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第23話 体育祭 幕開け

校庭のトラックにて生徒たちが順番に50m走を走っている。


3年生の担任の先生がスタートの合図のピストルを打つ。


青空がひろがり、風もない。運動着に身を包む、星矢は、クラスメイトともに、短距離走コーナーに並んでしゃがんでいた。次々と走っていく。あと5番目だ。


やっとこそ、星矢の番が来た。競うのは5人ずつ。


50m走を走る。ゼッケンをしっかりをつけて、3年の翔太先輩たちが待つ、順番係を目指す。


ゴールテープが切られた。5人のうち、星矢は3番目。甲乙つけがたい。真ん中だ。その代わり、バッチリ、3番目が翔太先輩だった。


「順番狙った?」


 無言で横に首を振る。


「あ、そうですか。まぁいいや。はい、ちゃんと記録係さんやってあげてね」


 翔太はテントで待ち構えていた記録係の3年の女子に星矢を預けた。


「はーい。1年生かな。3番でタイムは7.92だね。女子平均よりは超えてる。これ、体育祭の記録だから。来年も使うからとっておいて」


 順位と記録タイムを書いた紙を星矢に手渡した。記録タイムを聞いて星矢はほっとした。前に走った時は、男子平均よりずっと遅く9.02だった。女子の平均より遅い。今日は一段と頑張った。1人手元でガッツポーズを作った。後ろを振り向くと、翔太先輩が、こちらを見て、手をパタパタと振っていた。

 口元が綻んだ。

 周りに見えてはいけないと顔をブンブンと振った。


「星矢くん? どうだった?」


 クラスメイトの金髪ツインテール女子が声をかけてきた。名前は覚えていない。


「……えっと、7.92」


「え、うそ。早くない?! 星矢くんって運動得意そうに見えない」


「……ハハハ」


 固まった笑顔を見せる。


「いや、本当。がんばったね」


「………」


 翔子先輩以外との会話は何を話させばいいかわからない。うまく話せない。特に仲良くなりたいとも思わないからか。そもそも名前さえも覚えていない。 同じクラスなのに最近になって声をかけてくる回数が増えた。


「名前覚えてないんでしょ?」


 星矢は、目を丸くして、驚いた。見透かされた気がした。


「私、安藤菜津子あんどうなつこ。あんドーナッツだよ。わかった?」


 星矢はぶーっと吹いて笑った。


「ちょっとぉ、名前で笑うってひどくない?」


 必死で笑いをこらえて、震えた。口を両手で塞ぐ。

 それで菜津子は気に食わなかった。


「もうさ、笑ってるってわかってるから。諦めなよ」


「……ごめん」


 謝っても笑いが止められない。


「もう、自然にどうぞ。笑いは健康的らしいから」


「菜津子ー、ほら、行くよぉ」


 菜津子は他の女子に呼ばれて、先に進む。


「んじゃね、星矢くん。ぼっちくん?」


「……」


 笑いが一気に冷めた。心にぐざっとえぐられた。無表情に戻る。1人でいることにまだ抵抗感を感じていたと解釈する。別に平気なはずなのに。クラスメイトとは未だに慣れていないのは確かだ。


「工藤?」


 後ろからクラスメイトのカースト制トップである白鳥 修哉しらとり しゅうやに突然声をかけられた。


「え?」


「これ、落ちたぞ」


 親切にも、頭につけたはちまちを手に持っていたのが地面に落ちたようで、

 拾ってくれていた。


「あ、ありがとう」


「お、おう」


 白鳥は、星矢の顔が近くにあり、長いまつ毛に白雪のような肌、ほのかに香る柔軟剤が鼻に漂った。ただそれだけで頬を赤くした。

 同じクラスになっての初めての会話だった。


「工藤って……吹奏楽部?」


 立ち去ろうとすると、話しかけてきた。


「え、あ、ああ。うん。そうだけど」


「3年の部長、佐々木先輩って知ってる?」


「うん」


「あいつ、俺の幼馴染でさ。何もやらかしてない?」


「お、幼馴染? そうなんだ。うん、別に何も。部長に相応しい人だよ。」


 修哉より10cmも背が低い星矢を見下ろした。髪の毛が猫っ毛でふわっとしている。地毛でも陽の光で、茶色い。何だか小柄で女の子みたいな星矢をじっと見ているとどうにかなりそうだと動揺する修哉だった。


 「どうかした?」


 キラキラした瞳に吸い込まれそうだ。修哉ビジョンは美化されつつある。


「え、あー、いやなんでもない。なんか、やらかしたら、俺に言って! しごくから」


「あー、まぁ、やらかさないと思うけど……」


「だ、だよな。そしたら今の忘れて。じゃあな」


 ただ、会話のきっかけが欲しかった。翔子先輩が幼馴染であることは本当だが、今は、そこまで仲良くはない。話したことはない。自分と関係があることだけ伝えたかった。


 さらに星矢が吹奏楽部であることを確かめるためだった。星矢は、頭に疑問符を浮かべて、靴のひもを結び直して、昇降口に向かった。

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