株式会社SETAの本社社屋。
従業員とはいえ会社が経営する店舗のアルバイトに過ぎない奏真にとって、初めて入る建物だ。
今日はそこに設置されているという、異世界への転移装置に用がある。
建物の中に入り、受付嬢に名前と用件を伝えると、すぐに案内された。
「ソーマ君だね、話はセイル君から聞いてるよ」
ボリュームたっぷりワガママボディのオジサマ、瀬田が言う。
その隣には、PVで見た青い騎士服のイケメン、星琉がいた。
「転移空間に入ると一応女神が出てくるんだけど、加護はくれない予感がするよ」
星琉は苦笑しつつ言った。
「そ、そうなのか」
ちょっと残念に思う奏真。
「じゃあセイル君、向こうの案内は頼んだよ」
「了解しました」
言うと瀬田は装置を作動させ、星琉と奏真は転移空間に入った。
「ようこそ、アーシアへ。私は女神アイラ…」
定番の台詞と共に、現れる美女神。
会うのは2回目で葉っぱの【お告げ】の文面も知る星琉は「また来たよ~」とノリが軽い。
「め、女神様ですか、は、はじめまして!」
何故か奏真がめちゃくちゃ緊張している。
その顔が真っ赤だ。
「新たに来る子は貴方ね。ちょっと見せて」
アイラ様は奏真に手をかざした。
直後、スンとした顔になる。
赤面したままの奏真に、女神は告げる。
「また来た、とんでもないステータスの子。加護いらないわね」
「………え?」
放心状態になる奏真の横で、星琉は「言うと思った」と呟いていた。
「まあでもそうね、いずれ必要になりそうだから範囲回復魔法は授けておくわ」
ふと思いついたように女神が言う。
「俺が授かった最上級回復と違う魔法?」
星琉が聞いた。
「ざっくり説明するとセイルのは効果が高い単体向け、ソーマのは効果範囲が広い複数向けね」
説明すると女神は2人を転移させた。
アーシアの空港に設置された転送陣に、星琉と奏真が現れた。
「ソーマこっちだよ。…って大丈夫?」
日本人専用窓口に案内しようとした星琉、まだ赤い顔でボーッとしている奏真がちょっと心配になる。
「…アイラ様…美しい…」
「うんうん、そういや美人だね」
呟く奏真に仕方なく相槌を打つ星琉。
「…まるで女神だ…」
「っていうか女神だし?」
惚けてしまった奏真に、ツッコミを入れる星琉。
しょうがないので手を掴んで引っ張るようにして受付へ連れて行き、言語理解スキルをつけさせた。
空港からお城までは、星琉が持つスマホの転移アプリを使った。
地球から直行で使わなかったのは、女神と受付から授かるものがあるから。
奏真も必要なものは貰えたので次回からは転移アプリだけで良さそうだ。
騎士団の練武場に転移したら、ようやく奏真がマトモになった。
騎士たちに軽く挨拶をして、模擬戦の準備にかかる。
「ソーマ君、準備はいいかい?」
渡辺が聞く。
「OK、いつでもいいっスよ」
答える奏真は騎士100人に囲まれた中に立っている。
その両手にはそれぞれ刃を潰して殺傷力を落とした剣が握られていた。
今回はロケではないので、開始の合図を出すのは騎士団長である。
「始め!」
号令があり、走り出す騎士団。
一斉に距離を縮め始める。
1人が接近し、剣を振り下ろしたそこに奏真はいない。
残像を置いて、奏真は移動していた。
ガガガッ!と連撃の音がして、倒れた騎士の後ろに奏真がいる。
しかしそれも残像、騎士たちの剣は虚しく空を切った。
奏真の姿は残像しか見えず、連撃の音がした直後に1人また1人と倒れてゆく。
音はすれどもその双剣の太刀筋が見える騎士はいなかった。
「これもまた凄まじいな」
奏真の100人斬りを見て国王ラスタは言う。
「セイルよ、そなたにはあれが見えるというのか?」
「はい」
国王の隣には、奏真を推薦した星琉が立っている。
彼は、模擬戦の様子を冷静に見つめる。
(やっぱりVRマシンの中より動きやすいみたいだな。連撃を繰り返してもそんなに疲れないみたいだ)
その目には、奏真の位置や動きが全て見えていた。
奏真は100人全てを倒すと、その双剣を鞘に納めた。
彼は攻撃速度を活かした連撃を得意とするタイプで、1発のダメージは少な目だが連続ヒットする事で大ダメージに繋がる。
倒された騎士たちの鎧には複数重ねたような凹みが残っていた。
「ソーマ、
渡辺と森田が治療に行こうとするのを止めて、星琉が言った。
「お、おう」
女神と聞いて一瞬顔を赤らめた奏真だが、回復スキルの使い方は脳に刻まれていた。
「エリアヒール!」
サッ!と両手を広げると、奏真を中心に金色の光が広がる。
光は練武場に倒れた騎士たち全員を覆うと、一瞬で治療してしまった。
騎士たちは一斉に意識を取り戻し、起き上がった。
「ソーマ、それ使ってみて疲れたりとかある?」
「いんや無いな。全然」
星琉が聞き、平然として奏真が答えた。
エクストラヒールを連発出来る星琉と同じで、奏真も大きな魔法を連発出来る魔力がありそうだ。
「もう驚かぬと決めておるが、異世界人は相変わらずとんでもないな」
国王が面白そうに笑って言う。
双剣使いのソーマはその後、王都の守りの要として騎士団に採用された。