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彼岸の王と首斬り姫
彼岸の王と首斬り姫
KaoLi
文芸・その他純文学
2025年03月12日
公開日
3.9万字
連載中
 世は戦国ーー乱世を生き日の本を我が物にしようと戦う者が多く生きた時代。
 国を統べようとしていた信長が討たれ、時代の移ろいを感じた奴良野(ぬらの)一族の頭領である水埜辺(みずのべ)は、ある日桔梗宮家で『裏業(りぎょう)』と名乗る少女と出会う。少女は、小姓の身なりをしていたが、ただの小姓ではなかった。

 彼女は、国の斬首人。罪人の首を刎ねることを許された、【首斬り姫】であった。

 水埜辺が国に疫病をもたらしている妖怪の長だと知りつつも、裏業は、人として生きる彼に次第に惹かれていく。これでは人間と妖怪、どちらが正しいのか、自らの心が揺らぎ出して……。

 これは、嶺山の大妖怪×斬首人の少女が織りなす運命の物語——!

第1話 奴良野山

 世は戦国、天下分け目の安土桃山時代。

 尾張の国の大名、織田信長が今まさに天下統一を目前にしていたその時代。もとにはある噂が国中にあった。

 ある人里離れた京都の奥に一つ山の神を祀る嶺山があった。

 嶺山の名は奴良野ぬらの。嶺山の頭領である奴良野水埜辺みずのべ、彼を手にした大名や武将は、それこそ戦をしなくとも日本国を統べる力を手にすることができるというがあった。


 しかしこの奴良野、なかなか、一筋縄ではいかなかった。


「国を手に入れたくば、この奴良野を落としてみろ!」


 そう、奴良野かれらには絶対の自信があったのだ。

 何故ならば、この奴良野には国を統べる力以外にも、“妖が住まう山”という言い伝えがあったからだ。


 当時、信長公はその噂をどこからか聞きつけて水埜辺に勝負を挑み続けた。その勝負は五年に渡ったが決着がつくことはなかった。


 一五八二年のことである。


 信長公は家臣の一人、明智光秀により謀反を謀られた。のちにその出来事は“本能寺の変”として後世にまで語られることとなる。本能寺の業火は奴良野山の丘からもよく見えていた。


「兄様、ご覧ください。本能寺が燃えております」

「ああ……。一番天下に近かった信長君が死んじゃったかぁ。残念だ」


 その年、奴良野を手に入れること叶わず、織田信長は天下を取ることなくその生涯を終え、時代は豊臣の時代へと動き出したのだった。

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