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第3話ークレッシェンド~だんだん強く~

「あ、居た居た、こずえー!」

教室の入口、大きな声でそう言ったのは昂大だ。恥ずかしい、そう思って私は慌てて昂大の元へ行く。

「大きな声で呼ばないでよ、恥ずかしい。」

言うと昂大は意にも介さない様子で言う。

「え?別にいいじゃん。」

私は昂大を見上げて聞く。

「で、用は何?」

聞くと昂大が頭をかきながら聞く。

「こずえってさ、部活決めた?」

そう聞かれて私は首を振る。

「ううん、部活はやらない。」

そう言うと昂大が少し考える。

「何で?」

聞くと昂大が言う。

「俺さー、軽音入ろうかと思ってて。でも軽音、人が少ないんだよ。特に女子!」

軽音、ねぇ。ギターとかドラムとか、そういうやつだよね。昂大は私に両手を合わせて言う。

「一緒に軽音、やろうぜ!お願い!」

そう言われても私は部活自体、やる気はない。

「えー、やだよ。高校では部活やらないって決めてるもん。」

昂大はなおも言う。

「頼むよ、お願い!」

心は…揺るがなかった。

「部活はやらないの!」

そう言うと昂大は残念そうに苦笑いする。

「そっか、分かった。」

断っちゃったからか、何となく気まずい。

「じゃあさ!」

昂大が言う。

「手伝いくらいはしてくれんだろ?」

そう来るか。そう思った。

「まぁ、手伝いくらいなら…」

そう言うと昂大は嬉しそうに笑う。

「やった!」

その喜ぶ様子に何となく嫌な予感がする。昂大は私の頭をポンと撫で、言う。

「何かあったら頼むわ!じゃあな!」

そう言って手を上げ、自分のクラスの方へ歩いて行く。息をついて振り返る…と、クラスの何人かが私と昂大のやり取りを見ていたようだ。数人の女子が私の方へ走って来て聞く。

「ねぇ!今のってD組の渡邊昂大くんだよね?」

え?昂大って有名なの?そう思いながら頷く。

「うん、そうだけど。」

そう言うと私を囲んでいた女子たちが言う。

「D組の渡邊くんって格好良いよね!」

そう言われて私はカルチャーショックを受ける。格好良い? 昂大が?

「え?そう?」

聞き返すと女子たちが口々に言う。

「佐野さんってさ、何で渡邊くんと 仲良いの?」

私はえーと、と説明をする。

「昂大は保育園時代の同級生で…まぁ、幼馴染って感じで…」

そう言うと女子たちが色めき立つ。

「幼馴染! いーなー!」

羨ましがられるような事は何一つ…無い。保育園時代はいつも泥だらけになって遊んでいただけだから。

「そうかな。」

そう言うとその中の一人の子が言う。

「ねぇ、今度紹介して!」

紹介…そう言われてもピンと来ない。この子は同じクラスの子で…後はお二人でどうぞって感じ?

うーん。


席に戻ると由紀子ちゃんが笑って言う。

「お疲れ。」

そう言われて私は苦笑いする。

「D組の渡邊くん、人気あるんだよ。」

そう由紀子ちゃんに言われる。

「そうなんだ。」

そう言うと由紀子ちゃんは溜息をついて言う。

「こずえちゃんの気持ち、分かるけどね。」

由紀子ちゃんを見ると由紀子ちゃんも苦笑いしている。

「私もさ、幼馴染が居てね、中学に上がった時、何でか知らないけど、その幼馴染がモテるようになっちゃってさ。紹介しろとか、良く言われた。」

私の今の事を既に経験済みなのか、と思う。

「困るよね、紹介しろとか言われてもさ。」

そう由紀子ちゃんに言われて私は頷く。

「そうなんだよね、間を取り持つほど、仲良くも無いし。」

そう言うと由紀子ちゃんが笑う。

「それ! 本当にそれだよねぇ。」



◇◇◇



放課後。帰り支度をしていると、廊下に橘くんが姿を現す。あ、橘くんだ、そう思うと視線が橘くんに集中してしまう。ドキドキして、顔が火照るのが分かる。ふと、橘くんがこっちを見る。視線がぶつかると、橘くんが手を上げてくれる。私もそんな橘くんに手を振る。橘くんがこっちに歩いて来る。え?何か用事かな?そう思って橘くんの方へ歩く。

「帰るの?」

そう聞かれて橘くんを見上げて頷く。

「うん。」

橘くんは優しく微笑んで言う。

「そっか。俺はこれから仮入部。」

そう言われて橘くんに言う。

「そっか、今日からなんだね。」

橘くんが軽く手を上げる。ん?何だろう?そう思っていると、橘くんが言う。

「手。」

そう言われて考える。手?そう思いながら橘くんの手に自分の手を重ねる。橘くんは私の手をそっと握って、ふわっと微笑み言う。

「応援しててな。」

そう言われてどぎまぎしながら頷く。

「うん…」

橘くんの手が離れて。その手で私の頭をポンと撫でる。

「じゃあな!」

そう言って笑顔を残し、背中を向ける。私はしばらくその場で橘くんの背中を見送っていた。



◇◇◇



家に帰り着き、制服を脱いで普段着を着て、ベッドに寝転がる。自分の手を見る。橘くんに握られた手…。温かくて厚みのある手…、ところどころバドミントンの為かタコが出来ていた手…。少し癖っ毛でセットもしていないような髪、黒目がちの大きな瞳、優しい笑み。胸が締め付けられる。もう手を洗えない! そんなふうに思ったりもするけど、実際は洗ったって落ちないその感触を私はちゃんと知っている。そう言えば頭、撫でられたな…。ポンって。ドキッとしてどうしたら良いのか分からなかった。多分、顔、赤かったよね…。どうして橘くんはあんなふうにするんだろう? 私の気持ち、知ってるよね? もう気持ちなんて無いって思ってるのかな? 枕に顔を埋める。うーん、考えたって答えなんか出ないけど! 期待してしまう自分も居る。美琴ちゃんと別れちゃったのかな? それともまだ付き合ってるのかな? 付き合ってるんだったら、今日のコレは罪作りだよぅ…。そう思いながら、ふと思い出す。そういえば昂大にもポンってされたな。でも昂大にそうされるのと、橘くんにそうされるのとでは、全然違うな。多分、私の気持ちの問題なんだろうな…。



◇◇◇



「そう言えば、昂大くんと同じ学校なのよね。」

夜ご飯を食べている時にお母さんにそう言われる。

「うん。クラスは違うけどね。」

そう答えるとお母さんが聞く。

「昂大くん、格好良くなったでしょう?」

私は少し笑う。

「えー! そう? 私には昔の昂大と同じに見えるけど。」

そこまで言って、学校で由紀子ちゃんに言われた事を思い出す。

「昂大、モテるみたいなんだよね。」

そう言うとお母さんが言う。

「あー、分かるわぁ、イケメンって感じ。」

お母さんがそう言うのを聞いてお父さんが言う。

「俺みたいに、か?」

お母さんが吹き出す。

「そう、そう。お父さんみたいにイケメンって感じ。」

二人のやり取りを聞いて、私も笑う。この二人はずっとこんな調子で仲が良い。

「昂大くん、夜ご飯とかちゃんと食べてるのかしら。」


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