高められた。
元の世界の技術をアレンジして作り出す魔道具の数々。
魔法は最初こそ使い方に戸惑ったものの、全属性を無詠唱で使えるほどになった。
魔力も底が見えないほど膨大で、全ての病と傷を完治させるエクストラヒールを連発出来るほど。
昏睡中だったアリアはシロウの魔法で回復し、聖女の力で王国は豊かさを取り戻してゆく。
賢者の称号を得たシロウと王太子ラスタは、カートル国の侵略に抵抗した。
少ない兵力をシロウの魔道具と魔法が補い、敵兵を退けてゆく。
カートル国の大魔導士フォンセは闇魔法を得意とし、プルミエ領土内に飢饉をもたらす「呪い」をかけていた。
飢饉で人々を衰弱させ、戦力が落ちたところで攻め込んで陥落させるその計画は、異世界の賢者によって阻止された。
フォンセは魔法の撃ち合いでシロウの圧倒的な魔力と魔法の威力に完敗し、勝てぬと見るや何処かへ転移して逃げ去った。
カートル国王はフォンセに殺害されており、幽閉されていた王子が即位して王となった。
カートルの新王はプルミエに敗北した事を宣言し、今後二度と剣を向けぬと誓いを立てた。
その後、王太子ラスタは即位してプルミエ王となり、賢者シロウは国民の生活に役立つ魔道具と魔法を作り出した。
シエム国との交易もまた盛んになり、国王の依頼で魔道具の輸出も始めた。
開発者であるシロウが出向く事も多く、シエム王家と交流するうちに第一王女アリサと恋に落ち、結婚するというロマンスもあった。
異世界の技術で国の守りを強固にした後、シロウは自らが日本へ帰る為の転移装置を開発を始めた。
やがて転移装置は完成し、日本とプルミエを自由に行き来出来るようになった時、シロウは異世界アーシアの環境を再現するVRの開発を始めた。
異世界の存在と転移装置の発表、新VRの発表、度々注目を浴びた瀬田史郎は株式会社SETAを創設する。
そして現在。
ラスタは善政を施す王として人々に慕われている。
プルミエ王国は魔道具の製造で知られる国となり、王都周辺では聖女として覚醒した王女イリアの祈りで作物や家畜が健やかに育っている。
王妃アリアも聖女としての力を維持しているが、今は主に人々の病の防止や怪我の治療に使う事が多かった。
瀬田史郎は異世界アーシアでも地球でも有名人となり、株式会社SETAは独自のシステムを使ったVRゲームで知られる大会社となっている。
賢者シロウとしては王女アリサと結婚した事でシエム国の王家ともプルミエ国の王家とも親戚関係という立場になっていた。
聖女アリアの姉アリサは瀬田亜里沙として日本国籍を得て瀬田家で暮らしている。
「社長、そんな凄い人だったのかぁ」
図書館でプルミエの歴史書を読んでいた星琉は呟いた。
「14年前の事、私は小さかったからあまり覚えてないのだけど、この本で知ったの」
一緒に来ていたイリアが言った。
「これだけ偉業を残してたらそりゃ有名になるよね。国中の料理人が賢者シロウの大好物を覚えてるのも分かった気がするよ」
シェフが言った言葉を思い出し、星琉は言った。
この世界で起きた事は、地球ではそこまで詳しく伝えられていない。
地球で知られているのは瀬田が異世界へ転移して自力で戻って来た事と、新システムのVRを開発した事と、株式会社SETAの社歴くらいだ。
異世界の王家と親戚関係なんて、SETAの社員でも知る者は少ないだろう。