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第2話ープレスト~急速に~

昇降口で上履きを履いて、階段を上がる。

「昨日の…」

そう橘くんが切り出す。

「あ、昨日の?」

きっと昂大の事だろうな。誤解されたくなくて慌てて言う。

「昨日のヤツは幼馴染というか…通ってた保育園が一緒だった人で、小中別だったけど、ここで一緒になっただけで…」

何だか言い訳がましいなと思う。橘くんは微笑んで言う。

「そっか。竹内みたいなもんか。」

そう言って橘くんが少し笑う。竹内…橘くんがそう呼ぶのは同じ中学だった子。私とも同じクラスだった竹内真理子ちゃんの事だ。

「まぁくん!!」

背後で急に声がして振り向けば、そこには竹内さんが居た。ジャストタイミングだな、と思うと何だか少し笑える。

「何で先に行っちゃうのよ!」

竹内さんはそう言って橘くんを見る。そして並んで歩いている私を見て、一瞬、ニヤリと笑う。

「何だ、梢も一緒なんだ。」

その笑い方がいやらしい。この人がこう笑う時はあまり良い事にならない。でもそれを振り切ってくれたのは橘くんだった。

「お前、あっちの階段使った方が教室近いじゃん、何でこっち来んの?」

橘くんのそんな問い。確かにクラスが端と端くらい離れているのに、竹内さんはわざわざ教室から遠い階段で上がって来ている。竹内さんは少し慌てたように言う。

「だって! まぁくんがこっちから上るから…」

橘くんは私を見て、そして言う。

「意味分かんね、行こうぜ。」

橘くんに促されて頷く。

「うん。」

ほんの少し振り返って竹内さんを見る。竹内さんは何だか悔しそうに私と橘くんを見ていた。



◇◇◇



とはいえ、私も橘くんとは隣のクラスっていうだけで、それほど交流がある訳でも無い。私が居るのは校舎4階一番端のA組。橘くんはB組。さっきの竹内さんはG組。ついでに言うと昂大はD組だ。校舎の造り上、トイレはE組の前。トイレに行く時は橘くんのクラス前を通る事になる。移動教室の時も。



◇◇◇



それから私は廊下にあるロッカーに荷物を入れて、教科書なんかを出したりする時、何となくB組の方を見てしまっていた。たまに橘くんが教室から出て来ていたりすれば、その姿を見られる事もある。姿を見るだけでドキドキするなんて…。


私は振られたんだぞ!


そう自分に言い聞かせたりする。私はそんなふうなのに、橘くんは私と会うと手を上げたり、手を振ってくれたりする。同じ中学だったし、それなりに仲も良かったけど…こんなに昔から仲良しです、みたいなやり取りするなんて。そう思っていたけど、やっぱりそんなふうにされると私も嬉しかったりする。


最初は手を上げたり、手を振ったりするだけだったのに、いつの間にか、それが廊下でのハイタッチになっていた。すれ違うたびに互いに手を上げて、ハイタッチするようになった。何だか二人だけの特別な挨拶のようで、嬉しかった。



◇◇◇



休み時間、私はトイレに行くのに教室を出た。B組の前では橘くんが友達と話している。あ、橘くんだ…そう思いながら歩く。ふと視線がぶつかる。手を上げて手を振る。橘くんも手を上げて挨拶してくれる。うふふ、今日も橘くんと挨拶出来たな、そんなふうに思って手を下ろそうと思った瞬間だった。すれ違う瞬間、橘くんが私の手を握った。そして引き戻される。


え?


驚いて橘くんを見る。橘くんはしてやったり! という満足そうな顔をして笑う。

「もう!ビックリしたじゃん!」

言うと橘くんが笑いながら言う。

「ごめん、ごめん。」

そんな橘くんに手を振って、トイレに向かう。内心はドキドキだった。顔、赤くなってないかな、手、握られちゃった…。でも、と思う。橘くんって確か、美琴ちゃんと付き合ってるんじゃなかったっけ?もしかしたら高校が別々になって、別れちゃったのかな…?



◇◇◇



部活の勧誘が激しくなって来る。私は中学で吹奏楽部に所属していたから、高校でも吹奏楽部からの勧誘があった。でも私はそれを断った。高校では部活には入らないで、過ごそうと決めていた。放課後にも勧誘をしに先輩が廊下をウロウロしている。帰り支度をしていると、B組の前に橘くん。橘くんは私を見つけると微笑んで私に手を上げ、そして手招きする。


ん?呼ばれてる?


そう思って橘くんの所へ行く。

「呼んだ?」

聞くと橘くんが言う。

「うん、呼んだ。」

橘くんを見上げる。

「なぁに?」

聞くと橘くんが聞く。

「佐野さぁ、部活入るの?」

そう聞かれて首を振る。

「ううん、入らない。」

橘くんは少し笑って言う。

「そっか。」

何でそんな事、聞くんだろう?そう思って聞く。

「何で?」

聞くと橘くんは鼻をかく。

「いや、別に。」

これはもしかして、私と話したいから、呼んだの?!そう思いながら聞き返す。

「橘くんは?」

橘くんは少し笑って言う。

「俺は中学と一緒。バドやる。」

一度だけ、バドミントンをやっている橘くんを見た事があった。すごく格好良かった事を思い出す。

「そっか、じゃあ頑張らないとね!」

言うと橘くんが言う。

「応援してくれんだろ?」

そう聞いて来る橘くんの瞳はすごく優しい。

「うん!応援する!」

笑顔でそう言うと、橘くんはふっと笑って言う。

「参ったな…」

参った?何が参ったな、なの?そう思ったけど、何となく聞けなかった。



◇◇◇



入学して数日が過ぎた。クラスのみんなとも打ち解けて来て、何となくだけどグループが出来上がりつつあった。でも中学の時とは違って、クラス全体が一つのグループのような感覚だった。男子ともそれなりに仲良くしている。


えーと次の授業は…なんて思いながら、支度をしていると隣の席の由紀子ちゃんが聞く。

「ねぇ、梢ちゃんさ。B組の人と付き合ってる?」

そう聞かれて驚く。

「えっ!…誰とも付き合ってないよ。」

そう自分で答えながら、私が誰と付き合ってると誤解されているのかは何となく分かった。由紀子ちゃんは意外そうな顔で言う。

「そうなんだ! 仲良くしてるからてっきり付き合ってるのかと思ってた。」

そして由紀子ちゃんは私に顔を近付けて聞く。

「同じ中学の人?」

そう聞かれて私は少し恥ずかしいと思いながら言う。

「うん、橘くんっていうんだけど。中1の時、同じクラスで普通に仲は良かったかな?」

由紀子ちゃんは少し考えながら言う。

「そっかぁ、私の勘違いかぁ…」

そして由紀子ちゃんはまた私に顔を近付けて言う。

「二人の間の雰囲気とかめっちゃ良かったけどねぇ。」

顔を見合わせて笑う。笑っていたけれど、私の心の中はちょっと寂しかった。


だって私は振られてる…。


そんな思いがチクチクと胸を疼かせる。


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