目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第4話:異世界グルメと冒険者

 王女を助けた功績でお城に泊めてもらえる事になった星琉たちは、翌朝イリアの案内で城下町を散策していた。

「いらっしゃい。姫様のお好きな白パン焼き立てですよ~」

 イリアは普段から来ているらしく、パン屋のオヤジが常連客にするように好みのパンを袋に入れて差し出した。

 王族だからお付きの人が会計をするのかと思ったら、イリアは慣れた調子でポケットから財布を出して自分で支払っている。

 護衛の騎士たちも見慣れているのか、驚きもせず脇に控えていた。

「お、空港でいい蹴りを披露してた兄ちゃんだね」

「え、見てたんですか?w」

 オヤジに声をかけられ、照れる星琉。

「現地にはいなかったけどな。空港の監視カメラの映像が国営魔道通信で流れてたぞ」

「…なんですかその拡散力強そうなネットワークは…w」

 恥ずかしすぎて青ざめる星琉。

「あの人垣を飛び越えて蹴りをお見舞いするなんてすげぇな」

 オヤジ曰く、跳躍して人垣を軽々と飛び越えるのを見た人々は皆、猫系獣人の戦士が来たかと思ったのだとか。

「明日は大会に出るんだろ?これサービスしとくから食って体力つけときな」

 オヤジは丸いハードパンに葉野菜と薄切り肉を挟んだものを紙に包み、手渡してくれた。

 焼き立てのフランスパンのような香ばしい香りに、牛肉を焼いたのと似た肉の香りもする。

「ありがとう!いただきます!!」

 大家族育ちで食べる事に関しては遠慮しない星琉は大喜びで、迷わず受け取った。

 オヤジは渡辺と森田にもサービスしてくれて、コーヒーに似た飲み物まで出してくれた。

「うまぁ~!」

 店のテラス席で、星琉と森田が感嘆の声を上げた。冷静な渡辺も夢中で食べている。

 パリッとした皮にフワッとしつつ弾力もあるバンズは味もフランスパンに似ていた。

 肉は黒毛和牛のステーキかと思うような油の旨味とジューシーさ。

 一緒に挟まれた葉野菜はレタスに似ていて、みずみずしくパリッとした食感。

 少し酸味のあるソースがこれまた美味しさUPに貢献している。

「あ~、これ家で食ってたら絶対みんなに取られるヤツだ」

 成長期の男子らしくお肉大好きな星琉、旅先のご馳走に大満足。

「気に入ったなら土産にやるよ。シロウが発明したギフトBOXに入れておけばアツアツのまま食えるぞ」

 と、オヤジがテイクアウト用の包装箱を見せた。

 一見ファーストフード店なんかでよくあるハンバーガー用の包材に見えるが、取り出すまで料理を出来たて状態維持するらしい。

「…ってまた社長のチート発明がw」

 ツッコミつつ、森田もそろそろ慣れてきたのかそれほど驚かなかった。

「オヤジさん、この肉って何の動物?肉屋とかで売ってる?」

 星琉は黒毛和牛のように美味い肉が何なのか気になり始める。

 王様のご褒美で価格を気にせず買えるので、保存に優れた包材があるなら土産にと考えた。

「ミノタウロスだよ」

 オヤジが答えると、イリアが情報を付け加えた。

「肉屋にもあるけど冒険者ギルドから買う方が安く買えるの。行ってみる?」

「ぜひ!!!」

 星琉&森田、即答。

 渡辺ももちろん同意。

 一行はイリアの案内で冒険者ギルドに向かった。


 …しかし…


「えっ、品切れ?!」

「祭りの屋台で丸焼きが出るからね。ミノもボアも全部丸ごと買い取られちゃったよ」

 ギルドの受付嬢から残念なお知らせ。

 ションボリ帰ろうとする星琉たちに、近くで聞いていた冒険者が声をかけてきた。

「兄ちゃん昨日10人くらいまとめてノシちゃった人でしょ?」

「こ…ここでも知られてる?」

 筋肉豊富なオジサンがニコニコしながら言い、星琉はまた恥ずかしさで青ざめた。

