体育祭を終えて昼休みになった。校舎の中庭でいつものように翔太先輩と翔子先輩と3人でテーブルに座った。今日は、みんなお弁当じゃない。購買で買った菓子パンやサンドイッチだった。
わさわさとビニール袋の音が響く。
「てかさ、体育祭って、午前中で終わりじゃないの?」
もぐもぐと食べながら、話す翔子先輩は何だかご不満のよう。翔太先輩と星矢は顔を見合わせる。
「終わりだったら、ここにいないだろ」
「いや、そういうことじゃなくて、午前で終わり方良かったよねって話」
「そりゃぁな。確かにそう思うけど……授業日数が足りないからじゃない? 仕方ないよ。体育の時間を4時間ぶっ続けってことで午前中にしてるようなもんでしょう。午後は、普通に国語や数学あるって眠くなるつぅーの」
「部活も通常にありますもんね。もうすぐ定期テストも控えてますし」
「あーーー、テストやだなぁ」
パンを透明な袋の上に置いて、うなだれる翔子。
「先輩は勉強できそうなイメージですけど。苦手ですか?」
「どこが得意よ。聞いて驚くな? この間のテストで赤点1教科やってしまったわ。私、苦手なのよ。物理とか……あれ、絶対ムリ。他は何とか解けるけど……」
「星矢、翔子の話は信じるな。こいつはバケモンだ」
「え?! 赤点って言ってますけど……」
翔太先輩は星矢に耳打ちで真実を伝える。
「物理以外は全部満点とるやつだ」
ものすごい小さい声で話す。
「え!? まさか佐々木先生のリークが?」
「何か言った??」
翔子先輩がずずっと星矢の近くに寄った。すごい顔で星矢を見る。
「え、いや、あの、その……不正を働いているのではと思って……」
「バカじゃないの。佐々木先生はその苦手な物理担当だよ。その他の教科で点取れるのにあいつの教え方が良くない気がするわ。怨念があるのよ、きっと。
私に恨みでもあるのかしら……」
「まさかのそっちって……先輩、お疲れ様です」
「彼氏は相当意地悪なやつだな。いや、挑戦状なんじゃないのか」
翔太先輩は、頬杖をついて翔子先輩を見る。教師を好きになるって大変だとしみじみ感じる。
「それよりさ、この間、体育祭終わったら話すっていうの。ずっと気にしてたんだけど!!」
翔太先輩は、話を切り替えて、星矢に近づいた。
「あ、それ、聞いちゃいます? 忘れていたかと思いました」
「あ、そうだった。私の話なんか、どうでもいいから。言いたかったことって何よ」
ズズズイと2人は星矢に迫る。
「そんな、顔が近いですって。ちゃんと話しますから。コホン」
咳払いして、仕切り直す。
「実は、母が亡くなってから決まったことなんですが引っ越すことになりました。東京に」
「え?! いつ? 学校は?」
翔太先輩はびっくりしてベンチから立ち上がった。翔子先輩も同じように立ち上がっている。
「ちょっと星矢くん。そういうのは早く言わないと!!」
「え、でも、何か、話すタイミングがなくて……ごめんなさい。いつって、今月末までここにはいますけど、来月にはもう東京の学校に」
「嘘だろ。遠いだろ。遠距離だわ」
「そ、そうなりますね。ここからだと新幹線で2時間くらいでしょうか」
乗り出していた体を元に戻し、冷静になる。星矢は何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「寂しくなりますね……仲良くしてもらったのに」
「それ以上だよ」
「え、本当。なんで、残れないの?」
「……そうですね。金銭的な絡みとか手続きとか父の考えですから。止められないですね。すごく残念ですけどね」
だんだん星矢の目が潤んできた。昼休みが終わるチャイムが鳴る。
冷たい風が吹きすさんだ。
「教室……戻ろうか」
「はい」
翔子先輩と星矢は立ち上がり、校舎の中に入ろうとする。翔太先輩はしばらく心ここにあらずの表情になっていた。何とも変えられない現実に悔しがった。
今ここにいる空間が無くなってしまうことを恐れた。
遅れて2人の後を追いかけた。