「まあまあまあ、おふたりとも。仲良く濡れましたねぇ」
「あはは。お鈴、早速ですまないが手拭いを……」
「はいはい、用意してますよ」
ぱたぱたとお鈴が手拭いを取りに部屋の奥へと向かう。あれから粘りに粘ったせいで体がすっかり冷えてしまった。別の意味でカタカタと震える体を裏業は必死に抑え込もうとする。
髪の毛の先端から滴る雨の雫が床に落ちる度、どうしてこうなったんだっけと自問自答を繰り返す。
「…………ごめんなさい」
「……それは、何に対して?」
彼が怒っている気がして、謝ってみたもののやはり怒っていたようで、その声には少しではあるが怒気がこもっていた。裏業は目を合わせて話すことができなかった。
「話を、断ろうとしたことだ。理由を何も聞かずに、断るのは、不躾だった」
「……もーいいよ。俺も大人げなかったから。……それで? 何を思い出したんだい?」
「それは、芦屋殿にお会いしてから話す」
「ここまで来て、頑なだなあ」
それから彼女はだんまり、口を閉ざしてしまった。お鈴が頃合いを見て手拭いを持ってきたのでそれを受け取り濡れた箇所を簡単に拭う。奥からカタンと足音がした。
「あ、糸音」
「あ、水埜辺様、お久し振りです。いらしてくださったんですね」
「そりゃあね。糸音のお願いだから」
戸を開けて玄関口に出てきたのは、黒髪を後ろに結った女性だった。
この人がきっと水埜辺の言っていた『芦屋』なのだろう。糸音というのは彼女の下の名だろうか。彼女の両腕には先日生まれたばかりだという件の赤ん坊がすやすやと眠っていた。
「うんうん、太助も元気そうでなによりだ。今日はお鈴の診察かい? ちょうどよかった。会いに行こうと思っていたんだ」
「ええ、今日で定期健診は終わりなんです。……その子が?」
「そうそう。紹介するね、この子が――」
水埜辺が裏業のことを説明しようと振り向くと、そこには地面に伏せた裏業がいた。
「……えっとぉ、裏業ちゃん⁇」
「お初にお目にかかります、芦屋様」
「え、ええ」
水埜辺と糸音は何事が始まったのかと二人で顔を見合わせた。
「私は、第二十八代桔梗宮家当主、橋具が
「うわーお、急にどしたぁ?」
「ひとつ、私はあなたに……謝らなければならないことがあり、こうして参った次第です。謝って、済む話でもないため、今もどうしていいのか分かりませんが……」
「え……?」
「私は斬首人です。先日、あなたの配偶者であった芦屋太一郎の首を、
その告白は、雨音が強く増すにつれて三人の耳を酷く穿った。