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第10話:大会2日目

 翌朝、選手控室の人数は半分に減っていた。

 敗者は控室に入れなくなるので、ナルもそこにはいない。

 ちょっと寂しかったがナルの住んでいる村の名前は聞いたので、そのうち行ってみようと考えた。


 2戦目の相手は虎耳とシマシマ長いシッポの筋肉多めな獣人だった。

 獣の虎がそうであるように、大柄な体格からは想像つかない速度で移動し、跳躍力もヒューマンを遥かに超える。

 身体の動きはしなやかで、野生の虎を連想させた。


「機動力のあるマッチョ!それが俺!!」

 …言う事がコミカルなのはおいといて。


 1戦目のナルに比べると多少速度は劣るが、打ち込んでくる勢いはパワーがあり過ぎて剣で受け止めるのは危険だ。

 高速で振るわれる大剣を、回避する星琉。

 ドゴォーンッ!と派手な音をたてて土が舞う。

 凄まじい破壊力とスピード。

 その土煙の中から相手が飛び出してきて、次の一撃が振るわれる。

 星琉がスイッと回避すると、また土煙が上がる。

 そこからまた飛び出してくる相手の更なる一撃。

 それも回避。

 繰り返される突撃&回避、土煙が治まる暇が無い。

 地面はあちこち陥没してクレーターみたいになっていた。

 更にまた一撃。

「ボルさん地面に穴開けすぎ~!」

 それを躱して星琉が言う。

「心配するな、土魔法使いが後で直す」

 遠慮なく地面に大穴を開けるボルこと虎系獣人ボルドーがニヤッと笑う。

「お前が受け止めれば穴は開かんぞ?」

「そんなの受けたら剣が折れるよっ!」

 ツッコミを入れつつ、星琉は反撃のタイミングを探る。


 ボルのスタミナは桁違いで攻撃を休める様子が無い。

 剣を地面に打ち下ろした後は土煙が派手に舞うので狙い難い。

 振り上げた瞬間だと、器用に向きを変えて防がれてしまう。

 ボルは自らの隙は分かっているから予測して防御動作に入っているようだ。


(…なら、ここだ!)

 相手の予想の外に狙いを定めた。

 ボルが剣を振る瞬間。

 星琉の姿が一瞬揺らぎ、消える。

 あろうことか振られている剣に飛び乗り、一足飛びでボルに迫る。

 ボルが剣を振る速度よりも速く動けるからこその芸当。

 防ぎようのない反撃。

 喉元に剣先を突き付けて、勝負は決した。

「やっぱりお前、とんでもねぇな」

 ボルが笑って言う。

 控室で見た時から、星琉に只者ではない気配を感じたらしい。

「お前なら優勝出来るんじゃないか?っていうか優勝しろ。俺に勝ったんだからな」

 豪快に笑うボルに言われつつ退場する星琉の背後で、観客の歓声が響いていた。


 2人が去った後、サササーッと数人の魔法使いが現場に来た。

「ひゃ~、いつもより穴ボコだらけだぁ」

「ボルさんいつも以上に張り切ってたねぇ」

「よくまぁこれ全部避けられるよなぁ」

 そんな事を言いつつ魔法陣を描き、地面の穴を塞いで平らにしてゆく。

 スケートリンクの整備より大仕事だ。


「虎系獣人は機動力のあるマッチョなのか」

「らしいですねぇ」

「しかしあの猛攻、ゲームに実装して攻略出来るプレイヤー何人いるかな?」

「難易度調整が要りそうですね」

 渡辺と森田は今日もオシゴトモード。

 ボルとの戦闘もバッチリ撮影済みだ。

 カメラを片付けると、2人は昼食をとりに出た。

 2日目の勝者は午後も出番があり、星琉は昼食や休憩を控室で済ませる。

 渡辺と森田も昼食をとったらまた戻って来てカメラを設置した。


 …そして午後、3回戦…

(今日はマッチョサービスデーかな?)

 苦笑する星琉。

「フンッ!フンッ!フンッ!」

 大剣を片手に、筋肉を誇示する獣人の大男。

 午前に虎が出たかと思えば、午後は熊である。

 獣人の参加者にマッチョはそこまで多くない筈だが、何故当たるのか。

 お城のパーティの時に令嬢たちから『獣人族はスタイルが良い人が多い』と聞いた気がするのだが。

 ただのウワサだったのだろうか??

 目の前にいるのは、午前の相手より筋肉増量の熊系獣人だ。


「マッチョの頂点を目指す!」

「いやこれ剣術大会だし!」

「キングオブマッチョとは俺様の事だぁ!」

「聞いてねぇ!!!」

 声高らかに宣言する熊マッチョに星琉はツッコミ入れた。

 バッ!と熊男が大ジャンプする。

「筋肉で勝負ぅぅぅ!」

「だから剣術勝負だっつーの!」

 剣を放り投げてフライングボディアタックを仕掛けてくる熊。

 サッと避ける星琉。

 そして剣を水平にして熊の頭をベシッ!と殴った。

 脳震盪を起こして倒れる熊。


 3回戦まで勝ち進んだ熊男は、星琉のスピードについてゆけずアッサリ沈んだ。

 というよりも剣を手放した(放り投げた)時点で戦闘放棄になるが。

 何がしたかったのか?

 徒手空拳でなく剣術の大会に出た意味は??

 何故ここまで勝ち進めたのか謎である。

「…勝者、セイル!」

 審判が笑いを堪えながら星琉の勝利を宣言する。

 気絶した熊男を数人がかりで大きな荷車に乗せ、運び出す会場スタッフたち。

 観客、大爆笑。


 撮影していた渡辺と森田、思わず吹き出す。

「筋肉………!」

「あれゲームキャラに…します?」

「ギャグ要素で入れる…かも?」

 その後、瀬田に送信されたその動画は、お蔵入りとなるのであった。




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