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第15話:異世界土産

 星琉は瀬田から贈られたスマホの転移機能を使って実家に行ってみた。

 家族に土産を渡し、今後の報告をする為に。


 玄関前に転移して「ただいま~」と扉を開けて入ると…

「おみやげ~!おかえりぃ!!」

 わらわらと駆けて来るチビッコたち。

 6人いる弟妹のうち、まだ幼い4人だ。

「お前ら、兄ちゃんじゃなくて土産の出迎えかよ」

 星琉はツッコミを入れた。

「おみやげ~」

「まってたの~」

 チビたちは、聞いちゃいない。

「ほらコレ」

 星琉はストレージからスライムシャーベットが入った小箱を出し、チビッコ1人1人に手渡した。

「にいちゃん手品おぼえたの?」

 4人の中で一番年上の子が聞く。

「異世界に行くと自然に覚えるやつだよ」

 星琉が答えると、聞いた子はいいなぁ~と呟いた。

「スプーンもついてるから。ちゃんと座って食えよ」

「ありがと~!」

 ダダダダダッと勢いよく走り去るチビッコたち。


 庭へ行くと母が大量の洗濯物を取り込んでいた。

「お帰り星琉、いいお土産買えた?」

 …こちらも土産が気になる様子。

「うん、母さんのはコレ」

 星琉はシエム国のフルーツを渡した。

「向こうでお土産いっぱい貰ってさ。渡されたお金使ってないから返すよ」

 母から預かった土産代を返す星琉。

「良かったねぇ。フルーツは冷やして夕飯のデザートにしようね」

「じゃあ冷蔵庫に入れとくよ」

 洗濯物の取り込み途中の母の代わりに、星琉はフルーツを冷蔵庫に入れに行った。

 家族が多い青野家、冷蔵庫は飲食店並みにデカイ。

 星琉はストレージに入れていたミノ肉を冷凍庫に全部詰め込んだ。

 食べ盛りの子供が多いから肉はすぐ無くなりそうだ。

(時々見に来て補充しとこう)

 星琉は家族用にミノやボア狩りを考えた。


 祖父母の部屋へ行くと、いつものようにのんびりテレビを見ていた。

「おや星琉、しばらく見ないうちに大きくなったね」

「いやいやいや、離れてたの1週間くらいだから!」

 ボケる祖母に星琉はツッコミを入れた。

 孫が9人もいると祖父母もいちいち覚えていられないらしい。

 名前を間違われないだけマシというものだ。

「はいコレ、じいちゃんとばあちゃんにあげる」

 シエム国のフルーツタルトを座卓に置いて、星琉は祖父母の部屋を出た。


 4月から中学2年の三男坊は男子部屋でゲームをしていた。

「あ!兄ちゃんお帰り!異世界どうだった?!」

 星琉と同じくゲーム好きの兄弟、異世界に興味津々だ。

「すっげぇ楽しいぞ!ほらコレ、土産」

 お肉大好き食べ盛りの弟には、ミノタウロスのローストサンドだ。

「すげぇ!美味そう!!」

 テンション上がる中学男子。

「その箱、時間魔法ついてて取り出す時は出来たてアツアツらしいぞ」

「魔法?!異世界すげぇ!」

 弟のテンションを上げまくった後、星琉は部屋を出た。


 星琉の1つ下、もうすぐ高2の次女は女子部屋でラノベを読んでいた。

「ただいま理真、開けてもいいか~?」

「兄ちゃんおかえり!入っていいよ~」

 許可を得て室内に入り、土産を渡す。

「はいコレ。異世界の古美術商から買ったやつ」

 他の家族が食べ物を希望する中、この妹だけは異世界で描かれた絵を望んでいた。

 星琉はルーがカタナを買ったという古美術商を教えてもらい、そこにあった小さな絵を買っていた。

 白くて丸い石板に、海に浮かぶ帆船の絵が描かれている。

「綺麗~ありがとう!」

 本や絵を見るのが好きな妹も気に入ってくれたようだった。


 社会人の父・長男・長女は夜になってからの帰宅だ。

 星琉は母にも声をかけてその場に居てもらい、居間で4人に報告をした。


 異世界の剣術大会で優勝した事。

 株式会社SETAの社員として採用された事。

 勤務地が異世界になった事。

 住み込みの仕事に決まった事。

 福利厚生がしっかりした会社だから安心してほしい事。


「…で、これが社員証と、会社から支給されたスマホ」

 ストレージから社員証とスマホを取り出し、見せた。

 まじまじと社員証を眺める両親と兄姉。


「住み込みの仕事を探すとは聞いてたが、異世界とは随分と遠いな」

 父が言う。

「転移だから移動は一瞬だよ」

 星琉は答えた。


「ゴハンはちゃんと食べるのよ?」

 母が言う。

「うん。賄い付きだから安心して」

 星琉は答えた。


「SETAなんて大会社じゃない、よく受かったわね!」

 姉が言う。

「なんか色々あって勤務地の上司に気に入られたみたいだよ」

 星琉は答えた。


「…っていうかちょっと待て、何この役職!」

 兄が、気付いた。

「あ、それ?向こうの大会でも優勝したら勇者認定されちゃった」

 あはは、と笑って星琉は答えた。

 他の3人もそこでようやく社員証の役職に気付き、困惑した。


 家族全員に土産を渡し終えると、星琉は着替えと家族の集合写真をストレージに入れた。

 相部屋だったので自分だけの物は衣類くらいだ。

「兄ちゃん、どっか行くの?」

 まだ起きていた中学生の弟が聞く。

 その背後では幼い弟2人が爆睡。

「兄ちゃん異世界で働く事になったんだよ」

 星琉は答えた。

「マジで?!何の仕事??」

 興味津々なゲーム好き男子。

「勇者だよ」

 星琉は社員証を見せた。

「いいなぁ。それどうやったらなれんの?」

 羨ましがられた上に聞かれた。

「ん~、そうだなぁ…ゲーム大会で優勝して異世界に招待されたらなれるかも」

 答えて、星琉はスマホの転移アプリを起動する。


 転移先入力:アーシア・自分の部屋


 星琉の足元に魔法陣が現れる。

「おぉぉ~魔法陣出してるし!」

 弟のテンションが高い。


「SETAのゲーム大会、参加してみたらいいぞ。何か武術極めとけ」

 言い残して、星琉は実家を出た。




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