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第18話:プレイヤー・ソーマの事情

 SETA直営のアミューズメントパーク【Carnival Box】。

 プレイヤー・ソーマこと白井奏真はそこに勤め始めたばかりのアルバイトだ。

 Sword of Earthiaの鉄人戦で2位となった後、店舗責任者にアルバイトを希望する相談をして採用となった。

 高校在学中の就活ではどこからも内定が貰えず、卒業後も日雇いの仕事しか見つからなかった彼にとって、ようやく得られた長期雇用予定の職場だ。

 店長には正社員登用の希望をしていて、現在は店舗の社員枠が埋まっているので、しばらくはバイトで新店舗オープンの話が出たらその店舗のオープニングスタッフとして正社員推薦しようと言われている。


 そんな彼に、店長から意外な方向の社員登用話がきた。

「白井君、異世界で働いてみないか?」

「へ?」

 唐突な店長の話に、ポカンとする奏真。

「鉄人戦で君と優勝を争ったプレイヤー・セイル君が異世界派遣部の社員になったのは知ってるよね?」

「はい」

 聞く店長に、頷く奏真。

 当の星琉から社員証を見せてもらったし、SETAの公式サイトやゲーム雑誌で派手に報じられているので、ゲーマーなら大体みんな知っている。

 星琉がプルミエ王国で一躍有名人になった空港の動画や、その他の動画がバラエティ番組などで紹介されたりもしていた。

 それらを見る度、2位に終わった奏真は悔しさを感じていた。


「そのセイル君から推薦があってね。君も異世界派遣部の社員にどうか、と」

「マジっすか?!」

 朗報に食いつく奏真。

「セイル君が社長と異世界派遣部主任に話してくれて、主任がプルミエ国王に提案して話が決まったそうだよ」

「おぉぉぉ~!」

 奏真、テンション上がりまくり。

「で、国王が君の能力を見たいと言っておられるそうで、シフト調整するから出張扱いで異世界へ行ってくれるかい?」

「は、はい喜んで!」

 そんなワケで、時給つきでまずは異世界へ出張する事になった奏真であった。


「セイル~っ!!!」

 バイト終了後、帰宅まで待ちきれない奏真は店の休憩室で星琉とボイスチャットしていた。

「あ、話聞いた?」

「聞いた聞いた!お前、俺を推薦してくれたって?!」

「うん」

「ありがとぉぉぉ~!!!」

 奏真、感涙。

「こっちで騎士たちとの模擬戦があるんだけど、ソーマも100人斬りチャレンジでいい?」

「お、おう。環境はVRマシンと同じだよな?」

 アーシアでの身体能力がSETAのVRマシン内と同じとは聞いているが、念の為確認する奏真。

「うん。むしろそれより動きやすいよ」

「よっしゃ任せとけ!パーフェクト目指しとく」

 答える奏真はタイム差で星琉に負けはしたが、ゲーム大会の100人斬りでは無傷で全員を倒すパーフェクトを達成した事があった。

「ソーマの連撃を避けられる奴なんてヒューマンにいないと思うよ」

「お前それ全部回避しといて言う?」

「あはは、俺獣人認定だから」

「えっ何?お前人間やめたのか?」

「やめてない、やめてない!」

 そんな会話を交わした後、奏真は浮かれ気分で帰宅した。


 …が。


「ふうん。良かったじゃない。ずっとバイトなのかと心配したわ」

 帰宅して報告すると、母の反応が薄い。

「出来れば真一のように司法書士になって事務所を手伝ってほしかったが。まあ正社員になるなら良しとするか」

 父も反応がイマイチだ。

「しょうがないよ、奏真は勉強嫌いなんだから」

 兄・真一もドライな反応である。


 奏真の家は祖父の代から司法書士事務所を経営しており、父と兄は司法書士として働いている。

 同じように働く事を求められた奏真だが、その勉強がどうにも苦手で覚えられず、家族からこの子は向かないと匙を投げられていた。

 本人としては強要されなくて気楽で良かったが、他の仕事を蔑ろにされるのは面白くない。

(…んだよチクショー、SETAといったら世界中どころか異世界まで取引先がある大企業だぞ?正社員つったら凄い難易度だぞ?喜んでくれてもいいじゃねーか)

 不満に思う奏真だが、家族にそれをぶつける事は無かった。


 高校在学中も含めれば3年近い就活。

 募集している企業そのものが少ない上に、職探しをする者が多い時代。

 高校にもハロワにも求人情報はほとんど無い。

 少ない求人に多くが申し込み鎬を削るような状況。

 家族だけでなく奏真本人も諦めかけていたところがあった。

 そこへ舞い込んだ正社員登用の話。

 奏真は司法書士のようなデスクワークは苦手だ。

 異世界での仕事は星琉の話によればプレイヤー・ソーマとしての剣の腕を見込まれてのものらしい。

 空港やコロシアムなど王都の施設内で王女が襲撃される事件があったので、おそらく騎士となり警備の強化要員として王都や王宮勤めになるだろうとの事だった。

 学園に通う王女本人は、同い年の星琉が転入して警護するという。

 現地住民と対戦を経験した星琉の見立てでは、奏真は獣人レベルかそれ以上の高い能力を持つらしい。

(まさかこの俺が騎士とか……。王都を乱す悪者どもめ、この双剣の錆になるがいい)

 ちょっと中二病風味な思考も浮かびつつ、奏真は異世界行きの日を楽しみに待った。





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