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第13話:王女と勇者

 プルミエ王国の剣術大会は星琉の優勝で幕を閉じた。

 1~3位は表彰され、優れた剣士である事を示す剣と賞金が渡される。

 国王が壇上に立ち、その左右に王妃と王女、背後に王と王妃の守護騎士と護衛たちが控えていた。

 表彰は3位から進み、最後は1位となった星琉。


「異世界の剣士セイルよ…」

 国王が話し始めた、その時。

 ヒュッと風を切り、イリアめがけて矢が放たれた。

 キンッと音を立て、矢はイリアを包む球状の防護壁に弾かれる。

 星琉が贈った守護石の効果が発動していた。

「誰だ!!!」

 場内を警備していた騎士たちが殺気立つ。

 彼等が見つけるより早く、星琉が動いた。

 瞬時に敵の前まで移動し、刀の峰打ちで沈黙させる。

(まだいる…!)

 捕縛は騎士にたちに任せ、星琉は次の敵を気絶させた。

 敵がどこに何人いるか、まるでレーダーのように探知出来る。

 星琉は確実に敵を見つけ出し、捉えた。

 獣人よりも速い攻撃に抗える敵は無く、全てが一撃で沈められ騎士に捕縛される。

 驚くほど短時間で敵グループは制圧され、騎士たちが牢へ連行した。


 危険が無くなった事を確認して、星琉は表彰の場へ戻った。

「セイルよ、大会の成績だけでなく、二度も王家の者の危機を救った事、その功績は称賛に値する」

 先程の事件に動揺している気配も無く、王は威厳を保って言う。

「よってそなたに【勇者】の称号を与える。この国の永住権を授け、王城に住まう事を許可する」

「?!」

 想定外の待遇に一番驚いたのは星琉本人。

 観客が沸いた。

 異を唱える者はいなかった。

(…え…永住権? 王城住まい? っていうかなんで俺が勇者??)

 本人だけが困惑していた。


 表彰式が終わった後は、王城で立食パーティが催された。

 大会の優勝者~3位までは当然主役扱いで、色々な人々が挨拶に来る。

 星琉は獣人ブロック参加だったので獣人たちが集まってくる。

 …が

(…どうしてこうなった…?)

 星琉はヒクッと頬を引き攣らせた。

 やけに女性の数が多い。

 参加した選手の姉やら妹やらワラワラ寄って来る。

 加えて人間の令嬢たちもやって来る。

 向こうの方で楽師たちが準備をしているのが見えたので、おそらくダンス狙いだろう。

(…いや、駄目だ)

 星琉は周囲に流されないように意志を保ち、ちょっと失礼、と声をかけてその場を離れる。

 最初に踊りたい相手は決まっていた。

「イリア」

 王家の人々がいるところまで行くと、星琉は王女に声をかける。

 音楽が流れ始めた。

「一緒に踊って頂けませんか?」

 丁寧に一礼。

 王女は嬉しそうに微笑み、答える。

「はい」


 前夜祭の時以上に人々の注目を浴びつつ踊る少年少女を、サラリーマン2人はやれやれという感じで眺めていた。

「まさか勇者になっちゃうなんてねぇ」

 ワイン片手に渡辺が呟く。

「セイル君4月から就活とか言ってたけど異世界就職ですかね?」

 チキンを手に森田が言う。

「あの剣技をVRゲームだけに使うのは勿体ない」

 渡辺は言った。


 ダンスタイムが終わると、星琉はイリアを誘って庭園へ移動した。

 今夜も満点の星、小妖精たちは花の中で寝たフリをしている。

「冒険者じゃなくて勇者になっちゃったね」

 クスッと笑ってイリアが言う。

「まだすんごく困惑してるんだけど。勇者って何したらいい?」

 戸惑いを隠しきれない星琉が聞く。

「王国の危機を救えばいいんじゃない?」

「そこを詳しく」

「そうねぇ…例えば、この国の未来の女王を護るとか?」

「…未来の女王…?」

 意味深な笑みを向けられ、しばし考える星琉。

「ここにいるじゃない」

 イリアが、自らを指さしてみせた。

「…って、王位継承権あったの?!」

 今更驚く星琉。

「私を何だと思ってたの?」

「えーと、王女で聖女」

「この国、王子いないでしょ?むしろ国王の子供って私だけでしょ?」

「…つまり、漏れなく次の王様?」

「そういう事ね」

「…つまり、未来の俺の上司?」

 ようやくイリアの立場を把握した星琉であった。


 すると…


「…妻かもしれないわよ?」

「………えっ?!」

 唐突にボソッと言われ、星琉は慌てた。

「勇者が王女と結婚するのはよくある事だってシロウが言ってたよ」

(…何を教えてるんだ瀬田さん…)

 どうやらイリアは瀬田から何か教えられたらしい。

「この国の永住権もらったし、お城に住むし、もう結婚でいいんじゃない?」

「そ、そんな軽いノリでいいのか?」

 何か開き直った感じのイリアにまた困惑する星琉。

「忘れてって言ったけど本当に忘れちゃったの?」

 イリアが迫る。

 圧倒されてタジタジの星琉。

 唐突にイリアが顔を近付けてきて、不意打ちみたいに唇を奪う。

 星琉、しばし呆然。

 回避能力に優れた彼だが、これは避けられなかった。

「…い…今の…俺の…ファーストなんだけど…」

「私もよ。だからおあいこね」

 思考が半分停止した星琉にイリアが告げる。

「…セイルがいい、セイルじゃなきゃヤダ」

 更に追い打ちをかけるようにポロポロ涙を零し始めた。

 美少女の泣き落としは最強である。

「…わ、分かったから。泣かないで」

 星琉、陥落。

 そして、イリアに負けて、婚約する事になる星琉であった。




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