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第20話:王立学園の転入生

 新学期初日のプルミエ王立学園。

 正門前に王家の馬車が停まり、学園の制服を着た星琉が外に出た。

 星琉は周囲の「気」を探る。

 イリアが二度目の襲撃を受けた際に目覚めた、レーダーのように敵を認識出来る能力。

 探知範囲内には攻撃の意志ある者はいないようだ。

「イリア、出てきていいよ」

 確認し終えた星琉は車内にいる王女に声をかけた。

 安全確認が済んでイリアが外に出てくる。

 星琉はイリアが馬車から降りるのをエスコートして、共に学園の敷地内へ入った。

 敷地内にいた生徒たちの視線が集まる。

 男子は主に王女イリアに、女子は主に勇者セイルに羨望の眼差しを向けていた。

 気付いてはいるが気にしない方向で2人は通り過ぎる。

 とりあえず向かうのは理事長室だ。


「歓迎するよセイル君、ようこそ、この学び舎へ」

 白髪の老人が出迎える。

 理事長のジール・ファルマンは穏やかな笑みを浮かべて星琉を見た。

「よろしくお願いします」

 星琉は一礼した。

「君はこの学園でどんな事を学んでみたいかな?」

 理事長が問いかける。

「魔法について学んでみたいです」

 星琉は答えた。

「この先、剣だけでは対応しきれない事があるかもしれないので、魔法を学びたいです」

 護りたい人がいるから、と彼は心の中で思う。

「そういえば君はエクストラヒールが使えるくらい光属性と魔力が高いんだったね」

 それを読み取ったかのように老人は笑みを浮かべた。

「はい。女神様がくれたのはそのスキルだけですが、勉強したら他にも何か出来たりしますか?」

「出来る筈だよ。過去の転移者の多くは多彩な魔法を覚えたし、最近だと賢者シロウがオリジナル魔法を複数作り出しているよ」

「鑑定・解体・ストレージですね」

「そう。それらは無属性魔法といって属性が無い者でも使える魔法だよ」

 話しつつ老人は椅子から立ち上がった。

 背後の棚の扉を開け、水晶玉を台座ごと机の上へ運んだ。

「ではまず君の属性を調べてみようか。この水晶玉に触れてごらん」

「はい」

 星琉が水晶玉に手を置くと、ジールはトリガーとなる言語を発した。

「この者の属性を示せ」

 すると、水晶玉が様々な光を明滅させた。

 その光は眩しく、星琉は目を細める。

「フッ…」

 理事長が想定内だと言わんばかりに笑みを浮かべた。

「やはり全属性か」

 ははは、と笑うジールに、マジっすかと驚く星琉であった。


 その後、星琉はイリアと同じクラスに入った。

 護衛も兼ねている事は学園内に伝えられているそうで、席も隣同士となっている。

 楽しみにしていた魔法の授業は、星琉にとって困惑が多かった。


 …というのも…


「はいみんな、この松明に火をつけて…って、セイル君、消し炭にしちゃダメ~!」

 魔道師の女性が慌てて叫ぶ。

 星琉が火魔法を使った松明は一瞬で燃え尽き、ボロボロと炭化し崩れ去った。


「じゃあ次はこのコップに水を満たして…って、セイル君、滝になってるから!」

 水魔法を使えば、コップどころか池を満たしそうな水量が出る。


「今度は土を固めて彫刻を…って、ゴーレム出さないでセイル君~!!!」

 土魔法を使えば、でっかいゴーレムが出来てしまう。


「風は…うん、セイル君はモンスターの大群が現れるまで使わなくていいよ?」

 風魔法に至っては、使用禁止を食らってしまった。


「魔法の出力調整、難しい~。みんなよく調整出来るなぁ」

 ふうっと溜息をつく星琉。

「いや最初からそんな威力出せないからね?」

 クラスメイトのツッコミが入った。


 力があり余り過ぎて効果がデカくなり過ぎる。

 先生曰く「異世界チートで最初にぶつかる壁」らしい。

「シロウもおんなじ事してたわ。異世界人お約束なのね」

 過去に似たような光景を見たらしいイリアが面白がっていた。

 まずは魔法の威力制御を覚えるところからになりそうだ。


 唯一、光属性の回復魔法はマトモに扱えた。

 ……というか、威力が有り過ぎても無害なだけともいう。


 おまけに、怪我をしてない人に回復魔法を使ったら、ハリツヤプリプリの美肌効果が出た。

「セイル君、回復魔法なら存分に使っていいわよ!」

 美肌効果を実感した先生から、回復魔法使い放題(?)許可をもらった。


「セイル君、私も!」

「力が有り余ってるならこの肌に!」

「私のこの荒れ果てた大地みたいな肌を治して~」

 クラスの女子がわらわらと寄ってくる。

(ソーマみたいにまとめて出来たらいいのに…)

 苦笑しつつお肌の回復をしてあげる星琉であった。


 午前の授業を終えて学食へ行くと、星琉がよく知っている食べ物の匂いがした。

 食欲をそそる複雑なスパイスの香り。

「…あれ?これってカレー??」

「そうそう、シロウが伝えた料理が残ってるのよ、ここ」

 イリアが教えてくれた。

 間違いなくカレーライスだった。

「あ、これミノ肉か。ビーフカレーみたいになってる」

 異世界のカレーは辛すぎず甘すぎず万人受けする程よい辛さ。

 使われているのはミノタウロスの肉で、牛肉のカレーっぽく仕上がっていた。

「この米は日本産?」

「ううん、この国の農家が作ってるのよ。シロウが広めたから」

 お米大好き日本人の星琉にはとっても嬉しい。

 学食のメニューを見たら「とん汁」や「生姜焼き」など星琉の好物がある。

 豚肉に似た味のワイルドボア肉だろうか?

 味噌や醤油も瀬田が広めているという。

「社長、GJ!」

 瀬田の偉業に感動する星琉であった。




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