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第22話:放課後のボア狩り

 プルミエ王都の冒険者ギルド。

 今日の授業が全て終わり、イリアを王城まで送り届けた星琉は魔石を売りに来ていた。


 冒険者ギルドが買い取りをする相手は冒険者登録をした者だけだが、星琉の場合は勇者の称号持ちでSランク以上の冒険者扱いになるそうで、冒険者と同じくギルドに魔石を売る事が出来た。

 魔石は魔導具の動力になるそうで、地球での乾電池みたいに使うらしい。

 瀬田の発明品もアーシアで使うものは魔石を動力とするものが多い。

 今回売った魔石は下位の魔物から採れたものばかりなので単価は低いが、最後に狩ったコウモリが大量だったのでそこそこいい収入になった。

 魔石の買い取りをしてくれる冒険者ギルドは星琉が持つスマホの【SETA Pay】にチャージしてくれるので、得た収入は地球でも使える。


「魔石売り終わったか?今からボア狩りに行くが一緒にどうだ?」

 買い取りのチャージが済んだ頃、声をかけられた。

 誘ってくれたのはAランク冒険者パーティ、星琉が日本にいる家族の為に肉になる魔物を狩りたがってるのは冒険者間で知られており、声をかけてくれた。

「ありがとう!勿論行くよ」

 星琉即答。

 ミノタウロスは狩った事があるがワイルドボアは初狩りだ。

(ボア肉、良質な豚肉みたいな味って渡辺さん言ってたっけ。お肉とれたらトンカツだ)

 ワクワクするお肉大好き少年であった。


 ワイルドボアは森の奥に棲むイノシシっぽい魔物だった。

「奴らは普段の動きは遅いが瞬発力が凄くてな、突進攻撃を食らうと大怪我するから気を付けろよ」

 冒険者たちのリーダーが教えてくれた。

「OK」

 星琉は頷いた。

「急所は眉間または首、やれるな?」

「うん」

 星琉が答えると、冒険者たちは後ろに下がって待機した。


「行きます」

 少年の姿がフッと消えた。

 ボッ!

 数頭のボアが一斉に消滅。

 直後にポポポンッと音がして解体済の肉が次々に出た。

「あれ?」

 解体スキル使ってないのに?と呟く星琉。

「うん、クリティカルだな」

「オーバーキル多過ぎて消滅かよ」

「解体サービス付きか、さすが異世界人」

「本体消滅したのに肉が残るとか意味分かんねーけど」

 冒険者たちがガハハと笑う。

 更に、野球ボールくらいのサイズの魔石がコロンコロンと5~6コ地面に転がった。

「あれ?魔石でた」

 キョトンとする星琉。

「ドロップ運すげーな。滅多に出ないぞボア魔石」

 複数転がった魔石を見て冒険者たちが目を丸くした。

 魔石は100%出るワケではなく、一定の確率でドロップするらしい。

 下位の魔物ほど出やすく、上位になるとなかなか出ない上に狩りの難易度も上がるので、高額取引されるという。

「前にミノ狩った時は出なかったけど、運が上がったかな?」

 なんで上がったんだろう?星琉は首を傾げた。

 と、ヒランッと落ちてくる1枚の葉っぱ。

 もしや、と手に取ると…


『就職祝いに運UPしといたよ byアイラ』


「・・・・・・」

 それでいいのか?とツッコミたい星琉。

「女神様から就職祝い貰えるとか、さすが異世界人だな」

 またもガハハと笑われてしまった。


 その後、ギルドに買い取ってもらった魔石はかなりの高額で、1個でコウモリの大群以上の価格がついた。

 一気にSETA Pay残高が増えたが、実のところ星琉の生活にお金はほとんどかからない。

 お城住み込み3食付で家賃も食費も光熱費もかからないし、衣服まで支給されている。

 刀を古美術商で見つけたので予備に買おうとしたら、勇者に使ってもらえるなら光栄だとタダで手渡されてしまった。

 街へ買い物に行く以外に使いどころがなく、買うのもパンや菓子くらいだ。

(実家に送金しとこう)

 思い付いた星琉、SETA Payの振り込み機能を使い、実家の家計費の口座に送金した。


 それからスマホの転移アプリで実家へ行き、食べ盛りのチビッコたちに街で買ってきたパンを手渡し、祖父母にも手渡し、まだ帰宅していない家族分は母に預けた。

「こんなにいいの?生活大丈夫?」

「平気平気、それ半分くらいパン屋のオジサンのサービス品だよ」

 息子の財布を心配する母に星琉は笑って答えた。

 パン屋はイリアと同じですっかり馴染みになっていて、試食用だと言って色々くれて、時には買った数より多いパンを貰う事もあった。

「あと、冷凍庫に豚肉みたいな肉入れとくから」

「豚肉みたいな肉ってなんなの」

「ワイルドボアっていうやつで、見た目はイノシシなんだけど味は豚肉と同じだよ」

「高かったんじゃないの?無理しなくていいのよ」

「大丈夫だよ、これ自分で狩った獲物だから」

 狩りで手に入れたという肉を冷凍庫に詰め込む息子を見て、この子は一体どういう仕事してるんだろう?と疑問に思う母であった。


 実家に差し入れをした後、星琉は転移アプリで王城の厨房へ行き、シェフに肉を渡した。

「シェフ、トンカツって作れる?」

「おう作れるぞ。賢者シロウ様の大好物だから国内の料理人はみんな作れるんだ」

「じゃあこの肉でみんなにトンカツよろしく!」

「まかしとけ!」

 そんなワケで、その日のディナーは王族も王宮で働く人々も、トンカツ定食を美味しく頂いた。

 瀬田が和食と一緒に【箸】も広めたそうで、王族も貴族も平民もみんな箸が使えるという。

「イリア、箸使い上手いね」

「小さい頃にシロウからお箸マナー教わったのよ」

 お箸で品良くトンカツ定食を食すプリンセスが仕上がっているようだ。


 星琉が狩ったボア肉は臭みも無く柔らかく、脂身も美味しい高品質な豚肉そのもの。

 衣のパン粉は馴染みのパン屋から仕入れているそうで、外側サクッと軽い食感に仕上がっていた。

 ソースは瀬田が広めたというトンカツソースの他に、味噌ダレや大根おろしダレまである。

(トンカツ最高!ボアまた狩りに行こう)

 美味しいトンカツに大満足の星琉であった。




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