「セイル君、国営魔道通信で出たんならほとんどの国民に知られてると思うよ」

 渡辺が苦笑しながら言う。

「あれくらい強けりゃミノ狩れると思うぞ?俺たちと一緒に狩りに行くか?」

「そうだな、1匹や2匹楽勝だろ」

 筋肉オジサンが言うと、後ろで聞いていた人々も声をかけてきた。

「もし怪我してもそっちの2人が完全回復させるだろ?」

 話を振られ、他人事みたいに傍観していた渡辺と森田が「え、行くの?」と青ざめた。

「セイルは強いから大丈夫そうだけど、ヨウイチとヒロヤは気をつけてね。私はお城で待ってるわ」

 昨日襲撃されたばかりのイリアはついて行くわけにはいかず、護衛たちと共に帰っていった。


 筋肉まつりムキムキマッチョ冒険者たちに連れられて、日本人3名はミノ狩りツアーに出た。

 森に入ってすぐ遭遇したのは赤いゼリーみたいなスライム。

「お、ベリースライムだ。こいつも食うと美味いぞ」

 マッチョがナイフを投げて核を貫き、スライムを沈黙させた。

「兄ちゃんたち向こう(地球)から来たんならストレージあるだろ?そこへ入れときな」

 言われて、今回来るのが初めての星琉と森田はキョトンとしたが、渡辺は知ってるらしく慣れた手つきで空間に入口を出現させ、スライムを収納した。

「便利だよなそれ。異世界転移の全員プレゼントだろ?来月ゲーム大会に出る連中が張り切るわけだ」

「え~っと、こうかな?…お、開いた開いた」

 渡辺の真似をして星琉と森田もストレージオープン。

 といってもまだこれといって入れるものは無いので使えるか確認する程度だ。

「そうそう教えるのを忘れてた。ここに入れれば中で時間停止するから食品の鮮度を保てるんだよ」

「って事は屋台の串焼きなんかもアツアツのまま土産に…!」

「土産を待つ家族も大喜びなアイテムだね」

 というわけでスイーツとして食べられるというベリースライムも何匹か狩って収納した。


 目的のミノタウロスは見た目も黒毛和牛風味だった。

 黒い牛が二足歩行してるみたいな、そんな感じだ。

 森田、ハッと気付いた。

「セイル君、牛がしゃべり出す前にやっちゃって!w」

 言語理解スキルは知性のある魔物とも会話出来てしまう。

 さっきのスライムは全然言葉を発しなかったが二足歩行してる牛は言葉を持ってるかもしれない。

 うっかり会話しちゃったら食べづらいというのが森田の主張である。

「ミノの急所は頭部、やれるかい?」

 言いながら、マッチョが剣を貸してくれた。

「行きます!」

 星琉の姿がフッと消えた。

 …直後、地響きたてて倒れる黒毛和牛もといミノタウロス。

 会話どころか瞬きする間も無かった。

「は…はぇぇ!」

「太刀筋どころか何が起きたか全然見えなかったぞ?」

「お、お前ほんとにヒューマンか?獣人の間違いじゃないか?」

 驚愕するマッチョトリオ。

「さすがセイル君」

「双剣使いの10連撃を全回避するだけあるね~」

 ゲーム大会での動きを知る渡辺と森田はパチパチと拍手するだけだった。


 SETAの対戦ゲームで「セイル」が頂点に立ったのは、その極めて高い回避力&瞬発力にある。

 決勝戦の相手だったソーマもスピードタイプで高速の連撃を得意とするが、セイルの回避力はそれを上回り、かすりもせずに高速の反撃を叩きこんで勝利している。

 異世界アーシアの環境を再現したVRの中で出来た事が、理論上はこの世界で可能というわけで…

「女神様が『とんでもないステータス』とか言ってたの、こういう事かな?w」

 本人としてはゲームで慣れた動きなのだが、こちらの世界の人からしたら獣人レベル?という事なのだろう。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?