世は戦国、天下分け目の安土桃山時代。
尾張の国の大名、織田信長が今まさに天下統一を目前にしていたその時代。
ある人里離れた京都の奥に一つ山の神を祀る嶺山があった。
嶺山の名は
しかしこの奴良野、なかなか、一筋縄ではいかなかった。
「国を手に入れたくば、この奴良野を落としてみろ!」
そう、
何故ならば、この奴良野には国を統べる力以外にも、“妖が住まう山”という言い伝えがあったからだ。
当時、信長公はその噂をどこからか聞きつけて水埜辺に勝負を挑み続けた。その勝負は五年に渡ったが決着がつくことはなかった。
一五八二年のことである。
信長公は家臣の一人、明智光秀により謀反を謀られた。のちにその出来事は“本能寺の変”として後世にまで語られることとなる。本能寺の業火は奴良野山の丘からもよく見えていた。
「兄様、ご覧ください。本能寺が燃えております」
「ああ……。一番天下に近かった信長君が死んじゃったかぁ。残念だ」
その年、奴良野を手に入れること叶わず、織田信長は天下を取ることなくその生涯を終え、時代は豊臣の時代へと動き出したのだった。