大会開始日の朝、貼り出されたトーナメント表を見る為、星琉たちはコロシアム入口に来ていた。
「…あれ?俺の名前…載ってない??」
表を眺めて怪訝な顔をする星琉。
その肩をポンポンと叩いて、渡辺が別のトーナメント表を指さした。
「セイル君、あっちだよ」
「へ?!」
それは、獣人族のトーナメント表だった。
種族による基本能力値の差が大きいので、それぞれに分かれているのだが…
「俺、獣人じゃないんですけどっ」
「うん、予想を裏切らない表だね」
ちょっとまてーいっ!と言いたい星琉に、渡辺が笑って言った。
「転移者の方はこちらの人間の基準とは大きく異なる事が多いので、女神様より託宣を頂いたのですが…」
受付嬢に自分は獣人ではないと言うと、ちょっと困ったような顔で説明された。
「…こちらが神託です」
スッと差し出された1枚の木の葉。
神官や巫女が祈ると神からのお告げが書かれるという神樹の葉らしい。
そこには、文字が浮かび出ていた。
『ヒューマンじゃ相手にならないから獣人族ブロックに入れといて。 byアイラ』
「え………?」
「女神様、適当過ぎない?w」
呆然とする星琉に代わって森田がツッコミを入れた。
大会参加者の共用エリアはブロックごとに分かれているが、星琉が案内されたのは勿論獣人エリア。
ケモ耳とシッポのある様々な姿の人々の中、どう見ても容姿はヒューマンの少年の星琉は違和感しかない。
興味津々で獣人たちが話しかけてきた。
「あはは、お前が獣人と間違われてる異世界人か」
「見た目と匂いはヒューマンなのにな」
「まあでも空港での動きを見たらヒューマンとは思えないよな」
さすがに獣人たちに同族と間違われる事は無かったが、かなり面白がられている。
「あの身体能力なら獣人ブロックで充分だぞ」
「もしかしたらそれ以上、かもな」
猛者と思われる男たちが言う。
星琉は獣人との対戦経験は無いので、頑張ります~と答えておいた。
「初戦の相手は俺だぜ、名前はナル。よろしくな」
狐耳とシッポの少年が握手を求めてきた。
「俺はセイル。よろしく!楽しめるように頑張るよ」
その手を握り返して星琉は笑みを向けた。
「間もなく開始、プルミエ剣術大会、獣人ブロックには異世界からの挑戦者セイルが参加!」
司会者のアナウンスが響き渡る。
大会はヒューマン、獣人の他、エルフやドワーフといったファンタジーでお馴染みの種族でブロックが分けられている。
対戦は会場を分けて同時進行、それぞれカメラが向けられており、リアルタイムで大画面に映し出され、録画したものを後で国営魔導通信で流すという。
獣人はその動きがヒューマンやドワーフには目視出来ない速さなので、通常の動画を映す画面の隣に目視出来る速度まで落としたスロー再生画面もある。
「ちなみにカメラと画面は…」
「社長の発明ですね分かります」
説明しかける渡辺に、森田がツッコミ入れた。
開始の合図、空砲が鳴り響いた。
「行くぜ!」
ナルの姿がフッと消えた。
キィンッ!と音がしたかと思えば、ナルが打ち込んできた剣を星琉の剣が受け止めていた。
防がれたと分かり、ナルは跳躍して下がる。
「これに反応出来たヒューマン初めて見たぞ」
ナルはわくわくしてきたらしい。
狐耳がピンと立ち、シッポがフッサフッサ揺れた。
再びナルの姿がフッと消え、そこから高速の剣戟が続く。
次々に打ち込んでくるナルの剣を、星琉は難なく受け流す。
「じゃあ~これはどうだ?」
ナルが連撃を繰り出した。
星琉はフッと笑みを浮かべると、僅かな動作でその全てを躱した。
ナルが更にもう1撃打ち込んだ。
「!」
と、不意に星琉の姿が揺らぎ、ナルの耳とシッポの毛がブワッと逆立つ。
直後、ナルの剣は弾き飛ばされ、その喉元に剣先が突き付けられていた。
「…ま、参った」
ナルは両手を挙げて降参の意を示した。
「獣人ブロック1戦目、勝者セイル!」
審判が告げる。
星琉とナルは笑顔で握手を交わした。
「お前強いなぁ~すっげぇ楽しかったぞ!」
負けたけどナルは御機嫌だ。
「ありがとう!俺も楽しかったよ」
星琉もニッと笑った。
会場が沸いた。
勝敗の結果はスロー再生の画面でリプレイされている。
連撃を躱された後、更にナルが打ち込んだ剣を星琉が薙ぎ払い、剣を翻すようにしてナルの喉元へ向ける様子が映されていた。
「今の撮れたか?」
「はい、バッチリです」
観客席では渡辺と森田がオシゴトモード。
「Sword of EarthiaⅡは獣人族との対戦になりそうだね」
楽しそうに笑いながら退場してゆく少年たちを微笑ましく眺めて、渡辺が言う。
「ストーリーモードは主人公が異世界の剣術大会に出たら獣人ブロックに突っ込まれた展開ですね」
カメラを片付けながら森田が言う。
Sword of EarthiaとはSETAのアクションゲームで、VRマシンに入ってプレイする。
異世界アーシアの環境を再現した中で、実際に自分の身体を動かすので、フィットネス代わりにプレイする人が多かった。
ガチ勢になると星琉のように剣術を極め、大会に参加するようになる。
そして次作は、1作目の対戦モードを使った大会で優勝したプレイヤーをアーシアの大会に参加させたデータを元に開発する予定になっている。
「こっちの大会に出るだけで充分ストーリーになりそうなのに、お姫様助けちゃうわ、獣人と間違われるわ、ダンスで令嬢魅了するわ…ネタが尽きない子だねぇセイル君は」
楽しそうに渡辺は言う。
「社長に報告したら間違いなくストーリーにブチ込みますよね」
森田も笑って言う。
自分の異世界体験がそのまんま新作に使われようとは、星琉はこの時思ってもみなかった。