新学期初日のプルミエ王立学園。
正門前に王家の馬車が停まり、学園の制服を着た星琉が外に出た。
星琉は周囲の「気」を探る。
イリアが二度目の襲撃を受けた際に目覚めた、レーダーのように敵を認識出来る能力。
探知範囲内には攻撃の意志ある者はいないようだ。
「イリア、出てきていいよ」
確認し終えた星琉は車内にいる王女に声をかけた。
安全確認が済んでイリアが外に出てくる。
星琉はイリアが馬車から降りるのをエスコートして、共に学園の敷地内へ入った。
敷地内にいた生徒たちの視線が集まる。
男子は主に王女イリアに、女子は主に勇者セイルに羨望の眼差しを向けていた。
気付いてはいるが気にしない方向で2人は通り過ぎる。
とりあえず向かうのは理事長室だ。
「歓迎するよセイル君、ようこそ、この学び舎へ」
白髪の老人が出迎える。
理事長のジール・ファルマンは穏やかな笑みを浮かべて星琉を見た。
「よろしくお願いします」
星琉は一礼した。
「君はこの学園でどんな事を学んでみたいかな?」
理事長が問いかける。
「魔法について学んでみたいです」
星琉は答えた。
「この先、剣だけでは対応しきれない事があるかもしれないので、魔法を学びたいです」
護りたい人がいるから、と彼は心の中で思う。
「そういえば君はエクストラヒールが使えるくらい光属性と魔力が高いんだったね」
それを読み取ったかのように老人は笑みを浮かべた。
「はい。女神様がくれたのはそのスキルだけですが、勉強したら他にも何か出来たりしますか?」
「出来る筈だよ。過去の転移者の多くは多彩な魔法を覚えたし、最近だと賢者シロウがオリジナル魔法を複数作り出しているよ」
「鑑定・解体・ストレージですね」
「そう。それらは無属性魔法といって属性が無い者でも使える魔法だよ」
話しつつ老人は椅子から立ち上がった。
背後の棚の扉を開け、水晶玉を台座ごと机の上へ運んだ。
「ではまず君の属性を調べてみようか。この水晶玉に触れてごらん」
「はい」
星琉が水晶玉に手を置くと、ジールはトリガーとなる言語を発した。
「この者の属性を示せ」
すると、水晶玉が様々な光を明滅させた。
その光は眩しく、星琉は目を細める。
「フッ…」
理事長が想定内だと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「やはり全属性か」
ははは、と笑うジールに、マジっすかと驚く星琉であった。
その後、星琉はイリアと同じクラスに入った。
護衛も兼ねている事は学園内に伝えられているそうで、席も隣同士となっている。
楽しみにしていた魔法の授業は、星琉にとって困惑が多かった。
…というのも…
「はいみんな、この松明に火をつけて…って、セイル君、消し炭にしちゃダメ~!」
魔道師の女性が慌てて叫ぶ。
星琉が火魔法を使った松明は一瞬で燃え尽き、ボロボロと炭化し崩れ去った。
「じゃあ次はこのコップに水を満たして…って、セイル君、滝になってるから!」
水魔法を使えば、コップどころか池を満たしそうな水量が出る。
「今度は土を固めて彫刻を…って、ゴーレム出さないでセイル君~!!!」
土魔法を使えば、でっかいゴーレムが出来てしまう。
「風は…うん、セイル君はモンスターの大群が現れるまで使わなくていいよ?」
風魔法に至っては、使用禁止を食らってしまった。
「魔法の出力調整、難しい~。みんなよく調整出来るなぁ」
ふうっと溜息をつく星琉。
「いや最初からそんな威力出せないからね?」
クラスメイトのツッコミが入った。
力があり余り過ぎて効果がデカくなり過ぎる。
先生曰く「異世界チートで最初にぶつかる壁」らしい。
「シロウもおんなじ事してたわ。異世界人お約束なのね」
過去に似たような光景を見たらしいイリアが面白がっていた。
まずは魔法の威力制御を覚えるところからになりそうだ。
唯一、光属性の回復魔法はマトモに扱えた。
……というか、威力が有り過ぎても無害なだけともいう。
おまけに、怪我をしてない人に回復魔法を使ったら、ハリツヤプリプリの美肌効果が出た。
「セイル君、回復魔法なら存分に使っていいわよ!」
美肌効果を実感した先生から、回復魔法使い放題(?)許可をもらった。
「セイル君、私も!」
「力が有り余ってるならこの肌に!」
「私のこの荒れ果てた大地みたいな肌を治して~」
クラスの女子がわらわらと寄ってくる。
(ソーマみたいにまとめて出来たらいいのに…)
苦笑しつつお肌の回復をしてあげる星琉であった。
午前の授業を終えて学食へ行くと、星琉がよく知っている食べ物の匂いがした。
食欲をそそる複雑なスパイスの香り。
「…あれ?これってカレー??」
「そうそう、シロウが伝えた料理が残ってるのよ、ここ」
イリアが教えてくれた。
間違いなくカレーライスだった。
「あ、これミノ肉か。ビーフカレーみたいになってる」
異世界のカレーは辛すぎず甘すぎず万人受けする程よい辛さ。
使われているのはミノタウロスの肉で、牛肉のカレーっぽく仕上がっていた。
「この米は日本産?」
「ううん、この国の農家が作ってるのよ。シロウが広めたから」
お米大好き日本人の星琉にはとっても嬉しい。
学食のメニューを見たら「とん汁」や「生姜焼き」など星琉の好物がある。
豚肉に似た味のワイルドボア肉だろうか?
味噌や醤油も瀬田が広めているという。
「社長、GJ!」
瀬田の偉業に感動する星琉であった。